10
「ルシェ! ルシェ!」
ルシェ? 私の名前だ。なんで私を呼んでいるんだ? あっ。朝ごはんかな。今日は起こしてくれるんだ。ずっと見ているだけって気味が悪いし。
起きるから。そんなに呼ばなくていいよ。そのまま立ち上がり起きようとするが、体が動かない。腕も鈍く痛んで動かしにくい。何でだ。力を入れると何とか動いた。よし、まずはシーツに手の平を付けよう
「い、いいい、いたっ」
手の平が地面に触れると先ほどまでと段違いの痛さがした。え? なんで? 何があったの? 寝てたんじゃないの?
「お嫁様! 休めば治りますので、このまま休んで下さい」
そのまま目を開けると神が上から私を見下ろしていた。至近距離と言うわけではないが結構近い。どう言うことだ? 神の隙間から見えるのは居間の天井? 部屋で寝てたんじゃないの? ここは? 感触からしてソファーかな? いや、けど私の頭の感触は少し違う? 枕でもない?
「お嫁様。話を整理していきましょうね」
神がゆっくりと言った。神の声が穏やかで聞いていると少しと落ち着いた。
「整理?」
そのまま神の言葉を繰り返すように口に出すと、神が私を安心させるようにゆっくりと微笑んだ。
「ええ、まずは僕があなたの元に嫁いだ話からですね」
「ちょっと待て! 記憶が混濁しているからって、嘘つくな!」
この状況で記憶を改ざんしてくるとは。油断も隙もない。だがお陰で少し頭が働いていた気がする。
「ふふっ、嘘はついていないですよ。お嫁様は僕が一緒にいるのはご存知のようですね」
知ってる。この男が突然来て、私は邪竜を討伐することになった。いや、倒していた。そうだ、ぷよぷよした何かを叩いたら邪竜が
「消えた。あれ? 邪竜は……倒した?」
「ええ。その通りです。あなたのおかげで邪竜は消滅しました」
正解。そう言うように目を細めると柔らかく笑いかけるように言った。そのまま神の言葉を待つように見ていると神はゆっくり口を開いた。
「満身創痍のお嫁様はそのまま倒れられたので、いまは僕の膝を枕にしてお休みされています」
膝を枕? ……膝枕じゃん! だから妙に近かったんだ。って思っている場合じゃない。膝枕は回避したい。残っている力を引き出し思い切り立ち上がる。
よし。さっきよりも動くようになった。体を起こし、このまま立ち上がろうと思ったら、体がふらつきそのままソファにもたれかける。もう一度立とうとするが体に力が入らない。最後の力を振り絞った気がするな。まぁ良い。膝枕が回避出来た。
そして首は動かせたので部屋を見渡す。やっぱりここはうちの居間だった。どうやら神が運んでくれたようだ。
それから神を見ると全身血だらけだった。血だらけ? って私の膝枕している場合じゃないだろ。
「神様。血だらけ、っー」
神に反射的に近づこうとして体が痛くなる。ダメだ。無理だ。動けない。ソファーにもたれかけながら神を見る。服は乾いた血がペンキとまではいかないが染まっている。手にも乾いた血が所々ついている。結構、ヤバいよね?
「まずは自分の治療だ! 話は良いから、早く!」
「ああ。これですか。これはお嫁様の血ですよ。お嫁様を治療していた時についたようです」
私の血? 治療。神の言葉で自分の体を見ると手足には綺麗に包帯が巻かれていた。そっか治療してくれてたのか。
「あ。ありがとうございます」
「いえいえ、お嫁様。暫くは安静ですよ。まずは横になって僕の膝を」
「いや、ソファーに寄りかかっている方が楽です」
膝をどうぞと言わんばかりに膝に触れていた。膝はもういい。
そして改めて今の話を考える。邪竜を倒した。って事はゲームクリアって事だろうか?
「神様。これで終わりですか?」
「まだ控えておりますが、大きな山場は終わりました」
まだ残っているんだ。なんだろ?
「神様。次の予定は」
「僕とお嫁様の結婚ですね」
なんだ残りはエピローグの消化か。私と神は結婚しないし、ゲームクリアか。
「そうでしたか。どうやらハッピーエンドのようですし、もう山へお帰り下さい」
なら神も私に色仕掛けをする理由はない。邪竜が戻る前の生活に戻るだけだ。
「山? もしかしてお嫁様の言っていたお城は僕の山ですか?」
首をかしげ、あざとい仕草で言った。ん? どうしてこうなる? いや、このゲームがどんな知らないがこれは間違いなくクソゲーだ。ゲームクリア後は普通日常に戻るもんでしょ。なんで神の所に嫁がなければいけないんだ。
「いやいや、邪竜を倒しましたよ。終わりです。これからはそれぞれの道を歩んで行くんです」
「討伐もまだ終わってませんよ。ボスは倒しましたが、中ボスも討伐した方が良いですし」
神がふわりと笑った。おい。後はエピローグの消化じゃないのか? 結婚どころではないだろ。……って、中ボス? そう呼ぶと言うことはやっぱりこの神は知っているんだな。ん? ボスに中ボス。ラスボスはいないのかな。
「このゲームはラスボスはいないんですか?」
「ラスボスはお嫁様ですよ」
今日の夕飯はオークですよと同じテンションで言わないで欲しい。一瞬、そうなんですか。って言いそうになったじゃないか。私の他に嫁がいる可能性にワンチャンかけてみたいが、そんな事言ったら変なスイッチが入る。そっか、そうなのか。私が魔王だったのか。
「驚かないのですね」
ふふふ。と笑いながら言った。驚かせたいならもう少し驚かせるように言って欲しい。
お陰で少し冷静になれた程だ。魔物の血で強くなる。どこかで思っていたが、はっきりと言葉にされるとクるな。そっか。私は自分の意思関係なく闇落ちをしてしまうのか。
「受け入れるのに時間がかかってるんです」
「そうですか。魔王も素敵ですよ。世界を滅ぼせる力を持っていますし」
「滅ぼすって……力は自分よりも強いヤツ戦うためにあるんです」
俺より強いヤツと戦いたいとかそんなわけではないが、自分よりも強い悪に立ち向かう方が良い。
「勇者の心を持った魔王だなんて、流石僕のお嫁様ですね。……と言いたいですが、お嫁様は魔王になりませんよ」
「なんで、わかるんですか」
「知りたいですか? 話しても構いませんが、ここからの話は聞かなかった事には出来ませんよ」
なんだここからは有料です。みたいな雰囲気。それほど大きな話なんだな。だが流石に魔王でしたより衝撃的なものはない筈だ。
「もちろんですよ。教えて下さい。覚悟は出来ています」
「覚悟……。確かにそうかもしれませんね。でしたら話しますね」
声色はいつものように穏やかだが、覚悟を見せて見ろ。そう言わんばかりの表情で、神の口が動くのがすごく長く感じた。
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