第四章 1.組織の妖怪婆 皇帝
「それがこれか?」
これが、妖怪婆……もとい、皇帝の最初の発言だった
そんな言葉に、私は土下座で対応するしかなかった。
今、私は座敷の閲覧の間で独り……皇帝の傍には男女二人の護衛がたたずんでいた。
一人は筋肉隆々のゴリラ顔の男と受付の女性のような雰囲気の人だが、二人とも無表情だ。
二人は、この場所に来る前に、皇帝の配下の者が別の場所へと連れて行った。
一応皇帝は、組織の長だから、普通に謁見するなんて出来るわけではない。
「皇様……二人は……」
だが、それでも……俺は二人が心配だった……
「帝様じゃ」
「みっ……帝様……二人は……」
「おぬしの連れなら、いま、妾の配下が調べておる」
その言葉に、私は皇帝を睨……その次の瞬間、皇帝の傍にいた二人が、私に飛びかかった!!
左右からの同時攻撃……
相手の特徴は左右共に黒子の服装で表情は見えない
左からは拳、右からは回し蹴り……そう機械的に判断して私は、二人の攻撃に対して、ただ前に前進した……
そう……前へ……
それが、他と違う事があるとしたら……それは速さ……すでに私は二人を素通りしていた……
実際に自分では自覚してないが、相手からは私の姿は消えているらしい
空振りする二つの攻撃……そして……二人が振り返った時……私の手は、皇帝の目の前に……
「帝様、もう一度聞きましょう……二人は?」
私が手を少しでも動かせば、私の攻撃は皇帝に当たる……
背後の二人は……その事を理解して動けずに、私を見る……
「なんじゃ……まだ、そう日にちも経っておらんのに、もう骨抜きにされおったか?」
自分の今の状況を理解してないように、私を笑う……
「骨抜き?人を助けるのに、そんな言葉を言われるなんて、長く生きているのは見た目だけですか?」
私はそう嘲るように呟くと……
「そんは筈はない!わかっている妾は、おぬしの何倍も生きておるのじゃからな!」
目の前の老婆は、怒りながら手を振ったすると、背後の二人は警戒を解き、部屋の入口の方に立つ。
逃がさないつもりなのだろうか?
「そう慌てるでない、あの二人はちゃんと一般の客間に連れて行っておる。たとえ、お主の身内といえども、お主が存命の内に組織の事を知られるのは不味いからのう」
そう言えば一応秘密組織だった……私も両親が他界するまで、この組織については知らなかった。
「じゃからな、妾たちはそうじゃな……おぬしのバイト先にでもしておくのが良いじゃろう」
フリーターじゃからなと付け加えるようにこの妖怪婆は言った……
「フリーターって……もうそこまで情報を集めたのか?」
私が作家として活動している事は知っている筈だが……
「そこまでの情報は集めただけじゃ」
皇帝はそう言ったが……怪しかっ……
「こんな高級な所で食事なんて……いけません!きっと、朱鷺さんの貯蓄が!フリーターだから……」
あれ……なぜか……楓さんの声が……上から……スピーカーからだろうか……
「いや~なんじゃ、一応、表の企業は料理店じゃからな……接待用の料理を出したら、こう言うのじゃからな~信頼されているのう」いつの間にか手に握っていたリモコンをチラつかせながら、妖怪婆は私の顔をにやりとした表情で笑う……本気で刺したくなったぞ……
「もう良いじゃろう、その手を退けて、さっさとお土産を出さぬか~」
それもそうだ、私は拳を退くが……
「それで、持ってきたお土産はなんじゃ?ケーキか?シュークリームか?」
年甲斐もなくはしゃぐ皇帝を見て……不思議に思った
「主治医から、お菓子は控えるように言われているからのう~」
それでこんなにはしゃいで……だが……買う暇もなかったのが……現実で……
こんな……子供のように喜ぶ皇帝に……忘れてというのは怖かった……が……言わないと話が進まない……
「それで、なんじゃ!おぬしから甘いクリームの匂いがするからのう!」
この老婆……嗅覚が鋭い!もう一時間以上前に食べたクレープの匂いに……気づいて……
普通感覚が鈍くなって、気付かなく……
「うむ!これはクレープじゃ!どうじゃ!当たりじゃろ?はよう、妾に差し出すのじゃ!」
老婆の眼は……本気で幼子のように輝いていた……
「すまない……買う時間が無かった……」
そう言った瞬間……老婆の顔は凍りついた……そして……その眼には……涙が……
「ボスを早く奥の部屋へ!」
無くそう思った瞬間、無表情だった背後の護衛の一人が、取り乱し、そう吠えながら皇帝に近づくと、担ぎあげ、慌てて部屋から出て行った……数十秒後……陶器が割れる音と壁に叩きつける音が聞こえた……
茫然とその音を聞いている私に……もう一人の護衛が……哀れむ表情で
「親方様は……楽しみにしていらしたのですよ……甘いものが食べられると……」
そこまで楽しみにしていたんですか!組織の長が……たかが……甘いものを持ってくるのを忘れただけで……
ブ~ブ~ブ~……携帯のバイブ音が鳴り、携帯を取り出すと……
「メール……って……皇帝……」
皇帝からのメールを……私は、恐る恐る開く……
件名なし
本文
別に泣いてないんじゃからな!
それよりも、妾との約束を破るとは、いい度胸じゃな!
妾の楽しみを無残に破る事が出来てさぞかし気分が良かろう!
私は一度携帯から目をそらした……
やばいな……手を貸して貰えるどころか……このままじゃ……最大の敵になりかねない状況だ……
「親方様は、街の外に護衛無しでは出られぬ御方ゆえ……本日のお土産を楽しみにしてらしたのですよ……」
まあ……一組織の長が護衛抜きで街なんていけるわけもないし……それ以前に、あんな妖怪婆を外に出す事なんて……危険極まりない……下手に出せば、確実にUMA扱いだぞ……
「この続き読むのがすごく怖いんですが……なんとかなりませんか?」
続きを読む怖さに護衛の人に聞くと……
「まあまあ、言う事をひとつ聞くとでも書いていれば、親方様の機嫌も良くなりますから~」
他人事と思いながら……くっ……私は恐る恐る続きを読む……
クレープじゃぞ!クレープ!おぬしらばかり食べおって……妾だって……妾だって……喰いたいんじゃ!!
許してほしかったら、その分の償いを考えるのじゃな!考えきれなければ、妾は……確実に今回の件はおぬしの敵になるのじゃからな!覚悟するのじゃ!
以上!
うわぁ…………面倒だ……本気でとどめを決めていた方が、敵も減って良かったかもしれないな……
そんな事を考えながら、償いの方法を考えた……
あの婆が気になる事……
まずは、甘いものを主治医から制限されている事でしたね
つぎに、外に出られない……護衛が居れば問題ないだろうが……そうだな……これぐらいしかないか……
俺は携帯に返事を書いた……
今度、街へ償いで連れて行きます……それで許してもらえないでしょうか?
まあ……許して貰えるか、わからないが……一応書いてみた……
数分後返事が来た……
件名
そこに居る護衛には黙れ
本文
街へ連れて行ってくれるのじゃな!それなら、ぜひ連れて行ってほしい人物が居るのじゃ!
妾は忙しくて外には出れぬが、代わりに、その者を連れていってほしいのじゃ!
その返事の内容に少し疑問に思ったが……喜んでいるようだった
私はすぐに、その人物は誰だと返信をした
「随分早く打ち込みますね~苦戦しているんですか?」
そんな私を護衛はニコニコしながら眺めている……
「まあ、そんなとこです」
これ以上皇帝を怒らせては、いけないので、私はそう答えた。
その後の返信内容は……その時になったら教えるそうだ……
おそらく、相手との時間調整だろう……
そう考えていると、なにやら、日曜の朝のアニメで使われてそうな曲が聞こえて周囲を確認すると……
護衛が恥ずかしそうに携帯を取り出した……
「はい……新草(あらくさ)です……元気が無い?……仕方がないでしょ新島(にいじま)……マナーモードにし忘れて……ええ、私が悪いですよ……」
世間話をしているが、相手はどうやら、皇帝を連れていった方の護衛からだ……
どうやら、この女性の名前は新草であのごつい護衛は新島か……内容は、皇帝の機嫌が直ったから、食事のお誘いだそうだ。
「ええ、こちらは、参加でしょうね……じゃあ、あとで合流しましょう」
そう言って新草さんは電話を切った。
そして、私を見ると……
「一応、聞くけど……食事会参加するわよね?」
既に参加するような話をして置いて聞いてくるとは……どうせ……断ってまた機嫌を悪くするのもあれだ……
「参加させてもらいますよ……」
そう言うと、新草さんはにっこりと微笑んだ
「賢明な判断ですね……それと、私の着メロの事を余所で話しようなら……容赦はしませんから……」
笑顔でこんな脅しをされるとは思っていなかった……
後日知ったが、この護衛の表の仕事は看護師と聞いて、天使の姿をした悪魔を想像してしまった。
この組織は表と裏の職をちゃんと持っている人が多い、それに、年齢は裏の職によって、子供から老人まで居る。
その全てが、知り合いという訳ではなく、互いに深く関わらないようになっている。
これも、組織の守秘義務などに関わる事だ。
本部は、料理店ハローワールドに偽装されているが、支部ごとに、デパートだったり、本屋だったり、コンビニだったりもする。
前にコンビニの支部に行った時は……組織の開発係が独断で自作のゲテモノドリンクを販売していて、それを止めさせた……組織は完全に統率されているわけでもないという事だ。
まあ、それは置いておいて、さっさと行かないと……大変なことになるな……
意識的に聞かないようにしていたが……いまこのときにも……あの二人は、私がフリーターで今日も無理して服を買ってくれたりして、お金はもう無い筈だと言い続けているのだ……
そして……
「凪!なに食べているの!それも……こんなに!」
楓さんの怒鳴り声……
「楓……うるさい……これは……茶菓子……お茶と一緒に食べる……ものだ……」
茶菓子?接客だから茶菓子で良いのか……でも、それくらいならこんなに慌てなくても……
「凪……そんな事を言ったら……もし……もし……このあとぼったくりで……お金をたくさん請求されたら……どうするのよ……」
あ~!早く二人の所に行かないと!隣で新草さんが、笑いをしきりに堪えながら、私を見て
「いや~愛されているわね~」と私の肩をぽんぽん叩いた
「じゃあ、お姫様たちの所へ案内しようか」
私は……力の無い表情で……ついて行った……って廊下でも流れているのか!?
廊下ですれ違うたびのクスクスと笑われるのは……精神的に辛いものだった……
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