4
一週間後に敵が来るって唐突過ぎるだろ。確かにゲームってだいたいこんなもんだけどさ。
勇者が街に着く度に狙ったように事件が起こるし、タイミング良いのは言わないお約束。やっぱ。私は勇者、なの、かな? そうだ勇者だ。そう思っていないとやっといられない。魔物の血うんぬんはきっと闇落ちゲージとか設定されているんだな。きっと誰かが“ちょっと雰囲気暗くなった?”とか教えてくれるハズだ。些細なフラグを逃すなってことか。会話を大事にしよう。
それよりも今気になるのはこの神だ。一週間後だなんてまるで攻略本でも読んだような言い方をしている。
「詳しいですね」
「僕は神ですからね」
適当だな。神と言えばなんとかなると思っているな。ツッコミたい。けど、けど! 下手に興味持ったらヤンデレエンドまっしぐらだ。聞くのも怖いし。ここは神だからという事にしよう。
「そうでしたね。確かこの村の人達をアインスに移動させるんでしたね」
「ええ。村人を守りますよ! ご近所付き合いも大事ですし、ほら、良い婿を貰ったとお嫁様の評判も上がります」
名案とばかりに言っているが私はこいつを婿に貰う予定はない。と言うかこの神は婿入りするのか。私が嫁になるんじゃないんだ。まぁ、嫁入りもごめんだが。
「今の評判で充分です。それよりもこれからどうするんですか? 一週間しかないんですよね」
「そうでしたね」
神がきょとんとした表情で言った。そう言えばこの神は一週間と言っている割に先程から真剣な表情などせずに頭の中に詰まっていそうな花ビラをひらひらと振りまきながら笑っている。
それをつかみ所がない男の一言で済まして良いのか気になるが、深入りしたくないと言う気持ちがこれ以上考えるなとブロックする。
とりあえず私がすることは邪竜を倒す。それだけだ。私も命も貞操が惜しいし、割り切るしかない。
「お嫁様。ここを仕切っているものを案内してくれませんか。あっ、その前に僕、ちょっとしたいことがあるので、家の中で待っていてくれませんか?」
「は、はい」
「お嫁様。この家が暗くなるまで外に出ないで下さいね。お嫁様に隠し事はしない方が良いのですが、恥ずかしいので、あの、こう言うのはもっと先、ですし、ね」
マイペースに甘えるような声で続けると神が外に出る。何が起こるのか予想がつかないが覗かない方が良いのだけは確実に伝わった。暗くなるまで。夜までだろうか? 外に出られないのは残念だが、神と離れられるのは嬉しい。
よし、自由だ! と思ったのもつかの間、突然、家の中が陽が遮られたように暗くなる。そして外が騒がしい……気がする。
神の仕業と嫌な予感がする。そうだ。まだ夜ではない。よし、待機だ。
『お嫁様。迎えに参りたいので、屋根を吹き飛ば』
「さないでくれ~~~!!!!」
家の中に神の声が響く。屋根を引き飛ばすとか言っていないか? 我が家のピンチに急いで扉を開ける。扉を開けると村の人達が視界に入るが、私の事など気にせずに空を見ていた。
空? 確かに目の前の暗さは何かの影のせいっぽい。なんだろう。私も急いで空を見上げるとそこには緑のようは灰色のような不思議な色の竜がいた。
え? 何? 再び村人を見ると村人が竜に対して手を合わせたり、頭を下げたりしていた。何が起こっているかわからないが、私も手を合わせる。ストーカーに追われています。助けて下さい。
「ルシェ様、
空から神の声がした。声の方向を見ると竜がいる。どうやらこの竜は神らしい。竜の姿に変身するのか、見るなと言うのは変身シーンを見られたくない。と言う事だろうか。バレちゃ不味いとか? いや? 私にばっちりバレている。
「私に何かご用でしょうか」
私が唖然としていると、村長が私の前に出るように現れると、土下座するように頭を下げた。
「
村長の名前はシンディって言うんだ。詳しいな。そう言えば私の名前も呼んでいた。ストーカーと言う理由だけではなさそうだ。やっぱりこの男は神なんだろうな。
「この姿ですと首が痛くなってしまいますね。お待ち下さいね」
未だに土下座をしている村長に語りかけるように声が響くと突然竜が光に包まれた。
光に目が眩み目をつむる。光が止むと今まで竜がいた場所には青空が広がっていた。突然の消失に驚いているのは私だけではなく、村の人達もだった。特に村長は土下座なのか地面にキスしているのかわからないくらいにぴったり頭を地面に付けている。
「僕はこちらです」
気付いたら人の姿に戻った神が村長の前に立っていた。服はもちろん着ている。服も一緒に変身するのか。
そして神の儚げな容姿に村の女の子達が黄色い声援を上げる。顔は綺麗だもんな。顔は。中身はヤバい。激ヤバだ。言葉は通じないし、逃げても半日追いかけてくる。止めた方が良い。
「改めて、僕はザンクトゥリウム山に宿っている神です」
神がそう話すと野太い歓声が増える。男性人気もばっちりだな。どこのアイドルだ。苦々しい気持ちを抱えながらも私はこの後どうなるか見守る。それしか出来ないし。
「神様がわざわざこの村に、どのようなご用事でしょうか」
「僕はこの村の悪しき未来を視ましたので、貴下らを救いにまいりました」
その言葉にまわりがざわつき始める。膝を地面につき手を合わせる物もいる。神の登場。そして破滅の予言だもんな。
「神様。悪しき未来とは」
「七回太陽が昇る頃、この村に厄災が起こります」
「厄災が?」
更にどよめく。突然空に竜が現れたと思ったら厄災だもんな。急展開にも程がある。開口一番「お婿に来ました」よりはマシだがな。
「ええ。この村に生きる物を救うのが僕の役目です。僕が対処します」
「神様。私共に出来る事はございませんでしょうか?」
「ここは戦場となります。ここに住んでいる者は皆、明日中にアインスへお逃げ下さい」
その言葉に村人が頭を下げた。反対する人はどうやらいなさそうだ。まぁ神に戦力外だと言われているようなもんだしな。
「ルシェ様は僕と一緒にここにとどまって下さいね」
突然の私の名前に村中の人々が私へ注目する。
「ルシェ?」
「はい。僕はルシェ様をお慕いしております。ルシェ様もアインスで平和に暮らして頂くのが良いとは頭ではわかっているのですが、ルシェ様が気がかりで、気がかりで邪竜を取りこぼしてしまいそうです」
およよって効果音が似合いそうだ。邪竜を取り溢すって、何処か他人事だな。
それよりも女子の視線が痛い。大衆の面前での告白だし、誰よこの女って奴だ。だよね。私としてもいつでも身を引きたい。
唯一仲の良いミカちゃんはやるじゃんって見てくれているが、違う。ミカちゃん誤解だ。既成事実を作らないでくれ。
「神様。ルシェは聡明ですが、村一番の豪傑です。その豪快な性格で何かとご迷惑をおかけする場面が出てくるかもしれませんが、ルシェの事をどうぞよろしくお願いいたします」
豪傑。褒められているのか貶されているのかわからない。不思議な言葉だ。それよりも村長、よろしく頼まないでくれ。ルシェはよろしくしたくないです。
「ええ、雄雄しくて。山で過ごすのに心強い家庭的な御方です」
おい神。豪傑を肯定するのか! そして何だそのドヤ顔は。こっちみんな。村長公認ですねって言っているのは伝わる。みんなして既成事実を作ろうとしているな。ここが地獄か。
それに雄雄しいって言葉にも気付いて居るぞ。なんだ雄雄しいってゴリラとでも言いたいのか? 家庭的なゴリラってなんだ。仮にも嫁ならばもう少し可愛く言え。嫁じゃないけどさ!
「昨日も兎を狩り、丸呑みにされていて」
ぽっと頬を染めたようにあざとく続ける。その言葉にミカちゃん以外はドン引きだ。多分私に対してだと思う。
村長もとてもひきつった顔をする。心なしか村人の私に対する視線が冷めている。唯一呆れた表情をしているミカちゃんが天使に見える程だ。俺、この戦いが終わったら、この村にいられないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます