大立ち回り
「よーし、それじゃあ各々。用意はいいか?」
それからしばらくして。
再び拠点に戻って改めて武装してきた面々を見渡して俺はそう尋ねる。
「はい!」
返ってくるのは一切のブレも無く、覚悟の決まった様な芯のある声。
うーん、良い声だ。
臨時とは言え、まず間違いなく俺の部下なんかにゃ勿体無い。
「よし。それじゃあ行ってくる。良い頃合いになったら調査の方は頼んだぞ」
そう言って俺は皆に背を向けた。
「ぷぅ~……」
そこで大きく深呼吸を一つ。
……よし、かくいう俺も覚悟完了だ。
前回はお遊び気分だったが、今回はそうも行かない。
なんせ俺の活躍に他人の命が掛かっているのだ。
今回はできうる限りの暴力を以て、奴らを圧倒的にねじ伏せなければならない。
と、いうわけで……だ。
「頼んだぞ、弧白。汚名返上だ。」
ずぶずぶと。
汗腺から、毛穴から。
次から次へと赤黒い粘体があふれ出し、俺の足を覆っていくのを感じる。
「……よし」
それから歩き始め、その場で軽く飛んだり跳ねたり。
それが直に関節部以外をすっかり覆ったことを確認すると……
「……ふっ!」
俺は地を蹴り砕き、瞬く間にその場を後にした
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「うわっ!」
今しがた飛びだした紅が巻きあげた土が口に入ったのか、ぺっぺと砂を吐き出すヘルメス。
その横で、シスターとアギトは紅の飛び出していった方角をじっと眺めていた。
「……とんでもないですね」
「……あぁ。」
二人の考えていることは全く同じ……すなわち、たった今見せた紅の脅威。
その片鱗についてであった。
要するに、二人は警戒しているのだ。
自分たちの隊長であるところの男。
寒川 紅を。
……とはいっても、それは
本人に、敵意が無いことは十分に分かっている。
その
そうと分かった上で、二人は未だ警戒を解かずに居た。
その理由は……
「まったく、薫サンも無茶言うよな。「
「そうですね。その上、発電所もどうにかしろというのですから……どうしたものか。」
無論、この斥候部隊の長である時東 薫、その人の指令に依るものだった。
とはいえ、本人の意思がまるでないかと問われれば、決して肯定はできないのだが。
この二人は、短い時間ではあるが、紅と弧白。その二人とふれあい、その人となりを少なからず理解してきた。
なるほど、確かに紅は一見淡白ながらも、その実子供っぽく、お人よし。
弧白の方は、ただひたすらに純粋。
確かにこれだけを見れば、ただの……いや,むしろまともな部類の人間として見られるかもしれない。
だが、彼らはこれと同時に見てきたのだった。
ふとした瞬間に現れる
例えば、突然飛び出したかと思いきや、まだまともなヒトガタに変装していた変異体を見抜き、いともたやすく惨殺した時。
例えば、突然純白の皮膚が裂け、そこから現れた様々な色の瞳が、こちらをじっと見つめていた時。
そういった瞬間に立ち会った時、彼らは少なからず恐怖していたのだった。
恐怖し、その異常性の矛先がこちらに向くことを恐れていたのだった。
それ故二人は理解しようと見る。
彼の戦い方を、彼女の精神構造を。
いざというとき、一矢報いられるように。
「でもさー、実際そんなに気を張る必要はあるのかな?」
そう張り積めた様子の二人に話しかける純粋な声。
それは、迫撃砲をせっせと整備するヘルメスのものだった。
「ふたりとも分かってるでしょ?あの二人は自分から襲ってくるような人じゃないって。」
その手を止めることなく、ヘルメスはこう続ける。
「だったら後回しにしてても良いんじゃないかな?一先ずは発電所調査を協力して完璧に済ませちゃうって感じで。それに……さ。最初は少し怖かったんだけど……」
そう言って、すぐそばの箱から電爆を取り出すヘルメス。
それを迫撃砲の射出口に近付けると……
「僕、今じゃあ結構好きなんだ!あの二人のこと!!」
ドン!
耳を塞ぎながら、そう叫んだのだった。
ヒュー
そう音を立てて、滑らかにに上っていく電爆。
それは三人に見守られ頂点に達すると、直に滑らかな落下を始め……
ドーン バリバリバリ……
雲一つないこの空のもとで、雷鳴を思わせる音を鳴り響かせるのだった。
「よーし!がんばれ!隊長!」
そうぴょんぴぴょんと跳ねながら戦場を見下ろすヘルメス。
その顔には、紅への期待と信頼がありありと浮かんでいた。
そうなってくると苦しいのは何とか弱点を暴こうと思考を練っていた二人である。
すっかり毒気を抜かれてしまった二人は顔を見合わせ苦笑すると、ヘルメスの隣に座り、出ていくべきタイミングをうかがうのであった。
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「……!」
先ほども感じた、ピリつく空気にちらりと空に意識を向ける。
来た。
どうやらヘルメスはしっかりやり遂げてくれたらしい。
ありがたい話だ。
内心、感謝を告げつつ、また一人、新たな人形を蹴り砕き、その黒い核を喰らった。それによってまた一段と内側で膨らむ弧白の総量。
うん。
いい加減溢れそうだし、そろそろやっとこう。
ちょうど、うってつけの場が揃うんだ。
弧白により拡張された意識の中。
頭上を正面右に向けて通過する電爆の位置を正確に認識しつつ、俺はそう判断した。
落下まで3……2……1
ドーン バリバリバリ!!
接地の瞬間、雷鳴を思わせる音を轟かせながら、辺りに稲妻を走らせる電爆。
その効果はすぐに現れた。
「……」
一斉に奴らが振り向き、そちらに向けて歩き出したのだ。
よっしゃ、良いぞ。どんどん寄ってこい。
電爆に釣られずにこちらを襲ってきた奴らを適当にあしらいつつ、ちょうどいいタイミングを探る。
電爆に奴らが寄って……寄って……寄ってきた頃。
「今ッ!」
そう短く叫んで、大きく跳躍。
奴らの頭上を越え、爆発が起きた中心に降り立つと、左右に両手を構え、再び叫んだ。
「弧白!」
それに応え、俺の体から溢れんばかりに増えた弧白が両手から飛び出した。
それはあの
一つ違うとするならば、それは範囲。
変異体を殺すのに身体中を蹂躙する密度を必要としたならば、こいつらに必要なのはとにかく範囲。
なんせ四方八方から向かってきやがるのだ。
まともに相手してちゃジリ貧は間違いない。
そんなわけで、広がりに広がり、左右合わせて百ほど貫いた頃。
俺は意識して両手の繋がりを断ち切った。
すると、今まで肉を抉るほどだった硬度が嘘のように軟化し、それぞれ突き刺さった肉へズルズルと吸い込まれていく。
弧白を吸い込んだ奴は、暫く固まっていたかと思うと、直にその体色を黒から赤へ。
それさえ終われば、先程とは打って変わって未だ黒い奴らを赤で犯そうと襲いかかるのだった。
洗脳完了である。
そこまでしたところでようやっと俺を脅威と認めたのか、周囲のやつらは再び「死、死」と呻きながらこちらへ向かってくる。
ハッ、遅すぎるわダボが……っといっけね。
また口が悪くなってるわ。
気ぃつけねえと……
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