第四章 2.私の護りたいもの
二人の場所に案内された私は、あたふたしている楓さんを落ち着かせながら、此処は仕事先である事を伝えた
「朱鷺さん……ひどいです……此処が朱鷺さんの職場なんて……それなのに……取り乱して……」
「楓は……朱鷺に……迷惑……黙って……大人しく……している……べき……だ」
そんな様子を見ていた凪ちゃんは、茶菓子……やけに高級そうなお菓子を食べながら……
空の器を……持ち上げると……さっと……誰かがお茶を注ぐ……
「あり……が……と……う」凪ちゃんがお茶の礼を言うと……その人物は……
「マジ良いっすよ!今淹れてきたばかりですから、お嬢ちゃんが喜んでくれるなら……それで……きみは、トキの知り合いだよね?俺も俺も、このあと暇だったら……」
凪ちゃんは、その人物を嫌そうに睨む……
「うっ……あっ……良い!!その冷たいまなざし!もっと見て!」
お茶を持ってきた人物は身もだえしながら……私に気づく……口をへの字にして私を見る……
「なんの真似だ?」私はその人物に一言たずねた……
「たっ……鷹羽先輩……あの……その……これは……この可愛い子たちの接客を……誰かの連れなんですけど……トキって奴なんですけど……絶滅危惧種と同じ名前をしたやつで……もう絶滅したんじゃないかなって……」人が気にしている事を……容赦なく言いながら……言い訳をしている……
それどころか、おまえ……知り合いって言っておきながら舌の根も乾かぬうちに……
「それで、思うに、トキってやつは……フリーターの甲斐性なしで、この子たちをひどい目に……」
ああ……もう殴っていいかな……そう思った時……
「朱鷺……これの……知り合い?」
「朱鷺さん、この人の知り合いですか?」
二人が言い訳をしているこの男を指さしながら尋ねた……
「えっ……トキ……」眼を見開く男……
「ああ……後輩ですよ……」
私は……楓さんたちにそう言うと……
「私が……絶滅危惧種と同じ発音の名前の朱鷺ですよ」
私はそう言うと……後輩の肩を掴み……
「ちょっと、彼と会話をしてくるので……新草さん、二人をお願いしますね」
「ええ、最近その子、調子に乗っているから、絞ってきてね!」
新草さんは親指を立てながら私を見送って……
いまだに状況を理解出来てない後輩は……
「えっ……えっ……えっ!!!」と訳のわからない驚きを繰り返していた
***
「それでは、我らが同僚……鷹羽…………んっん、朱鷺とその新たな家族の未来を祝って……乾杯!」
店長がそう言うと同時に、皆は手持ちのコップをぶつける。
私は一気に器の中身を飲み干す……
まったく……久しぶりに本部に来て……こんなに疲れるなんて……
そんな事を考えていると、空になった器に……ビールが注ぎ込まれる……
「すいませんね……彼は女癖が悪く……根性を叩きなおしたと思っていたんですが……」
新草さんだった……
「まったくですね……知らない相手を馬鹿にするなと……さんざん教えて……私が馬鹿にされるとは思いもよりませんでしたよ」私はまた一気に飲み干す。
「良い飲みっぷりですね~」
そう言いながら、また器にビールが注がれる……
私は礼を言うと、二人の様子を見る……料理に驚いていたが、味にも満足している……
楓さんは、隣の人に、私の事をよろしくお願いしますと、頭を下げ……
「おかわり……」凪ちゃんは……本領を発揮させ……空になった大皿を掲げて
「おう!嬢ちゃん!お待ち!」料理長に気にいられていた……
「よく出来た姫さま方ですね」
皆はそんな二人をほのぼのと見ていたが……男性陣は……ちょくちょくと……私も見ては怯えていた……
これはやはり、後輩の再教育の賜物だろうか?
「それにしても、後輩には少し困りましたね……」
私は組織に入っているが、もう現役ではない……既に、能力の限界に達している……
だから、後輩たちに、任せられるように鍛えたが……精神面までは上手く出来なかった
だが、それで良いのかもしれない。ここは組織なのだ、同じ考えの人間ばかりでは、可能性が狭まり、見える筈のものが見えなくなる……だから、たまにはあんなのも必要だが……度が過ぎているのもいけない……
「なに、辛気臭い顔しているの~さあ、飲んで飲んで!」今日は祝いの席だ……さあ、飲……
「朱鷺さん!」急に楓さんが怒鳴り声を上げた……
楓さんが……赤い顔で……フラフラしながら、私所に移動してくる……
「朱鷺さん……そんなにデレデレして……そんなに嬉しいんですか?」
ん……あ……お約束と言うやつですか……
「誰です!楓さんにお酒を飲ませた馬鹿は!」とりあえず、場がグダグダになる前に制裁を……
「妾じゃ」
この妖怪婆!!なに未成年に酒をすすめとんじゃ!!
と叫びそうになったのを抑え……
「楓だらしないな~この程度のお酒で~もう一杯~」
凪ちゃんが饒舌!?これがお酒の効果だと!
「凪はいける口じゃな、ほれほれ」
妖怪婆が注ぐ酒が、零れそうになるのを凪ちゃんは慌てて飲む
「美味しいな~朱鷺も一緒に飲もうよ~」いつものおどおどした感じが消えて、普通の子のように微笑む……その微笑みを見て……私の胸はチクリと痛んだ……
私が……もっと早く……連絡を取っていれば……この笑顔が……こんなときにしか……出るようなものじゃなかったのに……
「う~コラ~朱鷺さん!なに凪ばかり見ているんです!私も見なさい!」
ヨロヨロした足取りで、楓さんが私の所にたどりついた……
「別に……凪ちゃんばかり見ていたわけでは……」
「それなら私も見ていてくれるんですね!嬉しい!」私の答えに楓さんは人の目も気にせずに抱きついてきた!
「見せつけてくれるじゃねぇか!」「くそ~若い娘と同居なんて……」「先輩……いや、師匠と呼ばせてください!」
外野が……騒がしくなってきた……だが……雲行きは……これ以上悪くなることは予想できた……なぜなら……
「楓、ずるい!ぼくも~朱鷺に抱きつくよ~」
凪ちゃんも……抱きついて来たからだ……
「凪!朱鷺さんが困っているでしょう!離しなさい!」
「いやだよ!楓こそ!酔っているんだから、気分が悪くなる前に手を離したら!」
「別に気分は悪くならないわよ!」「悪くなるもんね~」
私に抱きついたまま二人は喧嘩を始めてしまった……
周囲はこの状況を肴に酒を飲み始めるし……もう諦めるしかないのか……それに……雑念を捨てないと……私の理性が耐えられなかった……
両サイドから押し付けられる柔らかさと……甘い匂いに……理性が狂う前に……私は……気絶を選び……自らの首に手を当て……意識を失った……だが……意識を失う直前に聞こえたものは……
『朱鷺』誰かが私を呼ぶ声と……頬に柔らかい何かが触れた感覚だった
***
それから、眼を覚ました後も、どんちゃん騒ぎは続いていたが、時間なので帰ろうと思ったが……二人は酔い潰れて眠ってしまっていた……
「では……この二人の件はお任せします」
二人を抱きあげながら、私は皇帝にお願いした……
「うむ……出来る限り、力を貸す事を約束するのじゃ……じゃから……」皇帝が人差し指をくいくいと動かし、私に近づくように命じる
「妾との約束を違えるでないぞ」と護衛に聞こえないように小声で言った……が……その護衛二人は……ゴリラ……もとい新島は腹踊りの真っ最中……新草さんは……
「野球す~るなら……」古っと思った音頭を取りながら……野球拳をしていた……
現在キャミソール状態で10人抜きをして……あっ……また一人脱がされた……
「これ!急がぬか!もう終電じゃろう!」長居しそうな私を皇帝は急かした
「ええ、それでは失礼します」私はそう言い今度こそ、アジトを出て行った。
なんとか、援助してもらう事は決まったが……問題はここからだ……おそらく、相手のこれからの目標は……私に対する嫌がらせ……下手に騒ぎを起こして警察に眼を着けられる事を避ける方法だろう……
例えば……
郵便物に生ごみ、動物の死骸等……庭に投げ入れられる可能性もある……
だが最も効果的な私を敗北させる方法……やはり……
私は、抱きかかえている二人を見る……この二人をターゲットにして狙う事……
もし彼女たちを護れなければ……私は、おそらく……耐えられないだろう……
だから……私は全力で彼女たちを護らなくてはいけない……
「んっ……ん……」春と言えども、まだ外は少し肌寒く、二人が身動きをし……私の首に腕を回すときつく抱き締める……私で暖を取っているのか……
何度か、もぞもぞ動いて、ちょうど良い位置を見つけたのか、寝顔が穏やかになる……
「絶対に……護るから……」私はそう呟くと……彼女たちを支える腕に力を込めた。
余談だが……目覚めた後……二人は、なぜか顔を赤くしており……
「あれは……あの飲み物が悪いんです!」なぜか私の顔を見て怒る楓さんと
「ぼく……」と顔を赤くして私を見る凪ちゃん
いったい何があったのか……私には理解できなかった。
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