『第14話 相変わらず仲が良く、相変わらず友達』の【番外編】です

湊とえりの高校生活がスタートした。

2人は同じ高校に通っていて、学力は中の上、制服がなく私服の高校だった。 



「おはよー」

湊はえりの後ろから声をかけた。

「あ、湊。…あ、小林君って呼んだ方がいいの?」

「…どっちでも」

湊はえりの横に並んだ。

湊とえりは中学時代、仲が良いことを隠していた。

湊もえりも、年の離れた妹・弟がいて、親並みに面倒を見ているという家庭の事情を、知られたくなかったからだ。

「じゃ、今の所は湊で」

「今の所ね」

2人は皮肉な表情でお互いを見た。


「コレ」

湊は袋を取り出してえりに渡した。

「何?」

「孝司の靴下」

「えー!ごめん!」

孝司(えりの弟)が、春乃(湊の妹)と遊んだ時に、家に忘れていった物だった。


「靴下忘れるってすごいよな」

「だね…」

えりは、もらった袋を鞄にしまった。

「春乃にもたせても良かったんだけど、靴下は嫌だって」

「だよね。私でさえ、今、鞄に靴下入ってるの嫌だもん…」

「ちゃんと洗ってあるから」

「え!すいません」

湊は平謝りのえりを見て笑った。

「すごい、臭かった」

「えー、恥ずかし。ごめん」

「すごい汚いし」

「そんなに?」

「泥みたい」

「言い過ぎでしょ」


「あはは。でも、穴あいてたよ。縫うか捨てるかしたほうが…」

「縫うわ」

「縫うんだ…」

「縫わないの?」

「縫わないよ。新しい靴下、百均で買っちゃう」

「何かもったいなくて…」

「100円だぞ?縫う手間を考えたらそっちの方が得じゃない?」

「そうかぁ」

「お前、そうやって新しい靴下を買ってやらんで、その分、自分の服代に回してるんじゃないだろうな…」

「んな事せんわ」

湊はえりの服を見た。

「…ま、そうか…」

「腹立つなぁ…」


「湊は、おしゃれだよね」

「うん。やっぱり一軍は服、大事でしょ」

湊は自慢気に言った。

「一軍なんだ」

「そうだよ」

「また、猫かぶってるの?」

「そうだよ」

湊は外面がいい。

えりの前でしか、本性を出してはいない。

その本性というのが、褒められたものではないからだ。

いわゆる腹黒だ。


「大変だね」

「…だけど、楽しいよ、一軍は」

「そっか。良かったね」

「…えりは?楽しい?」

「うん。ぼちぼち」

「部活入るの?」

「うん。美術部」

「へー。俺、サッカー部」

「ザ・一軍だね」

「だろ」



「湊っ」

玄関で友達の大樹が話しかけてきた。

「おう」

「おはよ」

「…何か、顔、変じゃね?」

「俺?そう?」

湊は自分の顔を触った。

(えりといるから、顔ゆるんでたかな…)


大樹は、見るからに明るくて、顔もいい、背も高い。

湊同様、一軍だ。

大樹は湊の横にいるえりに気がついた。

「…誰?」

「誰って失礼だろ…」

「ごめん。いや、なんか…」

「俺達、中学が一緒で」

「そうなの?」

「うん」

「仲いいの?」

「まぁ」

「へぇ…」

大樹は意味深な感じで言った。

「お前、何か嫌な感じだな…」

「いや、湊の友達って、ギャルばっかってイメージだから」

「なんだよ、そのイメージ…」

「清楚系も好きなんだ」

「好きって…。別に…」

「名前…」

「谷川えりです」

「えりちゃんか。可愛いね」

大樹はにっこり笑った。

「え!」

「え、可愛いじゃん。さっきは湊のイメージと違ったって思っただけだよ」

「そう…」

「湊の友達なら、俺も友達」

「どんな理屈だよ」

「なんで?いいじゃん。ね?」

「うん」

えりは笑った。

(ダメだダメだ…!)

「でも…、俺と谷川はそこまで仲良くないし…」

「…お前の方がよっぽど失礼じゃん」

湊はえりをチラッと見た。

(あぁ、高校は、こういう感じでいくのね。了解)

えりは湊の気持ちをくみ取った。

「そう。今は、たまたま声かけてくれただけで…」

えりが弁解した。

「そうそう」

湊も同意した。

「…ふ~ん。じゃ、俺も会ったら声かけよ」

(かけんな…!)


「大樹、教室いこ。どうせ、また宿題写すんでしょ?じゃ谷川。バイバイ」

湊は大樹の肩を組んで教室方面へ進みだした。

「えりちゃん、バイバイ」

大樹は振り返って、えりにニッコリ笑って言った。



えりと別れて教室に入る手前。

「ホントは仲いいんだろ?」

大樹は湊の肩に手を置いて言った。

「知らん」

「仲いいどころか好きだったりして…」

「違う」

「可愛いなぁ」

「違うって!」

「清楚系もいいよな」

「やめろ」

「ん?ヤキモチ?」

「もう!違うから!」

「あははっ。黙ってやるから、宿題。見せて?」

湊は、宿題を出すと、悔しそうに大樹の差し出した手にポンと乗せた。

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