湊とえりの日常 (読み切り)

話は少し戻り…


とある日の高校。


湊はえりが所属している美術部に遊びに来ていた。

キャンバスに絵を書いているえりの横で、湊は机に片ひじをついて、座っていた。


「昔ね、パブロと付き合う前なんだけどね」

「うん」

「パブロにね、水族館行こうって誘われて」

「そうなの?」

「うん。学校帰りにね」

「…デートじゃん。俺がくっつける必要なかったじゃん…」

「湊いなかったら、パブロそのまま海外に行っちゃってたよ」

(行っちゃえば良かったのに…)


「でね、ドクターフィッシュって言うのがいて…」

「あぁ、手とか足入れたら突っついて古い角質をとってくれるやつ…?」

湊は話がつまらなくなってきて、机に突っ伏した。

「そうそう」

「それやったんだ…」

「うん。パブロ、私を実験台にして…」

「何かさ…」

「ん?」

(今日、パブロ君の話が多くないか?)

「えり、今日機嫌いいね」

「え、そう…?」

「うん」

「あ…、あのね今日、パブロと初めて会った日で…」

「そうなんだ」

「うざかったよね?ごめん」

(うぜーよ)

「いや、珍しいなと思って」

「そうだよね」

「湊は?アンナちゃんと別れてからは…」

「…前に好きな人いるって言ったじゃん」

湊はイライラしたように言った。

「うん。彼氏いるって人だよね?」

「うん。彼氏と別れないか待ってるの」

「別れそうなの?」

「…今の所は無理…」

「そっか」

「あーあ、別れないかなぁ」

「…嫌なやつだな」

「別れたらいいのになぁ」

「別れても、湊を好きになるとは限らないじゃん」

湊はギロリと、えりを睨んだ。

「好きになると…思う」

「自信あるなら告ればいいのに」

「うるさい」

「…すいません…」



「惚気話、もっと聞いてあげようか…?」

湊がえりに言った。

「え、いいの?」

「アイス奢ってくれたら。スーパーの向かいに新しいソフトクリームの店できたじゃん」

「……」

「何黙ってんだよ」

「やだな…」

「…前に孝司の靴下、洗ってあげたのに」

「うっ…」

「孝司がうちに遊びに来た時、ケーキ出したんだけど。それにパブロ君とえりをくっつけてあげたお礼だって…」

「わかった!わかったから」

「ありがと」

湊はニコッと笑った。




「好きな人には、こういう態度とらないんでしょ…」

えりはアイスを食べながら、言った。

「これを含め俺を好きになってくれる人がいい」

「…いる?」

湊はえりを見た。

「えり」

「えー…」

「うわ~、嫌そ〜」

湊がそう言うと、2人は笑った。


「そういう彼女ができるといいね。いるか知らんけど」

「…はぁ…。別れないかなぁ…」

「告ればいいのに」

「…えり、別れないかなぁ…」

「おいっ」

「あははっ。ごちそうさま。帰ろ」


「私、惚気話聞いてもらってないんだけと…」

2人は並んで歩いている。

「今の俺に、よく惚気話を聞いて貰おうなんて思えるな…」

「…だよね…」

「ま、後日聞くよ。今度、孝司とうちに遊びにおいでよ」

「うん」

「ケーキ焼くから」

「女子〜」

「…うるせえな」

(何でこんなやつ好きなんだろ…。好きなの勘違いなのか…?)

「私、湊のケーキ好きだよ」

「おっ、おう…」

(それだけで嬉しいなんて、やっぱり好きなんだろうな…)

「腹立つ…」

「え?」

(好きで腹立つ…)

「えりに腹立つ」

「え…、ケーキだけ好きみたいに言ったから?」

(なにそれ、自分の事も好きでいてって俺が思ってるってこと?)

「そう。ケーキだけの男なんでしょ?」

「湊は面白いよ。ケーキはついで」

「面白い…」

「楽しいよ」

「楽しい…」 

(それは好きって事にならないの?)

「頼りになるしね」

「それってさ…」

「ん?」

「あ…」

「何?」

「パブロ君と比べたら…」

「…一般的に見たら、湊の圧勝だろうけど」「けど」

「私は…。ね…。ほら…」

えりは自分で言って赤くなっていた。

「…幸せでいいね」

「全然。遠恋中だし」

(だからまだ狙ってんのに。揺らがないよな…)

「…やっぱり腹立つ…」

「何で?」

「幸せそうだから」

「…私が不幸だと嬉しいってこと?」

「幸せよりはね…」

えりは湊の肩をバシッと叩いた。

「痛ってぇ」

そんな湊を見てえりは笑った。

(そんな顔で俺を見るな…。腹立つな…)


(好きだ…)


(言わないけど…)


湊は前を歩き出したえりの後ろについて行った。








※ えりとパブロのデートの話は

『彼は魔法使いで意地悪で好きな人』(同作者の前作)

第10話 デートなの?デートでしょ!デートかぁ


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