混じりモノの在り方
「えーっと、ご紹介に預かりました、病奈川 弧白です……なんちゃって」
そうどこかテレテレとしながらもノッてくれる弧白。
だが、聞いている面々はそれどころじゃないようで……
「……」
その場にいた俺と弧白を除く全員が大きく目を見開き、愕然としていたのだった。
いやまぁそりゃそうだろうけど。
なんせ大勢の死人を出した菌の原種を自称(……いや、他称か)する存在が目の前に居るのだ。そりゃぁ……
バチン
こんな一手に出ようと言うものだ。
「……」
突然立ち上がり、突き出されたアギトの手には安全装置の外されたぶっとい「杭」が一つ。
その切っ先は弧白の身体に向いていた。
だが、次の瞬間にはその先端は車椅子の横に。
受けきる前に弧白の身体が液状化し、右に受け流したのだ。
杭をまともに受けた後に有るもう一段の衝撃にはさすがの弧白も受けきれない……いや、弧白自体はなんともないのか。
正確に言うなら弧白を膝に乗せている俺に配慮してくれてのことだろう。
彼氏冥利に尽きるというか、彼氏失格と言うか……
そうしてこの場に残ったのは、アギト側の仕留め損なったという気まずい空気と……
「あ……その……ごめんね?言い訳する訳じゃないけど、私、怒らせるつもりは無かったの。貴方達の敵の名前を使ってるのにふざけてごめんなさい。無神経だったよね」
純粋な弧白の悪意無き謝罪だけだった。
いや、悪いの俺なんですけど。
「その……弧白さん……で、良いのでしょうか」
その気まずい空気を最初に破ったのはシスターのそんな一言だった。
「う、うん。私、弧白。病奈川 弧白です」
それにどこか戸惑うように、けれどはっきりと弧白が答えると、シスターは、言いにくそうに……
「……先ずはお詫びを。弧白様。元、では有りますが、私の部下を御しきれず貴方に刃が向いたこと、心からお詫び致します。同様に、隊長。貴方の身内に手を出したことについても。」
「うん、俺は良いよ。それで?弧白は?」
「わ、私も大丈夫です!さっきも言ったとおり私が無神経だったから……」
……まさかわざとこう言う言葉回しをしたとは今さら言えねぇなぁ、これ。
内心チクチクと心を痛めながらも俺は続けた。
「もう良いか?じゃ、話を進めるが……まぁ、言いたいことは見たまんまだ。」
俺の物言いに顔をしかめるシスターを横目に、俺は右腕が液状になっている弧白を示した。
「えっ!?ちょっとこー君!?」
そう驚く様にこちらを見る弧白だったがそれを無視。
すまん、こっちの方が速いんだ。
「人間……じゃ、無い?」
そう呟いたのは所在無さげに視線を漂わせていたヘルメスだった。
「そ。その通り。一応元人間では有るんだがな。今じゃ身体の細胞の端から端まで「原種」だ」
そう淡々と話すと……
「な、なんでそれで生きてられるの!?……と言うか、狂暴性は?宿主は?」
余程驚いたのか、矢継ぎ早にそんな質問をヘルメスが飛ばしてきた。
「まぁ、待て。取り敢えずコイツが俺に何を寄生させたのかから聞こうじゃないか。」
そう言いつつ、俺は弧白に視線を向けた。
そうすると、弧白は少し恥ずかしそうに……
「えっと……実際かなり恥ずかしいんだけどね。では……こほん。私がこー君に埋め込んだのは……」
「私の怒りです。」
そう先の宣言通り恥ずかしそうに、けれどどこか誇らしげに。
そう弧白は言いきったのだった。
だが……
「……結局どう精神に影響が有るんですか?」
「あぅ……」
少しドヤってた所に水を刺され、恥ずかしくなったのか、縋る様な目で此方を見てくる弧白なのだった。
そこで、あー、こっからは変わるが……と、俺。
「具体的には、同調してると、あらゆる感情に苛立ちが混ざるんだよ。だから戦ってる時だと、常に八つ当たりっぽくなる感じだな。あとは直感で動くようになるとか……そんくらいだな。自己申告で申し訳ないが、危険性はほぼ無いといって差し支えないだろ。あとはお前の判断に委ねる。」
そうシスターに向けて言うと……
「そうですか……分かりました。そうさせて頂きます。ですが……できるのであれば刃を向けるようなことにならないことを願います」
律儀にそう付け加えてくれたのだった。
どうやら一先ずでは有るが、改めて仲間として認めてくれたらしい。
何だかんだ言っても……受け入れてくれるってのは嬉しいもんだな。
「あぁ、善処しよう。」
そんなことを考えながら、俺はそれに答えた。
「あー、んで、さっきのヘルメスの質問だが……狂暴性と宿主についてだったか?」
そう尋ねると、首をブンブン振って肯定するヘルメス。
答えることに関しちゃどうでも良いんだが……やけに好奇心強いな、コイツ。
「順番に答えていくとだな、狂暴性については無い。最初に言ったとおり弧白は原種なんだ。そもそもの話として、「人形菌」とは作用が違う。」
「違うってのはどんな風に?」
「簡単に言うとだな。再生と感情に特化してるのが原種。殺戮と洗脳に特化したのが人形菌だ。」
「は?」
そう思わずと言った感じに声を漏らしたのは、言わずもがな。
今尚、微かにこちらを警戒していたアギトだった。
まぁ、そりゃそうだろう。
俺の言葉が真実なら、アギトのしたことは完全なる勘違い。
その勘違いで自らを率いる隊の隊長の身内へ手を出したのだ。
通常の軍なら極刑は免れないだろう。
だが、俺達のは所詮ゴッコだ。
薫辺りなら「輪を乱し得る」とか言って殺しそうでは有るが……ゴッコ遊びでそこまでする必要も有るまい。
……何より、今回のは俺がそう誘導した様なモンだしな。
そんなわけで俺はアギトを無視することにした。
「ってなわけで次は宿主だが……こっちについてはちょっと複雑でな。なんかそもそもの生存方法からして違うらしい。」
「生存方法?」
「あぁ、簡単に言えば、奴らは体内に潜み、死なない環境で、ひっそり数を増やす。ただこっちは菌が死滅するより増える方が速くてだな……まぁ、要するに寄生する必要が無いんだよ」
その言葉を聞き、ぽかーんとした顔で弧白を見つめる一同。
まぁ、それも無理はない。
奴らの唯一の弱点は常温で死滅する耐熱性の低さだと言うのにそれを上回る回復速度を持つ菌の存在なんてそれこそ悪夢だ。
だからこそ、こんな質問も出てくるのだろう。
「その……少し聞きにくいのですが、弱点なんかは有るんですか?」
そう聞くシスター。
無論、無視するに値するような質問では有るのだが……
「強いて言えば大飯喰らいってこと位か。まぁ、現状だと飯なんてそこらに転がってるから困ることはないんだが。」
知られてもどうということも有るまい。
今回もその「飯」の対処に俺達が駆り出された訳なのだから。
「あぁ、それで『朝ごはん』なんですね」
呟くようにそう言うと……
「すみません、ありがとうございます」
「うん、気にするな。それで?他に質問は?無いんだったら終わるが……」
「じゃあ……一つ。」
そう言って、一つの手が上がった。
「どうぞ」
俺はその手。
野太いアギトの腕を指さした。
その重々しい声はゆっくりとこう言うのだった。
「結局……アンタは一体何なんだ?俺達の……人間の敵なのか、味方なのか。俺が知りたいのは最初からその一点だけだ。」
なんだ、やけに重々しく言った割にそんなくだらねぇこと考えてたのか。
んなもんガキの頃に死ぬほど考えたっての。
内心そう呆れながらも、俺は膝の上の人形を抱き締めた。
「勿論人間の味方だよ。困ってる奴を見殺しにする趣味は無いし、それに……よく考えろよ。俺が敵なら便利屋なんてやってる筈無いだろ」
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