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私というかこの神は七日間かけて村人を救うらしい。天地創造じゃなくて天地救世。流石神様だ。
神は村長とこれからの事を話して、いないな。ひたすら土下座してる村長にスピーチしているようだ。ただ話は結論から話し、要点も簡潔になっていてわかりやすい。村人の質問にも的確に答えている。頭の回転が速く私に話しかけている時とは別神だな。なんなんだろうな。
神の話は気になるけど私はとりあえず待機だ。下手にあの輪に入ると既成事実が増えてしまう。
そっと少し距離をとって空を見上げる。何事もなかったように澄ました感じで太陽が輝いていた。私以外は平和だな。
疲れがどっと出たのか欠伸が出てきた。つかの間の平和だな。
「お嫁様。先程の熱い視線は、その、もしかして、今晩は、寝床をあたた」
「めんで良いです。話の途中ではないんですか?」
ぼんやりとしていると突然声が聞こえた。おかげで一気に目が覚めた。
とりあえず断りながら神を見るとうっとりした口調に手をもじもじさせていた。先ほどまでイケメンが台無しだ。ホント、隙あらばだな。話の途中じゃないのかと周りと見回すが、既に人は引き払っており、まばらになっていた。そんなに時間が経ってたのか。
「そんなつれない事を言わないで下さいよ。とっくに終わっています。お嫁様がずっと熱烈な視線を送ってくれたのでいつもよりも張り切ってしまいました」
「熱烈な視線は気のせいです」
否定しているが、神はニコニコと嬉しそうにしている。うわっ。腹立つ。
「気のせいじゃないです。ずっとこんな感じで僕の事を見て」
「神様がまともに話していて驚いただけです。なんで私と話している時はそんな奇怪なんですか?」
神がこのままずっと見つめていそうだったので急いで話す。うんざりしている私とは正反対にパァッと明るい表情をしていた。
「特別扱いです」
「普通の方が良いです」
「もしかして、それは攻略情報と言う」
「違います」
攻略? ここ、もしかしてここはギャルゲーなのか? もしくはたくさんのストーカに囲まれる乙女ゲーとか? いずれにせよこの神とのルートは勘弁して欲しい。
「ふふっ。お嫁様は難攻不落ですね。もう少しお嫁様とここにいたいですが、もう少ししたら夕暮れです。夏に近づいているとはいえ、冷えてきますし、家に帰りましょう」
ナチュラルに我が家に向かっている。ああ。村人が残っていなければ断れるのに。血の涙が出そうなくらい悔しい気持ちを抑えて、ゆっくりと相槌を打つ。
「ソウデスネ」
「はい! 今日の夕ご飯は僕が作りますね」
「それは嫌……いや、流石に神と人は食べ物の違いが」
当たり前と言わんばかりに我が家の台所へ向かう神へ伝える。この断り方は可笑しくないはずだ。いける!
「兎の丸呑みは僕達の食生活に近いですよ。それに僕はお嫁様の婿のなるために婿修行をしてましたから」
「婿……修行?」
ダメだったか。それよりもなんだ婿修行って。あまり聞いたことがない。と言うか初耳だ。熊を狩るとかだろうか? それくらいだったら私だって出来る。
「はい! 家事全般です。特にお料理は気合いを入れました。胃袋を掴めば僕の料理を食べに帰ってくれますし。お弁当だってご飯にハートマークを描いたら他の男の牽制になりますよね。大事です」
これは嫁修行じゃん。やっぱこの神はズレている。女子のお弁当にハートマークが描かれていたら十中八九自分で作ったデコ弁になるし、牽制にはならないと思う。寧ろ好感度アップものだ。私には似合わないのでギャップ萌えが狙えるかもしれん。もう恋愛はコリゴリだが。
この神とも直ぐに縁を切りたい。夕食ももちろん丁重にお断りをしたいがまだ村に人がいる状況で神を追い出すと私の体裁が良くない。
「頼みました」
諦めが大事だ。後七日の我慢。ルンルンと聞こえそうな程に陽気なステップで先頭になり家へと向かう神を見る。お前はうちの台所の場所を知っているのか? 案内していないぞ。その言葉の代わりにため息が出た。
関わりたくないが関わらざる終えない。ウキウキしている神とは正反対に憂鬱な気分だった。
「ご飯の前にお風呂に入っていてください」
家に着くと神が言った。正直、神一人で台所に行かせるのは不安だが、ご飯を作らせていればそれ以上のトンチキは起こらないはず。一抹の希望をかけて先に風呂に入ってしまおう。
「はい」
急いで風呂に入る。そして風呂から出ると声をかけて部屋に引きこもる。台所で神がフリフリの可愛らしいエプロンを着けていたのは気付かない振りをした。ナシよりのアリと頭に浮かんだ言葉もすぐに消した。
それから一時間くらいかな。お嫁様と呼ぶ神の声が聞こえた。とうとう来てしまった。苦い顔をしながら台所に向かうと机の上には料理が並べられていた。
肉じゃがに、なすの煮浸し、卵焼き、味噌汁。女子力を振る舞うご飯だ。盛り付けも綺麗で胃袋を確実に取りに来ているはわかった。ガチめの奴だ。婿修行と豪語するだけあるな。こちらは悔しさ全開だがな。
いただきます。と言ってから箸を持ち、一口食べる。見た目どおり美味しい。悔しい。
「美味しい」
だからと言って不味いと誤魔化してしまうのは流石に罪悪感がわく。モヤモヤした気持ちを抱えながら言うと神はパァッと笑顔になる。
「それは毎日食べた」
「違います」
言い切るとかきこむように急いで食べ「ごちそうさま」と言い逃げるように食べ終わった皿を持ち流しへと向かう。
とりあえず一人になれた。ため息をつきながら流しを見ると、引くぐらいに綺麗になっていた。調味料や料理道具の位置が少し変わっている。なんてこった。神め。うちを自分の家のように扱っているな。
「お嫁様。僕がまとめて洗いますので流しに置いておいて下さい」
「いえ、自分で洗います」
神の声が聞こえたので、返事をし食器を洗った。洗い終えるとさりげなくいつもの配置に戻す。我が家にマーキングなどさせん。死守せねば。と言っても神は我が家のように寛いでいる。うちの風呂にも入る準備をしているし、泊まる気まんまんだな。
ん? 泊まる……ここに泊まるのか? このままだと私のベットに入ってきそうだ。ここから選択は命がけだな。うちには予備の布団もないし、さすがに神を床に寝させるわけにいかない。私は押し入れの中で良いかな。武器達が一緒だし、少し心強い。よしオッケーだ!
「神様。私は押し入れの中で」
「お嫁様。自分のお布団と枕は持ってきました」
神に話しかけたら、そう言った。気付いたら横には布団一式ある。まだ話している途中だが、まぁいい。そのまま神の話を聞こう。
「僕。寝具が変わると寝られないんです」
「家は変わっても良いんですか」
「ここは僕達の愛の巣ですよ」
当たり前だと言わんばかりの神。これ以上何かを言ったら布団に引きずり込まれかねん。聞こえなかったフリをし、居間へ続く扉を見る。
「居間は空いているので、ここを使ってください」
「はい」
そのまま布団を敷く神を見届け自室へ戻る。相変わらずこの神は淡白だ。気持ち悪い言動で私を口説いてくるが、一線を越えようとはしない。
だから更に気持ち悪く見えるんだ。何を考えているんだ? 何を隠しているんだ? 気にはなるが、それは触れてはならない。それだけはわかる。
「まずは邪竜を討伐しろってことか」
木の棒をベットの横に立てかけてから私もベットの中に入る。寝返りを打って、木の棒に近づき触れる。少しだけ気分が落ち着いた気がした。
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