説教
「それで?突然飛び出しておめおめと逃げ帰ってきた隊長様。何か私達に言うべき言葉が有るんじゃ無いですか?」
後続組の電爆によって窮地を脱したその後。
俺はシスターによって正座させられていた。
出会った頃の丁重さはどこへやら。
今や尋問中の犯罪者がごとき扱いである。
……まぁ、今回の件については弁解の余地も無い程に俺が悪いので……
「はい、この度は説明も無しに飛び出してしまい申し訳御座いませんでした。」
「……っとに……」
俺が、そう素直な謝意と共に頭を下げると、シスターはプルプルと震えだし……
「ホンッとにその通りですよ!!貴方が突然飛び出した後、私がどれだけ焦ったと思ってるんですか!!」
全力で身振り手振りして怒る。怒る。怒る。
いや、まぁそりゃそうだろうけど。
聞けば、俺が弧白の睡眠により対処が出来なくなったことに気付くや否や、直ぐ様セルを二つ潰してまで助けを呼んできてくれたらしいのだ。
「実を言えば両腕を潰す程度で済みそうだった」とは口が裂けても言えないのは言わずもがなだろう。
「はぁ……もう良いですけど。それで?結局どうして突然飛び出して行かれたんですか?」
そこから5分程怒鳴られた後。
冷静になったシスターにそう尋ねられた。
なんでって……あ!そうだった!
「いやわりぃ!ちょっと席外すわ!」
「ちょ!ちょっと!どこ行くんですか!」
「弧白んトコ!」
そう叫ぶように返して、俺は弧白の下へと駆け寄った。
「弧白?……弧白~?あー、やっぱ寝てんのか。ま、良いや」
そう呼び掛けつつ、俺は弧白の手を両手で包む様にしてそっと握った。
それから少し経つと、俺の掌は滲みだす感覚と、弧白の手が溶けて柔らかくなったような感覚に包まれた。
「……よっし。これで一先ず安心だ」
「それは……何をしているんですか?」
その様子を後ろから見ていたらしいシスターがそんなことを尋ねてきた。
「何してるんだって……朝飯だけど?」
「は!?今のが朝飯?」
続いて声をあげるのは後から追い付いてきたアギト。
……?
どうにもおかしいな。
もしかしてコイツ等……
「なぁ、シスター。アンタ等ってもしかして薫から何も聞いてないのか?」
「何も……とは?」
「いや、俺だよ。俺と弧白のこと。」
「それは……『阿』に変わる程の強力な援軍としか……」
「なーるほどね……はぁ」
思わず溜め息が漏れる。
要するにあのおっさん、また横着しやがったのか。
ホント、どうにかなることにはとことん適当なんだよなぁ、アイツ。
「……予定変更、今から自己紹介だ。取り敢えず奴らの様子を見ながらやるんで集まってくれ」
そうして先ほどから奴らを眺めていた小高い丘のてっぺんで俺を扇状に囲むようにしてシスター達は集まった。
その面々を見回してから俺は口を開く。
「先ず最初に言っておく。俺は身体構造上の観点から見て、まともな人間じゃない」
「は?」
「え?」
「まぁ……でしょうね」
「まぁ、とは言ってもまるっきり違うって訳でも無くてだな。ほら、多分見てたであろうシスターなら分かるだろ?」
「……えぇ、貴方は感染者でも無いのに『菌』を生身で操っていた。」
「そ。その通り、それが俺と人間の唯一の違いだ。他の、内臓やらなんやらは大して変わんねぇ。」
「ちょ!ちょっと待ってよ!」
「ん?えーと、お前は……」
「ヘルメス!ヘルメスって呼んで!」
そう声をあげたのは全体的に若いこの中でも更に若い方に分類される……というか随分と小柄で子供っぽい男だった。
言うまでも無いとは思うがアギトと共に来た後続組のもう一人だ。
「あー、それでヘルメス。一体どうしたんだ?」
「う、うん。その、一つ聞きたいんだけど……それって異端者や、憤怒者とどう違うの?」
「あー、なるほど……」
思わず呻く様に声を漏らす。
奴らの菌……『人形菌』に寄生されながらも変形すること無く、多少変容した自我を持つ『異端者』
元の自我は、そのままに、反人類的思考となる『憤怒者』
それらと比べた俺との差は自分の視点だと違いは歴然なのだが、他人から見た差なんて殆ど無いだろう。
そんな存在かもしれない化物が今目の前に居るのだ。
そりゃこんな恐々とした聞き方にもなるだろうよ。
そう一人納得しながら、俺はこう答えた。
「簡単に言うとだな、それは目的と結果の違いだ。」
「目的と結果?」
そう言いつつ、ヘルメスは可愛らしく小首を傾げる。
……男の癖になんかあざといな、コイツ。
「そ、俺のは最初から共生の為の寄生。んで、あっちは寄生の結果、共生の方が都合が良かった故の共生だ。」
「えーっと……よく分かんないけど、それでどんな差が生まれるの?」
「ん~、まぁ、言葉通りだな。奴らが宿主を操る為に脳へ繋がりを作ってから宿主の感情を分離し、混乱させてから操るってのは知ってるよな?」
コクリ
「だが、さっきも言った通り、俺の場合はハナから共生のための寄生だから、操る為の繋がりがそもそも必要ない訳だ。んで、その代わりに有るのがこれ」
そう言いつつ、俺は紅い菌を掌から溢れさせた。
「菌へ命令するための器官だ。」
「おぉ……」
「……」
「……なるほど」
俺の言葉に三者三様の反応を見せる偵察隊達。
こうも反応が良いとだんだん楽しくなってくるが今回はやることも有るしな。
さっさと済ませるとしよう。
「だが、一つデメリットが有ってだな。実はこれ、俺から菌への一方通行じゃないんだよ」
途端にギョッとした顔になる三人。
そん中でもヘルメスは恐る恐る口を開く。
「……え?ってことはつまり」
「そ、俺が菌を操る為に同調すると、俺も多少菌の影響を受けるってことだ……とはいっても感情が少し乱れる位のもんなんだけどな」
「それは……どういう風に?」
そこで慎重に口を開くシスター
それは興味からか、危険因子を見極めるためか。
どちらにせよ、恐ろしいほど無機質な観察するためだけの眼だった。
多分、下手なことを言えばコイツは薫に密告するだろう。その程度のことでアイツがどうにかしてくるってのは無いとは思うが、万が一も有る。
それ故、この場合、嘘を吐いた方が良いということ位はわかるが……生憎俺にはコイツの求める答えが分からない。
それならば今嘘を吐いて後から変なアラを出すより、少しでも正直に答えて多少の信頼を勝ち取る方が先決だろう。
それに、危険性の有無については一緒に戦う内に分かってくれるだろうしな。
ま、どちらにせよこれに関しては本人が話した方が早かろう。
「それには俺に寄生してる奴についてからはなさにゃならんのだが……おい、起きてるだろ」
「えへへ、ごめんね?ちょっと前から」
そう呼び掛けるとニコニコと微笑みながら車椅子を転がして近付いてくる弧白。
その調子で近付いてきた弧白を一旦抱き上げ、車椅子の下に滑り込んでから俺は少し大仰に手を広げて、こう言った。
「では、本日の講師の先生。俺に寄生している菌の大元であり、世に出回る「人形菌」の原種である病奈川 弧白さんです」
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