第一章 2.義姉の忘れ形見

私は作家になって初めて実家に帰ってきた

「実家に帰るのは久しぶりだな」

私は、和風の家をみる…


鷹羽家

私の兄 鷹羽修造(たかはね しゅうぞう)が引き継いだ家

私は家の呼び鈴を押す

「朱鷺(とき)ですけど…」

「ああ、今すぐ門を開けますね~」

それは、懐かしい女性の声…義理姉さんの声だ…なんだ?死んだと聞いたのに…

やはり間違いか?いや、悪戯だったのか?

姉さんが生きているという事は…私を実家に呼び出す為の罠?

そんな事を思考していたが…それは、姉の死を否定する為に考えているのではないのかと、自分に問うが、門が開き始めたので思考を中断する。

「朱鷺さんですね、話は伺っています。」

それは、姉さんの声で姉さんではない…門から出てきた彼女は…

桜柄の黒い着物を着た長い髪を動きやすいように後ろで纏めた若い女性で、

自分の記憶にある姉さんよりも若い…

ああ、そう言えば、姉さんは再婚だったな…確か、娘がいた…

「ああ、御邪魔するよ」

私はそう言って、敷地に入る…

「おかえりなさい」

いきなり、そう言われて、その子を見る…

「あっ、あれ?変だった?お母さんの話じゃ、実家だったよね?」

不思議そうな顔をする

「いや、私はこの家を捨てた者だからね…

本来なら仕切りすら跨げない人間だから、おかえりと言われるなんて思わなかったんだよ…」


実際は、捨てて、捨てられた様なものだが、今は関係ない…


「そうでしたか~てっきり、違ったのかと思いました」

安心したように胸に手をやり、息を吐く、私を案内する為に先を歩くが…急に立ち止まり…

「あっ、私の名前…まだ言っていませんでしたね」

いきなり後ろを振り返った為に…私の頬に、彼女の束ねた髪が当たった…


沈黙…


「あっ…あ!!ごめんなさい!!急に振り向いたりして!!」

先に沈黙を破ったのは、彼女の方だった

「いや、別に構わない…それより、名前を言うのではなかったか?」

私は彼女を落ち着かせ、話を聞く…髪で叩かれた頬を撫でながら…

「本当にごめんなさい…うぅ…こんな筈ではなかったのに…」

彼女は両手で顔を隠しながら私にまた謝る…

初対面で、こんな事をすると、それ以降の印象が決まるのを、恐れているのか?


「いや、本当に気にしてない、姉さんもそんなドジをよくしていたから、よく似ているよ」

私は、無理して笑いながら言った…


彼女は、私の話を聞くために、顔を上げた…

どうやら話を聞きたいらしい…私は内心ガッツポーズをしていたが

確かに…姉さんは、おっちょこちょいと言うか…抜けていた。

「母さんも?」

「ああ、よく着物の裾で足を引っ掛けてね…助けに近寄ったら、急に頭をあげて、

顎とかよくぶつけたし…」

私は顎を痛そうに撫でながら話すと

「母さん…そんなドジを…」口を押さえ笑いを抑える彼女…

だが、次の瞬間…驚愕した顔になる…

「そんな私はドジッ子に見られているのね…」

また、顔を隠す…

「ころころ、表情を変えて、姉さんは、とても明るい人だった。

確かに抜けている所もあったけど、それは彼女の愛嬌に私には思えた…

だから、気にしなくていいよ、それも、君の個性だから…」

彼女は、顔を上げていた

「母さんを…そんなに見ていてくれていたんですね…」

微笑んでいる彼女は、本当に姉さんに似ていた…

「まあ…ね…そう言えば、君の名前は?」

久しぶりに熱くなったのを、誤魔化すように、私は再び名前を尋ねた

「私の名前は鷹羽 楓(かえで)です。」

楓さんは、そう言って頭を下げた



***



「母さんは、本当に朱鷺さんの事を良く話してましたよ」

姉さんの死は本当だった…

「線香の一つもあげずにすまなかった…」

私は仏間に連れて行かれ、その事を謝った

「仕方ありません…私たちも…連絡できませんでしたから…」

姉さんの死を受け入れ、この子は頑張っている

「それで、書類の方は?」

「書類は、もうすぐ、弁護士の方が来ますので、その時に…」

「わかった」

私は頷くと、それまで、家の中を見てまわりたいと言うと

「そうですね、久しぶりの実家だから、見たいですよね~変な事をしないのでしたらどうぞ~」

と笑顔で見送られた…

信用されている、思ったが…初対面の人間を簡単に信用出来るのだろうか?

とりあえず、庭でも見てこようと、窓を開ける…

懐かしい光景…産まれて、中学を卒業するまで居た家…

私は、草履を履き、庭を歩く…

「昔と変わらない…」

眼をつぶると…姉さんがいた頃を思い出す…



あの頃は、自分だけの言葉が…

後ろを向き、家を見ると…二階の自分の部屋だった場所が見えた。

久しぶりに、自分の部屋でも見てみるか

その前に、その部屋は、誰が使っているのか聞かないといけないな

「楓さん、楓さ~ん?」

彼女の名を呼ぶが返事がない…

私は、少し考えた…

無許可で見に行くべきか、許可を得て見に行くべきか…



確か姉さんが居たときに、空き部屋は一つあったから…私の部屋が使われることは無いはずだから…誰も居ないと思うけど…

そう考えると、別に大丈夫だろうと思って、私は二階に上がって、自分の部屋の前に立つ…

とりあえず、ドアを二、三度ノックしたが返事は無かった…

私はゆっくりとドアを開けた…部屋の中は暗かった。



「昼間と言うのになんて暗さだ」

私は、この暗さの原因であるカーテンを開けた

私は部屋を見る…私が使っていた机…本棚…私が使っていたベット…だが…

カバーが違っていた…そして…そのベットでは…女の子が眠っていた!?




「うわっ!?」

私は驚いて声を上げる!!

なんで、私の部屋に女の子が!?

「どうかしたんですか?」

楓さんが、私の声を聞きつけ、二階に上がって来る

「この人は…?」

「ああ、この部屋、朱鷺さんの部屋でしたね…すいません、言い忘れてました」

「この部屋は、現在私の妹の凪(なぎ)の部屋になっているんです」

楓さんが、眠っている女の子に近づく

「凪…起きなさい…凪…」軽く揺らすと彼女は眼を開けた

そして、上半身を起こすと

「おは…よう…」かすかに動いた口でそう言った

私が彼女を見て思った第一印象は…日本人形のような女の子だ

腰まである長い黒髪を縛る事無く…体に流れさせ、無表情な顔は、なにを考えているのか…わからない

だけど…能面とは違う…なんとも言いがたい感覚だった

「おはよう、凪」楓さんはそう言うと、私の手を掴む

「凪、お昼の準備するから、着替えて降りてきなさい」

凪さん…いや、この子はさんよりも、ちゃんが似合うな

凪ちゃんは、その声に反応したのか、軽く頷くと…ベットから降り着替えだした!?

「朱鷺さん!!なにを見ているんです!!早く出ますよ!!」

私を慌てて楓さんが引っ張り、部屋を出る

そして、二階の廊下まで引っ張ると、楓さんは、ドアを閉め、私を睨む

「まったく!!女の子が着替えるのに、なにを見ているんです!!」

さっきの私の態度を怒っている

「見ていない!!驚いて呆然としていただけだ」

確かに少し見えてしまったかもしれないが、あれは不可抗力で、私にはどうする事も出来なかった筈だ!!

「なら!!なんで、すぐに部屋を出なかったんです?見たいと思ったからでしょう!!」

なぜか凄い、怒られている私…だが、私には弁解する余地があった

よく思い出してみて欲しい…


「楓さんが手を握っていたでしょう」


“回想開始”

「おはよう、凪」楓さんはそう言うと、私の手を掴む

「凪、お昼の準備するから、着替えて降りてきなさい」

凪ちゃんは、その声に反応したのか、軽く頷くと…ベットから降り着替えだした!?

“回想終了”


挨拶を言った後に、楓さんが手を握っている

故に、私からは動けない


「そんな事…え…と…普通…手を握っていたら、私でもわかるはずですよね?」

その事を私に訪ねてくる理由はわからないけど…現に証明できる手はあった…

「何で、私に疑問系で聞いてくるのか知らないけど…今も私の手を握っているのは…

自覚してですか?それとも無意識ですか?」

未だに掴まれている手を私は掲げて見せると…

「きゃ!?」驚いて手を離した

悲鳴を上げて手を離されると…ちょっと傷つくな…そんな事をちょっと考えてしまった

「いえ、自分がまだ手を握っていたことに驚いて!!嫌と言う意味で、悲鳴を上げたんじゃなくって…」

「普通、知らない人に触られたら…そうでしょう」

私は気にしないそぶりを見せた

「すいません…」私の気づかいが理解できた為に気落ちした

「そう言えば、凪ちゃんについて、何も聞いていないけど…」

さっき会った少女について私は聞いてみた。



少しでも、今の空気をどうにかしたかったから、別に他意はないと自分に言い聞かせた

「凪ですか…凪は…人見知り…という訳では無いんですけど…無関心なんですよ」

さっきの彼女の様子から見て、確かに私が居たのに、気にしていなかった



「今は、これぐらいしか言えませんけど、凪はいい子です。これだけは、保証しますよ」

と笑顔で私に言うと、背後でドアが開いた

「ご飯…まだ?」楓さんと色違いの白地の着物を着た凪ちゃんが出てきて、

楓さんは、慌てて準備してきますねと言って、一階へと下りていった。



取り残された私は、別にどうするわけでもなく、立っていた。

無関心なら、気にもしないで、私の前を通って一階に下りると思ったからでもある。

だけど…凪ちゃんは、私の顔を見て…

「誰…おじ…さん…?」

私は叔父さんであるが…おじさんと呼ばれて平気な年齢じゃなかった…

「あっ叔父さんは…朱鷺って言うんだ。君たちのお父さんの弟さ」

私は頭を低くし優しく、凪ちゃんに言うと…

「違う…朱鷺…違う…おと…うさんの…おとう…と…違う…」



凪ちゃんは私を怯える様に、そう言うと…一階へと下りて行った

「朱鷺じゃないね…」私はそう呟くと…理解した。



ああ…凪ちゃんのお父さんは、確かに違うか、兄と結婚する前の人との子供だから、

確かに、お父さんの弟じゃない

「朱鷺さんの分のご飯も準備しましたけど…どうします?」

一階から、楓さんの声が聞こえた







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