偵察

「あ、あの……案内は必要無いのですか?」


 その後、三人で工場を出て俺を先頭にズンズンと進んでいた道中のこと。

 突然シスターがそんなことを言ってきた。


 あー……まぁ、そりゃそうか。

 初めて見る筈の道をズンズンと進んでいたら誰だって不思議に思うだろう。

 しかも………


「大丈夫だって言いたいんだが……もしかして間違ってるのか?」


「い、いえ、合ってはいますが……」


「が?」


「その……なぜ私達の道をご存知なのかなと思いまして……」


 ……しかもそれが正しい道なら尚更だ……って訳だけどどーすっか。

 果たしてこれは正直に言っても良いものかどうか迷う所だが……まぁ良いだろう。

 どうせ困るのは俺じゃないんだ。

 せいぜい困って頂くとしよう。

 レッツ意趣返しだ。


「薫が教えてくれたんだよ。ほら、あそことか」


 そう言いつつ指を指した先には道中の草に紛れ、草同士で結ばれたモノが一つ。

 それが目印のようにかなりの距離を開けて点々としていた。


 それを見たシスターは目を大きく見開いて____


「はぁ………」


 一つ。大きく溜め息をついた。


「ホントに……あの方も口が軽いんですから」


「なんか……すまん?」


「いえ、貴方は良いのです。貴方は。まったく……よりにもよって道標を気軽に話すなんて……もしも他の方が聞いていらしたら……」


そんな風にシスターの声はだんだんと小さくなっていった。


 ホント、あのおっさんは敵作んのはうめぇよなぁ……と言うか、何でバラしちゃ駄目なんだっけ。

 確かリソースが云々とか言ってたのは覚えてるんだが……


「はぁ……さっさと行きましょう。」


 そうやってボソボソと呟いていたシスターだったが直ぐに開き直り、俺より先にズンズンと歩き始めてしまった。


「もう良いのか?」


「はい、この程度のことにいちいち怒ってたらあの人直属の部下なんてやってられませんよ。まぁ、それとは関係無いのですが……」


「帰ったら薫さんは折檻ですかね」



 アイツ……死んだかな。



 とまぁ、その後もそんな感じに紆余紆余曲折、かくかくしかじかでまったり歩いた道中だったのだが………


「うっわ凄まじいなコレは……」


 発電所の入り口を中心に辺り一面で蠢く黒いナニか。

 昔ならばそれを囲って居たのであろう金網のフェンスは支柱からへし折られ、今ではロクに原型すら留めていない。


 そんな景色を俺達は小高い丘の上から眺めていた。


 

「いやー、参ったなぁ。減ってこれって……まさかここまで多いとは思いもしなかったわ」


「あの……どうですか?何か普段との違いとか分かります?」


「えー?違いっつっても俺、専門家じゃねぇんだけどなぁ……」


 そうぼやきつつも、差し出された双眼鏡を受け取り、とりあえず見てみる事にした。


 俺自身、何か分かるとも思っていなかったのだが、幸いそうしていると直ぐに違和感に気付く事が出来た。


なんか……密集してる?


 そう、こうして遠目でみる限り、どうやら集団の中心である発電所へ向かおうとしている個体が多く見られるようなのだ。


 同胞の肩や下敷きになった者を踏みつけてでも我先にと、発電所の入り口へと向かおうとする黒いヒトガタ達。

 ここまでの重圧が掛かれば壁も壊れそうなものだが、実際そうなっていない所から察するに、どうやら壊さずに入る程度の分別は有るらしかった。


 それを異常だと判断し、シスターに話すと……


「やはり貴方から見てもそうですか……」


 そんな返事が返ってきた。

 やはりってアンタ……


「なんだよ、もう気付いてたのに聞いたのか?」


「あ、いえ。一応の確認と言いますか、別の視点が欲しかったと言いますか……」


「あぁ、なるほど」


 斥候ってのは色々と考えなきゃなんねーんだなぁ


 ただ漠然とそんなことを考えながら奴らのひしめく様に目を戻すと……


「……お?変異体まで居んじゃねぇか」


「え!!ど、どこですか!!」


「ほら、あそこだよあそこ」


 そうして双眼鏡を返しつつ、指で指した場所を必死に見渡すシスターだったがどうやら見つからない様で、遂には見当違いの方まで探し出す始末。


 はぁ、全く……ん?

 いや、そうか。

 そう考えたらまぁ良いや。ついでだ。


「ほら、良く見とけよ」


 そう声だけ掛けて、俺は傘を片手に発電所へと駆け出した。


「え!?ちょっ!ちょっと紅さん!!」


「あ!弧白は頼んだ!!」


「え、あ!はい!……じゃなくてぇ!!」


 後ろで悲鳴のような声が聞こえた気がしたが、無視して前進する。

 こちとらお前らと違って朝飯食って無いんだよ。

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