第2話 わたしたち受講はじめ

 大学までは徒歩で大体10分もかからない。すぐそこだ。何回も何回も前までは行ってみた。門は閉まってて、そのたびにいつ来るか分からない学生生活を夢見た。


 そして、俺は今、その門の前に立っている。いつもと違うのは門が開いてて中に人が入っていってることと、日が出ていることだ。


これが大学…か。大きい門に、塔みたいなのがついた校舎。そこに俺と同じくらいだろうか、そんな人たちが少しだけ立ち止まり、そして進んでいた。ここに行けばいいのか?


 他の学生と同じようにそっちへ行く。みんなどんな顔をしてるんだろう?ちらりと周りを見渡してみる。男、男、男、男、男、女、女、女、男、男。おんな…。女がいっぱいいる…。皆携帯を見ながら歩いている。少しだけくらくらすると同時に、俺が今までとは全く違う環境にいることに改めて気づく。


 マスクで顔は見えないが…すごくかわいい。なんか、ひらひらとしたかっこをしてて。しかも、体のラインが強調されてる。太ももなんかがあらわになってて…正直、刺激が強すぎる。


 いかん、いかん、このままじゃ不信がられりゅ。そうなる前に、早く…えっと、大学に入って、授業を受けなきゃ。


 取り敢えず人で少しだけこみ合ってる所に行ってみる。


 その近くには大学マップがあって…ていうか、大学のこのひときわ目立つ校舎の入口だった。あ、なるほど検温してるんだ。


 …たしか講義の場所は…スマフォで確認する…あ、この校舎か?


 多分、そうだな。うん。混んでるし。白いラインの上で立ち止まるよう言われて止まる。ほんのちょっとの間の後、良いですよと言われ、そこに入っていく。立派な校舎だ………。


 あ、ちがう、そろそろ講義が始まる10分前だ。早く教室を探して入ろう。


 …?ここか?


 ドアを開けてみる。


 誰もいない。電気もついてない。


 ん?違う。もう一度、携帯の画面を見て教室を確認する。


 うん…?この数字の並びからすると…えっと…真反対か…。


 少し早歩きでそちらへと向かっていく。


 ………


 結局教室についたのは5分前だった。


 既に教室には人がたくさんいて、グループみたいになってるところも何個か見受けられる。そういうのは女の子が多い。それ以外のほとんどの人は携帯電話をいじっている。


 取り敢えず、どうすれば良いかは分からないので恐る恐る端っこの空いている席に座る。そして少しだけ周りを見渡してみる。……あ、怪訝そうな目で見られた。不審者みたいに思われちまう。ポッケからケータイを取り出し、ツイッターを開く。


 …


 教授が来た。


 教卓の前でトントンと資料を整えている。


 始業の鐘が鳴る。初めてこの大学の鐘をきいた。面白い音楽だ。今までの学校とは違う。


 教授、散々声は聴いていたが、まさか禿だったなんて。…声からは思いもよらなかった。


 「えー、では講義を始める前にこちらのプリントを各自取りに来てください」


 こうして講義が始まる…。


 ……


 講義の内容は今までやってきたオンデマンド授業と殆ど変わらなかった。違うのは周りに人間がいることと、ちゃんとメモとってることだ。


 「皆さんは、まぁこういう世代なので中々大学に来れなかったかもしれないですが、やっと来れるようになったので、是非一度しかない学生生活、思いっきり楽しんでいってください」


 教授がマスク越しでも分かるような笑顔を見せる。


 こうして、初めて大学で受けた講義が終わった。無駄に緊張した講義だった。だが、ここで一緒に受けてる人は名前だけは知ってる。オンライン授業の時に一緒だった人達だから。…あ、だめだ、マスクつけてると本当に分からん。


 えっと…よし、昼か!食堂に行くか!食堂の飯はどんな感じのだろうか!


 講義中にちょっと調べた校内マップを頼りに食堂へ向かう。


 うっわ…すげぇこんでんじゃん…。いや…でも、そうかこれが大学か!!こういううのが学生生活なんだ!今まで久方ぶりに忘れてた他の人がいる場での食事。そうだ、それこそ学生生活か!


 あー、でも並んでる間暇だな。…あ、前の人はもう友達作ったんだ。なんか、喋ってるし、えと…あ、かなが…ホレーショ…?え、かながネルソン提督なの?え?あ、違う。ほれ…しょう?惚れ症か…?なんだそれ?なんか学生っぽい。


 あ、前の人が少しこちらを振り返り、目があった。…盗み聞きしてることがばれた?…不審がられる?


 前の黒髪マッシュの男から目を急いで離し、ポケットからケータイを出して急いでいじる。ごまかしになっただろうか。


 前の男はまた人と話をし始めた。さっきの話の続きだ。良かった、バレてない。気まずくはない。俺を見たんじゃなくてどれだけ並んでるのか確かめたんだろう。


 ツイッターの画面をスクロールする。


 ………


 やっと食堂の中についた。そのまま券売機まで待ち、なんとかカレー定食を頼むことができた。


 生姜焼き定食とどっちが良いか悩んだが、やはりここは珍しい、カレー「定食」にしてみた。メニュー自体はそんな変哲無いんだな。なんか普通の食堂って感じだ。


 おぼんを持って、おばちゃんに食券を渡す。…それにしても、混んでるな…。席あるのか?ん?良く見たら周りの人はリュックとか荷物とか持ってない。うわ、あのこ可愛いな。あ、あの子も可愛い。なんか茶髪のロングでマスクで顔は見えないけど良いね。お、あの子も可愛い。


 うわ…あの男、ちょっと苦手かも…。女殴ってそうな男だ…本当に要るんだ。お、眼鏡の…飯なに食ってんだ…食べる時ぐらいケータイ置けばいいのに…。お…イケメン…。あ、なんかケータイ右手に飯食うやつ多いな…。行儀悪くねぇの?


 あ、友達と食べてる。お、あそこも友達と食べてる。楽しそう。あ、女の子も仲良さそうに食ってる。お、お前ら互いにケータイいじってたけど友達だったんかい。もっと喋ればいいのに。


 って、違う違う。席空いてんのか?うーん…あ、あそこ空いてる!とられるなとられるなとられるなとられるな。


 「はい、カレー定食、お待たせしましたぁ」


 おばちゃんがおぼんの上に定食を載せてくれる。


 おぉ…ドライカレーをのっけた米、なんかドレッシングのかかったサラダ、味噌汁、マカロニ。おぉ、定食だ。なるほど、これがカレー定食か。カレーは別であるから何かと思ってたがこういうことか。


 よし、席は…まだ…空いてる!!


 よぉし!!


 なんとか空いてる席を確保し、机の上にお盆をのっける。プラ版で仕切られているが向かい側もどうやらまだ空いてる。


 放送が流れる。


 「校内でのコロナウィルス感染防止のため、飲食の際、引き続き黙食へのご協力をお願いします…校内でのコロナウィルス感染防止のため、飲食の際、ひきつづき黙食へのご協力をおねがいします」


 ……食堂は騒がしい。まぁ、そりゃそっか。友達と飯食ってるのに黙って食えなんて言ったところで学生が黙るわけねぇ。


 周りをちらちと見る。…なんだか楽しそうだ。けっこう、もう友達ができてる人多いんだな。


 …


 いただきます!!


 取り敢えず、右手にスプーンを持ち、ドライカレーを口に運んだ。…うん!まぁ、美味しいね!食堂の飯って感じだ!これで400円なのは良いね!


 うん!うん!!味噌汁もキャベツとか入ってて美味しいし、サラダもうんうん!!うん、マカロニ美味しい!!


 ふぅ…ごちそうさま!!


 うん美味しかった。


 床に置いた、リュックを背負いおぼんを返却口に戻しに行く。そして、そのまま食堂を出る…。と、少し女の子のグループと食堂の出入り口でぶつかりそうになった。前を見て歩いてほしいが、しょうがねんだ。


 「あ、すいません」


 こちらから横にずれるが、女の子は気づかなかったようだ。


 …


 友達か…。楽しそうだな…。


 そうえば、友達ってどうやって作るんだっけ。


 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る