3

 待ち焦がれていたこのゲームのストーリーはとても闇が深かった。

 一番に仲間になるのはストーカーの神様。邪竜を倒すと言う設定はわくわくするが登場人物が残念すぎる。この村の誰かを仲間に出来ないか考えたが、流石に巻き込むのは気が引ける。

 諦めよう。心の中でため息をつきながら神を見る。神はそんな私とは正反対にニコニコと笑っていた。


「最初は武器の確認からですね」

「武器の?」

「ええ。そこに隠している武器ですよ。どうやらお嫁様はかなりものを持っているみたいですからね」


 神が押し入れを指差す。コイツ。私が寝ている間に家捜ししたな。女子の部屋を漁って武器を見つけるなんて、最低な男だ。下着があったらアウトだぞ。レッドカード。退場!


「邪竜討伐のためなら協力しますので、家捜しは止めて下さい」


 見られてまずい訳ではない。危ないから仕舞っているだけだ。聞かれたら渡す。ただ正直部屋の中を探し回られるのは不快だ。そんな私の言葉に対して神がキョトンとした。お嫁様のお家は僕の家ですとかガキ大将みたいなことは言うなよ。 


「家捜し? そんなことしませんよ。押し入れの中と寝具の下は聖域ですし、いくら僕たちの関係と言えど侵害できませんよ」


 なんだその知識は。ってか普通にエロ本がある前提で話すな。女子だぞ。嫁って呼んでいるだろ。止めろと言っているけど。一応嫁扱いしている女子の部屋だぞ。なんなんだこの神は。


「そんな不埒なベッドは持っていませんよ。なら武器はどうやってわかったんですか?」

「わかりますよ。僕がお嫁様の家に来れたのこの武器に導かれたようなものですし、えーっと。こう言うのは恋のきゅーぴっとって言うんですよね」


 そうか。漫画とかで良くあるあそこにつえー奴がいるとかそんな感じか。見た目は格好良い武器だったのに呪われた装備だったとはな。装備しているとストーカーの神が来る。武器も見た目からはわからないな。これからはホイホイと持ち帰るのは止めよう。


「武器が目当てでしたら渡しますよ」

「いえ、お嫁様はここにある武器が霞んでしまうほどに魅力的ですよ」


 先程のエロ本と言い、この神は私のことをどう思っているか気にかかる所だ。武器と比べられるのはとても不本意だ。


「そんなことないですよ」


 それでもこの神に魅力的とは思われたくない。私の話に脱線しないように急いで押し入れを開ける。押し入れの中に仕舞われた武器達が神の視界に入る。ダンジョンから拾った様々な武器は手入れの方法がわからないのでそのままだが、それでもくすまずにキラリと光っているものばかりなので、それなりの物だと思う。

 山神はその武器達を見つめがら、感心するようにため息をついた。


「これはプリトウェン。エクスカリバーもありますね、流石、お嫁さま」

「え? エクスカリバー?」


 エクスカリバーは強い武器の定番だ。選ばれし者が引き抜く剣。私、勇者の武器を手に入れていたんだ。あれか。あれ。私何かしちゃいましたか? 転生したら言ってみたいセリフだが。この男相手は止めた方が良いのは間違いない。最終的に結婚しましょうとか言われそうだ。

 そして気になったのが。そんな素敵な武器達に囲まれているのに私は一番木の棒がしっくりくる。もしかして拾えはするが装備出来ないとかそんなのか。勇者じゃないと? いや、そしたらそもそも引き抜けないはずだ。


「お嫁様? どうされましたか?」

「そんな凄い武器だったなんて」

「そうですね。ここにある武器はこの武器に比べると見劣りしてしまいますからね」


 そう言いながら山神が指を差したのは木の棒だ。ダンジョン攻略には欠かせない私のズッ友。しっくり来る武器だとは思っていたが、流石にエクスカリバー以上の物だと予想はしていなかった。


「これ?」

「ええ。この混紡? 槍? は僕の行動範囲の中で一番強い武器です。百年先には伝説と言われていますね」

「木から作ったただの棒なんですけどね。伝説の木だったのかな」


 凄いな。適当に作った武器が選ばれし武器。拾った武器はエクスカリバーと言い、勇者適性が高いな。きっと私は勇者なのだろう。主人公として申し分がないな。まあ問題はお相手だ。ストーカー属性の神だなんて、何処向けだ。ヤンデレはご遠慮願いたい。フラグは折るもの。


「いえ、元々の木は大した事がありません。この木材は魔物の血を多量に吸っているんです」

「魔物の血?」

「ええ。呪いに近いですね。聖剣とは正反対のものです」


 たくさんの魔物の血を吸った呪いの木の棒。これ伝説は伝説でも呪われた装備の類いでは? それよりもちょっと待て。私、生きているよね。魔物の血を吸った呪われた装備とか。ガチでヤバいじゃん。私、ちゃんと生きているよね?

 目の前の山神は実は生きているものには見えないとか、何度か死にかけていたかもしれない。


「どうされましたか?」

「もしかして、私は実は幽霊だから神様が見えてるとか? いや、ない……ですよね~」

「お嫁様は生きておりますよ。ほら。えーっと。足があります」


 おい。神。適当すぎるだろ。幽霊じゃない。足だけの幽霊にはなんて言うんだ。


「そしたらこの呪いの武器は」

「それはお嫁様以外人間の話です。お嫁様にとっては聖剣のようなものですよ。お嫁様は魔物の血との相性が良いですからね」

「相性?」

「強い魔物の血は魔力が含まれているので、本当は人間にとって毒なんです」


 山神の言葉でちょっと考えてみる。私はこの木の棒で殴り魔物を倒している。なので私も結構な血飛沫を浴びている。


「いやいや、そんな事は。それだったら私数えきれないくらい死んでるし」

「お嫁様は魔力が強いですからね。僕の行動範囲の中で最強の人間ですよ」


 最強。それはちょっと嬉しい。って違う。それはおかしい。と言うか昨日山神に麻痺られたのは忘れていない。神には及びませんがね。とか言う奴か。なんて嫌な神なんだ。


「昨日のこと忘れていないですかね? それに私、魔法は使えないし」

「力でゴリ押しされたら敵わないですよ。お嫁様の魔力は肉体強化に特化していますからね、それに魔物の血を自分の力に変える力もありますし、魔物の血を浴びる度に強くなるんです」


 肉体改造に特化していると言う事か。力技でゴリ押しだなんてゴリラじゃん。勇者は剣一本で戦うからな。ある意味ゴリラか。大丈夫。まだ勇者の可能性は残っている。魔物の血とか物騒な言葉は聞こえなかったことにしよう。


「うふふ。やっぱり僕の見る目は間違いなかったみたいですね。お嫁様。一緒に邪竜の退治をして、結婚しましょうね」

「おい。いつ結婚が出てきたんですか」

「悪い竜を倒したら結婚は鉄板ではないんですか?」

「鉄板ではないですね。それに悪い竜を倒したらお姫様と結婚するんです」


 どこの世界の常識だ。勇者は姫と結婚する。なら私のお相手は姫だ。ストーカーと同性なら同性のが良い。


「それでしたら。わかりました。邪竜を倒した後はお嫁様のために僕が国を作るんですね」

「は?」

「僕がお嫁様のお姫様になれば結婚出来ますね」


 おい! なんで自分が姫になるって結論になるんだ。相変わらずこの神はどんな頭をしているんだ。


「無理でしょ!」

「僕、こう見えてお金と土地をもっています。適当に人間を引っ張ってきて、国と名乗らせれば。あなたはお姫様を娶る一国の王です」


 この神、ヤバすぎだろ。ってか連れて来た人間どうするんだ? こんなのに任せたら路頭に迷うでしょ。


「国はいりません! 王にもなりたくないです! とりあえず協力はしますよ。それで充分ですよね! 結婚はしません。王にもなりませんが、邪竜は討伐します! よし、オッケー!」

「お嫁様は謙虚ですね。お嫁様も一緒ですし、武器はここにある物で充分です。日にちも少なかったのですが、なんとかなりそうです」

「日にち?」

「邪竜の襲撃は六月六日です」


 今日は五月三十日。おいまて、山神。一週間後とは聞いていないぞ。


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