作戦会議
「さーて、ほんじゃ作戦会議と行きますか。」
俺のそんな呼びかけに応じて輪になった三人。
おぉ、なんかやっと隊長らしいことができた気分だ……いや、実際そんなもんなんだけど。
今までしてきたことと言えば、せいぜい足を引っ張ったことくらいだからなぁ。
しみじみとそんなことを考えつつ、進行役をシスターに任せる。
「まず最初に。我々の最終目的はあの発電所内部の調査です。それゆえ、とにかく入らないことには何の話にもならないのですが、エネルギーに集まるという人形の習性のせいか、入り口に密集している人形達が邪魔で入れません。それをどうにかすることが目下の目的です。と、いう訳で。何かいい案がある人は挙手でお願いします。」
「はい!」
おおっと早い
「はい、ヘルメス」
「セルで天井に上ってからそこをぶち抜くってのはどうかな。」
あぁ、なるほど。
それならあいつらを無視して入ることはできるんだろう。
が……それを実行に移すとなると懸念点が一つ。
「上ってる最中に変異体やらに引きずり降ろされるリスクをどうにかできるのなら悪くないんじゃないか?」
そう、どこぞの蜘蛛男よろしく、菌糸を伸ばして飛び回ったり、動かない足を無理やり動かしたりできる発明品。
『セル』なら天井に上る程度なら造作も無いのだが、やつらの菌のかけらを使っている辺り、本体に比べて出力が低い……つまりは引っ張る力が弱いので空中で引っ張られてる間につかまれば支点ごと引きずり降ろされかねないのだ。
しかも今回で言うと、引きずり降ろされれば、待っているのは地上ではなく、その上で蠢く数多の
まぁ、まず間違いなく死ぬだろう。
指摘されて、ようやく思い至ったのか、ヘルメスは青い顔をして、ゆっくりと手を下した。
そうして次に手を上げたのは……
「……」
無言のアギトだった。
「はい、アギト」
そう指名されると、頬をポリポリと掻き言いにくそうにアギトはこう言った。
「その……意見と言うより質問なんだけどよ、アンタ一人で殲滅って出来ないのか?」
あぁ、やっぱりか。
その考え方はいつかは出ると思ってたが……
「悪い、そりゃ無理だ……って言うより、できなくは無いんだがな。やった場合……まぁ、結論から言ってしまえばお前らが死ぬ。」
「えっ!」
「……」
(黙って睨みつける)
その言葉に、三者三様の反応を見せる三人。
当然ながら、その反応には、困惑や、警戒の色が多く含まれていた。
あーもう、これだからあんまり言いたくなかったのに……
内心そう溜息を吐きつつ、俺はとりあえず事情を説明することにした。
「えーっと、とりあえず説明させてもらうんだが……先ず大前提として、弧白には疑似心臓ってのが有ってな。それが止まると、弧白の人格が変わってまぁ、色々強くなるんだが、人格が違うだけあって、どいつも嗜好から考え方まで違うんだ。ただ、それでも全員に共通する一点があるんだってだな。どいつもこいつも……」
めっちゃ嫉妬深い。
その一言を口にした瞬間、膝の上の弧白に全員の視線が集まったのを感じた。
「?」
当の本人は一切気づいてないようだがこれは……
「な、なんだ今の」
そういって、体を震わせるアギト。
そのほかの二人も、信じられない様なモノを見る目で弧白を見ていた。
当の本人が膝上に居るため、俺からじゃよく見えなかったのだがまぁ、十中八九弧白のしわざだろう。
とはいってもこれは本人の意思とは関係ない。
あの三人が何を見たのかもよく分からないんだが……
「まぁ、表になってないってだけであいつらも聞いてるからな。肯定というかいたずらみたいなもんだろ。」
人格が分かれたとはいえ、大元は、犬みたいだったアイツの子供のころだからなぁ。
意図的に強調した部分以外は元のアイツに近いんだろ。
ふと垣間見た子供のころのアイツに今の行動を重ねて懐古していると、アギトは少し引き攣った笑顔を浮かべながらこう言ったのだった。
「は、分かった。分かったよ隊長サン。もう十分だ。末路までしっかり見えたから皆まで言わないでくれ。」
見えた?んまぁ、わかってくれたのなら説明する手間も省けてよかったんだが。
まぁ、いいか。切り替え大事……とかおもったんだが……そうだな。
今ので一つ思いついた。
「なぁ、シスター。電爆ってさっき使ったので全部なのか?」
「い、いえ。一応残り一つはありますが……どうされるおつもりで?」
「いや、アギトの質問で思いついたんだがよ、俺がおとりになるのはどうかなーって。」
「おとり……ですか」
そういって考え込むシスター。
そう、いくら人間をやめた俺でも殲滅となれば、骨も折れるし、危険性も高い。
だが、奴らの脅威となり、目を引く程度に暴れることならば俺でもできると考えたわけだ。
果たしてシスターの答えは……
「わかり……ました。情けない話ではあるのですが、おとりをお願いしてもよろしいでしょうか。」
そう苦しそうにシスターは言い切ったのだった。
よし、これで発電所突入の目途が立った。
あとは実行するだけ……なんだが、シスター達の方はそう楽観視はできないだろう。
という訳で……だ。
「全員、ちょっとこっち寄ってもらっていいか?」
その言葉に不思議そうにしながらもこっちによって来る三人。
「よーし、んじゃ、ちょっと触るぞ?」
そういって、俺は腰に着いた半透明の球。セルに手を触れた。
そのまま弧白を引き出し、球と蓋の隙間から一滴中身に紛れ込ませると……
「うおっ、なんだこりゃ!」
水に色水を混ぜたときのように、一瞬で全体にひろがり、白かった中身は真っ赤に染まった。
「隊長、これは……」
「あー、なんというか。まぁ、簡単に言うならセルの強化だな。今まで使ってた菌よりは間違いなく再生時間も出力も上がってる。なんなら、そのままやつらにぶっかけても行動不能くらいにはできるし、菌糸そのものに掛けちまえば一瞬で平らげてくれるはずだからうまいこと使ってくれ……ってか今更ながら勝手にやっても良かったか?」
ふと気付いたその疑問にどこかあきれた様子の面々。
許してくれ……たった今思い至ったんだ……
内心そう頭を下げていると、シスターはどこか不安げにこういったのだった。
「その……これ自体はありがたいのですが隊長。果たしてこれは純粋な強化なのでしょうか?使う上でのデメリットなんかは増えたりしていませんか?」
あぁ、なるほど。そりゃあ不安にもなるだろう。
だが、流石にその点については心配ご無用だ。
「いや、その点は一切心配ない。強いて言うならさっき言った大喰らいだが、飯自体はさっき食ったんだ。そんな小さなかけらでも今日一日くらいは安定して使えるぞ。あ、なんなら殺した奴に寄生してる菌の大本を食わせてやったら使える時間も増えるかもな」
そう太鼓判を押してやると面々は顔を合わせ……
「じゃあ……僕も、お願いします。」
「そうね、私のも……」
そうセルを差し出してきたのだった。
よし、これでアッチも多少は安心して調査できる筈だ。
そんで後の問題は、こっちだが……
「なぁ、誰か。突撃前に電爆、撃ってくれないか?俺、使えないんだよアレ」
そう言うと、不思議そうな顔をしながらヘルメスが寄ってきた。
「それは別に良いんだけど……なんで突撃前に?さっきみたいに離脱に使うのかと思ってたよ」
「あー、要するに撒き餌だな。先にいくらか誘っといて、小さな集団からヘイトを稼いでいく。全体がこっちに注目するようになれば、後はうまいこと逃げ続けるだけって算段だ。」
ってか、電爆無いと逃げられない奴みたいな認識になってるのか?俺は。
違うからな。
さっきのは弧白が寝てたせいだからな?
内心、そう反論しつつも俺は説明を終えた。
結果が全てだということ位、俺も知っている。
あの結果じゃ誤解の一つや二つ程度、止む無しだ。
そんなことを考えていると……
「なるほどなぁ……隊長は色々考えててスゴいね」
「まぁ、いくら死ににくいとは言え痛いのは嫌だからな。」
逆にお前は考えてないのか。
そんな言葉を飲み下しつつ、感心するようなヘルメスに苦笑気味で返す。
「ま、とにかく電爆だけは頼んだ。そのあとは……何とかうまいことやるからさ。」
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