回復とご飯
「ルシェ。昼ご飯です」
体が動かないのでぐったりとソファーにもたれかかっているとヒャクの声が聞こえた。
ヒャクの方へ視線を移す、ヒャクは今までのフリフリエプロンはつけていなく、普通の動きやすいエプロンに変わっていた。似合っているな。勇者。罪深すぎる。
そしてヒャクの持っているものを見る、鍋。美味しそうだ。這いつくばっても食べよう。
「ありがとうございます」
そのままヒャクが持ってきてくれた。起きたばかりよりは痛みは引いたが、まだ歩くには勇気がいるので、とても助かる。
そのまま待っているとヒャクは私の近くに来て、ソファーの近くにある机の上にお粥を置いた。
「ルシェ。食べられますか? もし食べられなければ僕が食べ」
「あっ。ヒャク動く! さっきより動く、これならいける」
ヒャクのご飯だ。食べる以外の選択肢はない。体を頑張って動かすと少し動いた。これはいける。そのまま机に向けて体を傾けると鍋の横にあるレンゲが目に入る。
腕をゆっくり動かしレンゲを持つ。よし! レンゲはなんとか持てそうだ。レンゲに触れると手の平が傷口に当たりピリピリするが、それくらい我慢だ。
「僕のドキドキを返して下さい」
ドキドキ? ああ、心配か。食欲があるかとか、ご飯は食べれるかとか考えさせてしまったのかな。それは悪い事をしたな。
「ヒャクのご飯は食べたいから絶対食べる。だから心配しなくて」
「本当に返さなくて良いんですよ」
キリッと言うとヒャクが未だに拗ねていた。きっとあっさり体を動かすなと言いたいんだな。さっきちゅうを避けなかった事を根に持っているんだな。
「流石に二時間くらい休んでいれば良くなるよ。今ならちゅうしてきても避けられるよ」
もうちゃんとヒャクの予想通りに動ける。安心して欲しい。問題ないとヒャクに言うが、ヒャクは少し拗ねたような表情をしていた。
「ルシェ。これ以上僕の心を弄ぶようでしたが、今度は麻痺を付与してキスをしますからね」
「ちょっと待て、それ、避けられない。ってかヒャク、さっき、避けなかったことを根に持っているんじゃ」
「避けなかったこと?」
「満身創痍で動けないって言っていたのに、あっさり体が回復しすぎでしょ。色々考えさせちゃったみたいだし、ごめん」
正直、私もびっくりだ。ヒャクのご飯を食べようとしたら体が動くようになった。ならあの時なんで避けられなかったんだと思う。
そう伝えるとヒャクはじっと私を見てき、突然クスクスと笑う。
「ルシェ。まだ全快とは言えないですよ」
そのままヒャクをみていたら私の手からレンゲを取る。お粥を少し掬い。私の口元に持ってくる。え? これ? あーんだよね?
「いや。自分で食べれる」
いくら好みとは違うと言っても綺麗な顔であーんとされたら、心臓も一回くらい跳ねる。そしてこのままときめくのはヤバい。頼むから気持ち悪い事を言ってくれ。いつものように「お嫁様を看病するのは婚約者である僕の役目です」とか。うん。これならレンゲを奪える。
「ルシェの怪我は手の平が一番酷いんですよ」
まとも! なんで突然まともになってるんだ。そっか。普通が一番と言ってたからか。あぁ。まともに心配されるとレンゲを奪いにくい。
「知ってる。けど、握れてる。いける」
「いけないです。握れたからと言って無理をするのは良くないですよ。ほら、あーん。ちゃんと大人しく食べないときちんと治るまで手を動かさないように手に麻痺を付与しますよ」
安静(麻痺毒)おかしいでしょ。だが確かにヒャクの言うことは一理ある。ヒャクはただ手が痛いから悪化しないよう気にしてくれている。それでもヒャクはわかっているのだろうか。あーんと言うのはある程度仲が良い関係がするものだ。
ってヒャクに言うのもな。勇者。情報が中途半端なんだよな。そっとヒャクの方を見ると。ご飯ですよと近距離で微笑んでいる。優しさが眩しいな。意識してしまいそうだが、ヒャクの優しさと考えると無下に断れない。
未だに私の口元に未だに居座っているレンゲに近づきそのままゆっくりと口を開け、食べる。
飲み込み易い。火傷しないようにか少し温くなっているんだ。婿修行。以前言っていた言葉が頭に浮かんだ。さりげなく
「食べれますか?」
「うん。少し冷めていて、丁度良い。猫舌だから少し冷ましてくれたんだ。あり」
「ルシェ。あーん」
さっさと食べろと言う事か。確かにヒャクのご飯も遅くなってしまう。そのまま続けて食べる。最初は気にしていたヒャクとの距離も食べ終わる当たりにはあまり気にならなくなっていた。よし、ときめいていない。セー
「ルシェは本当に僕のご飯が大好きなんですから」
フト。ふわりと柔らかく笑うヒャクの表情は綺麗で、その内、心まで捕まれてしまいそうだ。普通が一番だなんて言わなければ良かった。
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