俺が幸せにしてあげる 湊の奮闘(読み切り)

湊とえりは同じ高校だ。

湊はサッカー部でえりは美術部。

湊は部活が始まる前に、えりのいる美術室に遊びに行くことが度々あった。

今日は、サッカー部が休みだったので、湊は美術室で、顧問の先生のお茶をこっそり飲もうかと、えりの所に向かった。


「えり」

「あー、湊か…」

「なんだよ、その言い方…。パブロ君となんかあった?」

パブロはえりの恋人だ。


湊はえりが座ってる席の、前の席に座った。

「…何でいつもわかるかね…」

「えりが単純だから」

「そうかなぁ」

「単細胞だから」

「より悪い方に言い直すな」

「あははっ」

笑う湊を見てえりの気持ちは少し軽くなった。


「で?今回は、どうしたの?」

「何だと思う?」

「うざ」

「単細胞の考えくらいお見通しかなと思って」

「…別に聞きたくないから、いい」

湊は立ち上がった。


「あー!待って」

「……」

湊は哀れんだような目でえりを見た。

「ごめんなさい。聞いて下さい」

湊はまた椅子に座った。

「ま、いつも惚気話聞かされるよりはいいか…。どうしたの?」

「…パブロが勉強忙しくて、相手してくれない…」

「…我慢してください」

「え?」

「そりゃ、医学部なんだから、忙しいでしょ」

「そうだけど」

「…あとは素直に言いなさい」

「…そんな事言ったら困るかなって…」

「じゃ、我慢しなさい」

「乱暴だな…」

「それだけ?」

「……。…忙しくて私と一緒にいる時間が短いのにね、学校で他の女子とたくさん一緒にいるのかと思うとやりきれなくて…」

「…やっぱり素直に寂しいとか、ヤキモチやいちゃうとか言いなよ」

「パブロ…、困らないかな」

「知らんけど、俺に言ってもしょうがないでしょ」

「うん…」

「それとも俺からパブロ君に言ってほしいの?」

「うん…」

「バカか…。子供のケンカの仲裁する親じゃないんだから…」

湊はため息をついた。


「えり、今日の夜、パブロ君に話してきて」

「え、今日?」

「何?パブロ君の帰り遅かったりするの?」

「いや…」

「こういうのは早いほうが絶対いいから」

「うん…」

「で、話の内容を俺に報告して」

「報告?」

「そう。明日またココにくるから」

「えー」

えりは嫌そうに言った。

「俺に怒られたくなかったら、言われた事やりなさい」

「親…」

「わかった?」

「親…」

「返事は?」

「親…」


「うるせーなっ」

湊は笑った。

「…わかったよ」

「うん。頑張れ」

「ありがとう」

「アドバイス料もらうから大丈夫」

「何?」

「アイス」

「子供…」



次の日。

「えり」

「…湊」

えりの表情は暗かった。

「…何?言えなかったの?」

湊は昨日と同じ席に座った。

「言ったけど…」

「けど?」

「時間作るのは難しいって」

「そっか…。他に何か言ってた?」

「うん」

「何?」

「好きだって」

「そうだろうね」

「大事だって」

「うん」

「学校の女子なんてどうでもいいって」

「じゃ、良かったじゃん」

「…寂しい」

「そうやって言った?」

「ううん」

「じゃ、何を言ったの?」

「もっと一緒にいれない?って」

「弱いな」

「え?」

「…俺が言う」

「え」

「めんどくさくなってきた」

「親〜」

えりは、感激したように言った。

「可愛い子供のためだ」




谷川家。

現在、えりとパブロと弟の孝司は同居している。


「あれ?湊?なんでいるの?」

帰って来たパブロが言った。

その顔は嬉しそうだった。

「久しぶり」

「うん。せっかく来てくれたから、ゆっくり話したいんだけど、勉強あって…」

「うん。あんまり時間取らせないから。パブロ君の部屋行っていい?」

「その前にご飯食べていい?俺お腹ペコペコで」

「うん。どうぞ」

「今日ね、湊がご飯作ってくれたの」

えりが、ハンバーグとサラダとスープを持ってきた。

「へぇ。めっちゃ美味そ〜」


「ごちそうさま。湊、天才だね」

「美味かった?」

「うめすぎる」

「あはは。うめすぎる?」

「じゃ、部屋行くよ」

「…連れ込まれる…」

「つまらん」

湊は冷たい目でパブロを見た。

パブロは恥ずかしそうにした。


「えりがね、パブロ君と居れなくて寂しいって泣いてた」

(泣いてはいないけど…)

「え?!」

「昨日、そんな話してなかった?」

「あぁ、もっと一緒にいれないの?って聞かれたけど」

「それ、だいぶ気を使って言ってるよ」

「そうなの…?」

「一緒に入れる時間短くてもさ、気持ちだけはちゃんと伝えないと」

「うん…」

「恥ずかしがってないで」

「はい」

「俺が帰ったら言いなさい」

「…はい」


「俺のことは?」

「はい?」

「一緒に遊べなくて寂しくないの?」

「寂しいよ。でも、大学卒業したら時間取れるからそれまで待って」

「あんまりほっておくと友達やめるかもよ?」

湊はニヤリと笑った。

「えー、待っててよ」

「…卒業したら本当に時間とれるの?」

「とるとる。そのために今、地獄みてるんだから」

「……」

「湊?」

「…それえりに伝えてる?」

「え、…伝えてるような気がする」

「改めて伝えて。今と同じでいいから」

「…はい。湊、凄すぎて、怖い」

「泣かすなよ?」

「うん…」

「約束」

「うん」



次の日の美術室にて。

「えり」

「湊」

えりは笑顔だった。

「アイス」

「何個?」

上機嫌のえりを見て湊は笑ってしまった。

あまりにも笑うから、えりは逆に心配になった。

それに湊も気がついた。

「だって、2人共俺の手の上でコロコロ転がされてるから」

「…腹立つな…」

「転がされてなよ。幸せになれるよ」

湊はニッコリ笑った。

えりは微妙な笑顔を返した。

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