第31話 シロの仁義
「あれがビッグフットゴブリンだ」
足だけが五メートルくらいあるゴブリンが、次々と鎧をまとった人間たち──おそらく、あれが王都軍なのだろう──を踏み潰していく。
司令官らしき人物が声を荒げる。
「貴様らしっかりせんかっ! 向こうは、もうシャーマンゴブリンを討ったんだぞ! こっちも倒したと報告してるんだから、さっさと討ち取るんだ! 向こうより早く首を持って帰らねば、我らに出世の道はないぞ!」
なるほど。
二手に分かれて迎撃した二つの部隊。
それが功を競い合ってて、こっちは上手くいってない、と。
だから先にブラフの報告を飛ばしといて、いま帳尻を合わせるために焦って戦ってるわけか。
「にゃ。これ人間チーム全滅するにゃ」
たしかに戦術も何もなく、王都軍はやみくもに突っ込んでいくばかりだ。
対するビッグフットゴブリンは、向かってくる王都軍を踏み潰すだけ。
これじゃ戦いになってない。
一方的な虐殺だ。
「ガルムはどうするにゃ? 人間を助けるにゃ? それともゴブリンを助けるにゃ?」
それが問題だ。
オレは人間だし、基本人間側だ。
でも、鎧ゴブリンを確保しなきゃならない。
鎧ゴブリンを確保すれば、多くの知識が手に入る。
オレの姿を元に戻す方法や、オレの中にある魔王の器をどうにかする方法も見つかるかもしれない。
おまけに、不可抗力だったとはいえ、ゴブリン達がバラバラに暮らす原因を二千年前に作ったのはオレなのだ。
正直、どちらにも肩入れする要因はある。
「う~ん」
どうにも決めかねたオレは、トントンと宙を蹴りながらマントでホバリングし、空中に留まったまま時間を稼ぐ。
本来なら人間たちを助けつつ、鎧ゴブリンだけ確保するのが普通なんだけど。
さっき、オレのせいでゴブリン達が二千年もバラバラになっちゃったって話を聞いちゃったからなぁ。
「うおおおおおおおおお!」
ん? なんか気合の入ったのが一人いるな。
と思ったら。
その気合の入った人間は、ビッグフットゴブリンの足を踏み台にして宙に跳ぶと。
「死ねえええええええええ! ゴブリン!
見覚えのある技名。
見覚えのある声。
そして、見覚えのある顔。
ユージだ。
トンっと軽く宙を蹴ってユージの剣撃をかわしたオレは、そのまま人気のない場所へと着地すると抱えていたナイソウとシロを放す。
「にゃにゃ! ユージ! ボクにゃ! 前に約束してた『一生ご馳走食べ放題&豪邸住み放題』はどうなったにゃ!?」
親しげに駆け寄っていくシロに、ユージは迷いなく斬りかかる。
「にゃ!? なにするにゃ!? 『エン・コン』探索の報酬を渡してほしいにゃ!」
ヒョイとそれを避けたシロが抗議の声を上げる。
「報酬だと? 魔物の手先に成り果てた貴様が何を言うっ!」
ジュバッ!
「ガルムは魔物じゃないにゃ! 汚いだけの人間にゃ! それにシロは『柴犬亭のご飯&宿一年間無料』のクエストを受けてるにゃ! なんもくれんユージは文句言う資格ないにゃ!」
「だが、今その魔物をかばっているだろう! それが魔物の手先ではなくてなんと言う!?」
「ボクの依頼された仕事は鎧ゴブリンの確保にゃ! 約束を
「無責任野郎……このオレが?」
「無責任野郎にゃ! ガルムに負けたのが悔しくて尻尾を巻いて逃げ出した哀れな負け犬にゃ!」
「シロ……貴様のことは前から気に食わなかったんだ……。ここで刀の
「言い返せないから殺すってかにゃ!? ほんとクズだにゃ、ユージは!」
すごい勢いで
その剣幕に押されながらも、シロがオレのことを「ガルム」と呼んでくれたのは何気にちょっと嬉しかったりもした。
ユージの周りに兵士たちが集まってきた。
「ユージ様、どうされました!?」
ユージは剣先をオレに向けて叫ぶ。
「あのゴブリンが諸悪の根源だ! あいつを殺せば、手柄も出世も思うがままだぞ! さぁ、我らがセレストリア王国の力を見せつけてやれ!」
目の色を変えた兵士たちがオレを見つめる。
あれ……これって……。
オレ、人類の敵扱いになってない……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます