いつか僕の世界に夜空が落ちても
pico
01 捨てるばかりのみじめな日々で
絶望のさなかであの日、僕は君に出会った。
あの日から僕は、君が
どさどさっ。
机から、
はぁ、と息を
「聞いた? ヤマセくん、自殺したってうわさ」
「ヤマセくんってあの、
同級生の
(お母さんに、なんて言おう)
成績は今回も、くだり坂。人生を、ゴロンゴロンと転がりおちる音がする。
塾を出ると、めまいがした。
通いたくもない塾ですごす時間は苦痛で、呼吸すらもままならない。
だからといって、家にも帰りたくなかった。
中学2年になって、成績は順調に落ちている。
(なんでこんなに勉強しなきゃいけないんだろう)
夢も希望も目標も、理想すらないのに。
点数ばかりを追いかける日々に、萌は疲れはてていた。
「♪ふり返らず 目の前の道を踏みしめいこう」
「♪倒れたら立ち上がればいい 花咲く未来が君を待ってる」
なかばやつあたりの気持ちで、
「2人のギター、10
10
聞くにたえないレベルではあったけど、ふだんなら絶対こんなことは言わない。
「ちゃんとチューニングしてください」
ぽかんとまぬけ
あぁ、ダメだ。今日のわたしは、本当に
昔から、
小さい頃の夢は、歌手。今はもう、そんな希望は捨ててしまったけど。
やりたくて始めたピアノ教室も、中学受験失敗を
中学で入った合唱部も、塾の成績がさがった時に退部した。
大切なものを捨ててまで勉強してきたのに、成績は思うように上がらなかった。
(今回はなにを、捨てればいいんだろう)
夢も、目標も、楽しみも捨て続けて。
もう萌の手元には、なにも残っていなかった。
「……ふふっ」
歩行者通路を進むと、別のミュージシャンが笑い声をもらした。
「……なんですか?」
「いや、スゲー捨てゼリフだなと」
さっきの2人への
年はそんなに離れていないように見える。
持ち物はギターだけ。マイクもアンプも、
「チューニングすらまともにできないなんて、ギターがかわいそう」
「たしかに。ほんとに音感、いいんだね」
「あれだけズレてたら、だれでも気付くよ」
ギターケースには、いくらかお金が投げこまれている。
硬貨だけでなく、お
きまぐれに、興味がわいた。
「ねぇ、なにか歌って」
「いいよ。なんか、お題言って」
「え、
「うん。いま一番聞きたいカンジの曲、作るよ」
「じゃあ……『生きるのしんどい』」
「重いな!」
カラッと笑って、彼はジャカジャンッとギターを鳴らした。
「いくぜっ」
「え、もう?」
「即興ってのは、すぐやるから即興なんだ!」
彼はうれしそうに言うと、「
♪───
からっぽのぬけがらだけ
流れ流されどんぶらこ
心はいつだって
おいてけぼりの留守番ばっかり
あーあ なんでかな
毎日こんな息苦しいのは
あーあ なんのため
だれのための人生だ
♪───
おどろくほど、ヘンテコな歌だ。
ヘン、だけど。
(こころを、
そうだ。
最近は、苦しくなるから、音楽を聴かないようにしてたんだ。
明るい歌も、かなしい歌も、冷たい消毒液のように心に
♪───
生きてんのがつらいなら
ひなたで昼寝でもどうだい
傷だらけのヒロインなんて
いまどき流行んねぇから
おれがその人生
もっとキラキラさせてやる
ルーララ ルル~ララ
もう逃げちまえ
ルル~ララ ルラーララ
おれが責任とる トゥットゥ♪
♪───
最後はギターの
「……ふふっ、はは! ほんと、すっごい、変な曲!」
「即興だしな。でも、泣いてんじゃん」
萌はいつのまにか、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
からっぽの、ぬけがらで。
なんにも持ってないのに、なにかのために必死に生きてる。
(わたし、逃げたかったんだなぁ……)
そう気が付いてしまうと、
本当に、逃げられたらいいのに。
この人がわたしを、救ってくれたらいいのに。
「……どうやったら、わたしの人生、キラキラする?」
どうにかなるなんて、本気で思ってるわけじゃない。
「まず、一曲歌ってみようぜ」
意外な彼の言葉に、萌はポカンと口を開けた。
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