願う事は無自覚な幸福
@kisaragikanoto
第一章 1. 訃報
貴方は、人の為に言葉を作って、
貴方は、人の為に世界を作って、
貴方は、人の為に言葉で世界を書いた。
でも
貴方は、自分の為の言葉は持たない
貴方は、自分の為の世界を持たない
貴方は、自分の現実の世界を持たない
誰かの為に作った世界で誰かの為の言葉で生活をする
作家という仕事をしている私は、キーボードから手を離した。
いま作っている物語の主人公が言われたセリフが自分に言われている気がした。
その主人公は、予言者で、人の未来の為の言葉しか話さなかった。
それだけが自分に出来る事だったから、予言者は予言を続けたが、
予言者は、ある日出会った人に…さっきの言葉を言われる…
その言葉を、目で読む…
自分の為の言葉か…自分が書いた文章を自分で読み、溜息をついた。
世間は春休みに入り、桜は咲き誇る出会いと別れの季節…そんな時期に私は…
スランプ中だ…自分の作った言葉で、こんなに落ち込むなんて…
机で頭を抱え込んで…キーボードが…肘で押した変な記号がパソコンに打ち込まれて、更に溜息を吐く…早く…作らなければいけないのに…
その瞬間、携帯電話が流行遅れの着メロが鳴る
編集者からか…
私は、電話を取る…
内容は、しばらく休暇を与えると言うことだ
その間に、調子を取り戻さないと、後は無いということか…
連載作も全て終わらせたから、丁度良いかもしれない…もう止めても、
生活出来るだけのお金もあるから…
そう考えていると
そのことを伝えてくれた編集者は、私に頑張れと言った…
自分の作品が好きだから、元気になってくれと…
私はその編集者に、お礼を言うと、電話を切った瞬間…
着信が他にきている事に気がついた。
作品を作るのに集中していて気がつかなかったのか…
だが、知らない番号だったから、消そうと思ったが、留守電に何か入っていた。
いつもは再生すらしないのだが、ほんの気まぐれでそれを再生した
それは、離縁した実家からの電話…
作家になると決めたときから、出て行った家からの電話だった。
いつもなら、無視していただろうが、仕事を止めようと考えていたから
私は、電話をかけることにした。
だが、電話を取ったのは弁護士だった…
そして、話されたのは、義理姉の死だった
義理の姉は、私の兄の妻で、私が作家になるきっかけを作ってくれた人
そして、私の初恋の人だった…だから、作家になって飛び出したのは、
あの人が幸せな姿を、自分じゃない別の人に幸せにしてもらっている姿を見たくなかったからかもしれない…
死んだなんて、信じたくは無かったが…あまり実感がない
大切な人が死になんて、話を書くときに何度も味わうせいで
実感がないと言うのだろうか?
兄はどうしたのか聞くと、私は呆れた
借金を残して逃げたらしい…
電話をかけた理由は、それに関してあるそうだ
義理姉さんは、兄の借金の保証人で負の遺産として、借金が、私に来るというのだ
だから、遺産を相続するのを断って欲しいそうだ
とりあえず、私はその書類を書くために、実家に帰る事となった。
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