黄昏と白夜

 むかし、アジモフの『人間への長い道のり(ハヤカワ文庫)』で歌や音楽や詩が取り上げられたのを読んだ。その中に古代ギリシャのエピソードがあった。

 いわく、ある弱小都市国家がスパルタに因縁をつけられて戦争をふっかけられた。その弱小国が巫女をたてて神託を聞かせると、アテネから兵を借りろという。さっそく使いを送ると、アテネはスパルタに睨まれたくないので足の不自由な老人を一人だけ貸した。

 いざいくさが始まると、アテネからきた老人は楽器を演奏して歌を歌い、勇気百倍した兵士達はふるいたってスパルタ軍を追い払ったそうである。

 さよう、歌は偉大だ。とりわけ歌うことは。

 本作で、主人公は理不尽な運命をむりやり負わされている。それに従い続けるだけの人生を送っていれば、いずれ破綻破滅を迎えるのはわかりきっている。さりとて逆らえば良いというものでもない。だいいち単なる感情論で横暴に振る舞うには、主人公は賢すぎる。

 だからこそ、主人公には歌う動機がふんだんにある。これこそ感情移入であろう。

 必読本作。

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