病弱彼女
かわくや
おはざいます
ピピピピピピピ
「んぅ……ふぁ~あ……うっせえなぁ」
やっぱこんな時代に電池なんて贅沢品を時計ごときに使うべきじゃねぇな。
そう思いながらぺし と、叩いて目覚まし時計を止めた。
第一、俺はこんな世界になる前から目覚ましの音は大嫌いだったのだ。
あの鬱陶しい電子音。
思い返すだけで神経が逆撫でされる。
ただ、そんなにっくき怨敵でも今日は頼らざるを得ない理由があるのだが……
カッカッ
そんなことを考えていると、窓の方から硬質な音が響いた。
「はぁ……速えんだよアホが」
手を置いたままだった目覚まし時計に目を向けると、時刻はまだ五時半。
この時代、電波なんて飛んで無いので信憑性には欠けるのだが、時計を信じるのならいつもの時間より30分も速かった。
「起きててよかったよ……ったく」
頬を子供の様に膨らませ、持ち前の怪力でじたばたと暴れる送り主を想起しつつも窓を開けると、そこにはお手製の止まり木に止まるカラス。
いつもどおり、その足には手紙がくくりつけてあった。
鳥を使っての文通だなんて我ながら古風だとは思うがこれがこの時代で俺の知る数少ない連絡手段なのだ。
メールだのラインだの言ってた頃が懐かしいよ。
「ほいほい、ご苦労さん ほら、食いな」
カラスから手紙を受け取ると、止まり木に着けた皿に穀物のミックスを注いでやった。
これで食べ終わり次第帰るだろう。
後はお食事の邪魔をしないように窓をゆっくり閉めるだけだ。
そうして俺はベッドに腰掛け、ゆっくりと手紙を開いた。
そこには柔らかな筆跡で
――――――――――――――――――――――――――――
愛しのこーくんへ
はーい!おはようございまーす!
可愛い彼女からの定期連絡ですよ!
今日はまだ平気な日なので、お砂糖を所望します!
楽しみにしてるね
by愛しの白ちゃんより
――――――――――――――――――――――――――――
……だそうだ。
なかなかに無茶を言ってくれる。
この時代で塩ならともかく砂糖とは……
いや、まぁ有ることには有るのだが……
「どのくらい有ったかなぁ……」
そんな独り言と共にベッドのスプリングを使って跳ね上がった俺は冷蔵庫へと向かった。
「さーてさてさて、残りはー……肉少しー穀物少しーちょこっと板チョコー。あー……在庫少ないねぇ、明日補充に行かねぇとだ。はぁ……あれ取りに行くの案外ダルいんだよなぁ。」
そう呟きつつ、俺は板チョコをウエストポーチに突っ込んだ。
「えーと?必要なのは……チョコと傘位だよな」
そうしていつもの最終確認も終え、俺はまったりと玄関へ向かう。
靴箱から靴を取り出してそれを履き、傘を握って立ち上がる。
そして____
「行ってきます」
普段の口癖のようにそう呟いた。
尤も……それを聞き届ける相手なんて居なくなって久しいのだが。
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