第一章 4.提案

楓さんが弁護士を私の前に案内してきた。

「わたくし、弁護士の前田孝雄と言う者です」

男は律儀に、名刺を渡してくる。

「あっ、どうも…」私はその名刺を片手で貰い机に置いた。

すると、その男は、私を侮辱するように笑うように見えた…

「ひとつ御伺いしますが、貴方の、職業は何ですか?」

何だ?職業とか言わないといけないのか?そんな義務は無いはずだ

「守秘義務です」とりあえず、誤魔化した。

「ふん、所詮フリーターか何かでしょう…では、書類を出しますね」

なるほど…どうやら、この男自分の名刺を、片手で受け取られた挙句、その場に置いたのが、気に喰わなかったようだ。

「書類さえ書けば、前田さんとは、二度と会わないでしょうから、名刺なんていらないでしょうけどね」

そう言いながら、私は書類を受け取るが、その前に、私は懐に手をやった。

書類を見ながら、私はちらりと弁護士の方を見ると…機嫌を損ねている。

やはり、この男は、自分に敬わないと気に障る性質のようだ



「これが書類ですね」私はわざとらしく、声に出して言う

「ええ、これで、貴方のお姉さんの残した借金が貴方にこなくなるんですよ」

嫌味ったらしい声で返事をしてくる…正確には、お姉さんではなく、兄のだろ


「じゃあ、ここにサインしますね」私は手軽にいつものようにサインをすると

弁護士に渡した

「では、受け取りますね~これで、OKです」男は薄ら笑みを浮かべながら、書類を受け取ると、

「では、これで失礼します」と席を立とうとしたが、


「その前に、少々話さなければいけない事が…」

「何です?私のような無学な人間と、なにを話したいんですか?」


私がそう言うと、男は、鼻で笑いながら…自覚してるかと言いたげな目だった

「ここでは、あれですので、ちょっと庭に出てきてください」

私は姉妹のことかと思い、しぶしぶ、男について行った。



***

「貴方は、あの姉妹についてどれくらい知ってますか?」

庭を歩きながら男は尋ねてきた

「今日、初めて話しました」

私は正直に答えた

「いえ、その事ではなくって、これからの事ですよ」

母親は死に、父親は失踪でどう生活をするのかと言いたいのか?

「いいえ、知りません、ですが…親戚の家か、兄の友人の家、もしくは、ここで暮らすのでしょう?」

私がそう答えると、男は残念そうに…いや、残念がってみせた

「貴方の言うとおり、初めはそうでしたが…あの子たちを引き取る家が、拒否してきたんですよ」私は眉を顰めた

「あの子のお父さんの事は知っているでしょう?借金残して失踪」

「ええ、実の兄ですから、よく解りますよ」皮肉を言っているのだろう。

男はわざとらしく謝ってきた


「そのお金を借りた所なんですけど、悪い噂ばかりでして…お金を返さなかった腹いせに、いろんな事をしてくるんじゃないのかって、噂があって、拒否してきたんですよ…」

「ですが…それが?」

「実際はこの家と土地を売り渡す事で、借金は無くなるんですが…その噂を信じきって…何処も引き取らないんですよ」

要するに私に、押し付けようと考えているのか?

そして、私の金銭や収入じゃ、養えないと…いい度胸だ

「良いですよ、私が養いましょう」私は笑顔で言った

「なんですって!?あの子達は、15歳、そんな子供を貴方のような低収入が、養えると…」やはり、私の収入を見くびって話してきたのか

「いえ、大丈夫です、今までの蓄えもありますし、二人とも学校に入れて見せましょう」私は、余裕の表情で、そう言うと

「さっそく、手続きお願いしますね~私はこの事を、あの子達に話してきますから」私は弁護士の肩を叩いて、家に歩くが…

「あと、弁護士の癖に、人の弱みを握るよう真似をするなよ、それじゃあ、ご苦労さん」

私はそう言って、再び家に歩き出した

後ろで弁護士が地面を蹴る音が聞こえ、私は懐に手を伸ばした

玄関を開けると、ちょうど、二人ともいた

居たのは良いが…どう話を切り出そうか…迷っていたが…

「何の話だったんですか?」楓さんが話しかけてきた。

「実はさ、さっき楓さんたちを引き取る筈の家の都合で引き取れなくなって…」

「やっぱり…借金の話ですか…」ありゃ、少し落ち込ませてしまったか…だけど…ここからが腕の見せどころか

「実は、その為に別の所で引き取る事になりました」私は、明るく話す

「受け入れてくれる所なんて…あったのですか?」私の話している様子から、希望を持った目で私を見る

「私の家です」なぜかこの一言で、絶望に堕ちた

「朱鷺の…家…養え…ない」凪ちゃんがボソと呟く

「な~に、二人を学校に入れて、生活するくらいの金はあるさ」私が力強く言うが

「フリーターの朱鷺さんが溜めたお金ですよ!!もっと自分の事に…」ああ、私の事を心配してくれていたのか

「気にしない、気にしない~もし…それで自分の気が済まないなら、働けるようになってから返してくれれば良いよ」

私は二人の頭を撫でた

「私は、お前の叔父だ、今まで何も出来なかった分、何かしたいじゃないか」

その事を言うと、楓さんは、頭を下げ…

「お願いします…」涙を流しながら私にお礼を言った

凪ちゃんの方は…

「朱鷺…ありがと…」軽く微笑んでくれた

それから、数日後…私は二人を私の家に引き取った…



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