そんなの俺が許さない
えり(23歳)とパブロ(25歳)は付き合って9年間のカップルだ。
そんな2人が、今、別れの危機をむかえている。
パブロに浮気疑惑がかかっているのだ。
2人の友人の湊(23歳)も当然巻き込まれる事になった。
湊は、中学の時からえりの事が好きだった。
が、その彼氏のパブロもまた友人であり、えりと同じくらい好きな人だった。
そして、えりもパブロも、湊を大事な友人だと認識している。
湊は、えりを好きな気持ちはあるが、3人でいる時の居心地の良さには、勝てないと思っていた。
なので、湊はえりとパブロがうまくいくように、いつも願っている。
ピンポーン
谷川家のチャイムが鳴った。
ガチャ
何の言葉もなく、玄関のドアが開いた。
ドアを開けたのはえりだった。
が、その顔はどんより暗かった。
「あ…、どうしたの?」
湊はそんな、えりの顔を見て聞いた。
「…パブロが…」
「パブロ君?」
「浮気…」
えりはポロポロ涙を流した。
(浮気ぃ?!)
「と、とりあえず、中に入らせて」
えりは言葉もなく、湊を家に招きいれた。
リビングに入ると、えりは膝を抱えるようにして床に座った。
(何で、そんな所に座る…?)
「えっと、パブロ君は?」
「帰ってきてない」
「そうなの?」
「女の所じゃないの」
「女ぁ?」
湊はそんな事、あるわけがないと思っていた。
湊は、多少抵抗はあったものの、えりがうずくまっている場所の近くに腰をおろした。「何で、浮気だなんて思ったの?」
「…パブロ仕事で遅くなるって言ってたの」
「うん」
「孝司もお姉ちゃんの家に泊まりに行ってるから、私は夕方から1人で街にある雑貨屋に行ってて」
「ん」
「そしたら、パブロを見かけて。女の人と一緒だった…」
「仕事関係の人じゃない?」
「仕事関係の人と2人でカフェに行く?それも、すごいおしゃれな所…」
「まぁ、確かにね…」
「パブロは、私に嘘ついて女の人と一緒にいたんだよ…」
「うーん。それだけ聞くと怪しいけど、でも、パブロ君だよ?浮気なんてするかなぁ」「パブロの何を知ってるの?!」
「…そだね」
「ヘラヘラして見えるけど、実は頭いいし、冷静な所もあるし、私なんて簡単に騙せるって思ってるのかも」
「まぁ、前半部分だけは同意するけどね。浮気はするかなぁ…」
湊は腕を組んで考えた。
「しなさそうな人が浮気したときが一番ショックなんだよ…」
「とりあえずさ、パブロ君本人に聞いてみようよ」
「やだ。話もしたくない!」
「ちゃんと聞かなきゃわからないよ?」
「聞きたくない…」
「じゃ、俺が聞くから」
湊はため息をついた。
えりは首を振った。
「想像だけしてたらきりないよ?」
「…」
「えり」
「もう、ダメなのかな」
「ダメじゃないよ」
「もう…、その人の事好きなのかな」
「だから、聞いてみるから。でも、たぶん大丈夫だよ」
えりはポロポロ涙をこぼした。
「もう嫌だ…」
「…」
湊はえりの頭を撫でようと手を出しそうになったが、その拳を握って思いとどまった。
「えり…。俺はパブロ君の事、信じてる」
「湊だけ信じてれば?」
「一緒に信じよう?」
えりは首をふる。
(今、言いくるめたらパブロ君から奪えそうだな…)
そう思ったが、すぐに思い直した。
「パブロ君にはえりしかいないんだよ」
「…そんなのわからない」
「えりだってそうでしょ?」
「もう、苦しい。もう他の誰かを好きになれば良かった…」
「えり」
「…」
えりは湊を見た。
湊が怖い顔をして近づき、えりを睨んだ。
「そんなの俺が許さないよ」
えりはビクッとした。
「あ…、ごめん」
湊は怖がらせてしまった事を謝った。
「でも、えりが、パブロ君以外の人を選ぶのは、俺は許さない」
「…」
「えり…、他の人選ぶなら俺を選びなよ…」
湊は真面目な顔をして言った。
「湊は、やだ」
「おい、こら」
えりと湊は少し笑った。
「他の誰かなんて、パブロ君と比べたら、象とアリくらい違うと思うよ」
「アリも可愛いけど」
「バッカだな。ホントバカ」
えりはまた少し笑った。
「湊、ありがとう」
「うん…」
外からバタバタと騒がしい音が聞こえた。
鍵を開ける音がしたかと思うと、パブロがすごい勢いで部屋に入ってきた。
「えり!」
「…」
「違うから!」
えりは無言でいた。
「あの人たまたま、会って」
「…」
「あの人、結婚するし」
パブロはえりの横に座って、えりの顔を覗き込んだ。
「…余計、気持ち悪い」
「…あの人が結婚するの俺も知ってる人で」「あの人あの人って…、何?意味深な言い方」
「あの人…、大学の同級生のレイと、結婚するんだよ」
「レイ君と?」
「…そう。でも、駆け落ちするって…」
「駆け落ち?!」
「うん…。それ、止めるように言ってたんだけど…」
「止めれたの?」
「いや、二人とも…」
「?」
「そういう楽しそうなの好きなんだよ…」
パブロはため息をついた。
「俺は、親いないから…、わざわざ自分から親を切るの意味わかんなくて…」
「そうだよね」
二人は悩むように黙った。
「あの…」
湊が喋った。
「あ、湊、ごめん」
パブロは我に返ったように言った。
「うん。帰っていい?」
「湊、ありがとう」
「うん」
「湊」
「何だよ」
湊は笑いながら聞いた。
「また、今度遊ぼう」
「いいけど、今、もっと大事な事あるでしょ」
湊がえりを指さした。
「うん。湊」
「もう帰るよ」
「湊」
「うるさいなぁ」
湊もパブロも笑った。
「ありがとう」
「それはもう聞いた」
「…」
「パブロ君が心配してるような事は何もしてないよ」
「うん…。ごめん…」
「いいよ」
「湊、こんなんキツいよね…」
「キツくないよ」
「そっか」
「そうだよ」
「何が?」
えりがポカンとして聞いた。
「俺と湊だけの話だから」
「おら、そんな言い方しない」
「あ、ごめん」
「パブロ君とえりを幸せにするのが、俺の役割なので」
「お前の役割は俺とえりに可愛がられる事だよ」
「ハハッ。嫌だな」
「湊が思ってるよりずっと、俺は湊が大事だよ」
「わかってるよ」
「わかってんだ」
「そうだよ」
照れる湊が可愛くて、パブロは笑った。
「それ、えりに言ってあげなよ」
「うん」
湊は谷川家の玄関の扉を締めた。
(はぁ…。今頃、ラブラブしてんのかぁ…。いいなぁ…)
湊は月を眺めながら、歩きはじめた。
(俺、偉いなぁ…)
(仲直り出来そうで良かった…)
湊は安心した気持ちで、家に向かった。
腹黒男子は遠恋中の彼女に片思い Nobuyuki @tutiyanobuyuki
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