第8話 新宿区大久保1ー〇ー〇〇 ①

 目が覚める。耳元ではちょうどShellacの曲の静かなパートが流れている。我ながらびっくりしているが、どうやら俺はロックを聴きながら寝ていたようだ。イヤフォンをはず…すぐ付け直す。


 喘ぎ声が聞こえたからだ。


 俺は…俺だけは…やっちゃいけねぇのかよ。


 …駄目元でマッチングアプリを開いてみる。通知はやはり来ていない。マッチングもしない。メッセージも一つも帰ってきてない。俺は、ずっとスワイプし続けてきた。だが、メッセージが帰って来ること自体殆ど無かった。


 さっき、警察を呼ばれた。俺がただちょっと叫んだだけで。隣のやつらはこんなにうるさいのに。


 …………おれは…だれからも…


 勢いよく起き上がり、顔をパンパンと叩く。あぁ、そんなこと考えてどうすんだよ。…そうだ、ツイッターでも開いてみるか…。


 アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、誰かの怨嗟、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ、アフィ…


 Z世代に人気絶頂。糞宣伝、テレビでやっとけよ、死ねよ、俺は無視かよ。テレビの切り抜き。卒業間近、女子大生にインタビュー、なんだかんだ友達もできて楽しかった…………また、テレビの切り抜き…このJK可愛すぎる件についてwwwwwww…まとめの誘導か…?またインタビューだ…コロナだったからこそできたこと…?コロナだったからこそ、インターネットを通じて世界の友人と繋がれた…?いま、Z世代は友情の国境が無い…?若者の韓国への友好度合いが上昇?今の若者は韓国が好き…?


 …なんだよ……おれは、わかものじゃねぇってことか…?


 …


 そうだ、エゴサしてみよう。


 えっと…コロナ…大学生…。


 コロナで大学生活終わっててまじ鬱だったけど、その分サークルにつぎ込めた…。コロナでサークル活動できなくて、友達もできない…。そう!!!!!!!!そうだよ!!!!!!!!!それだよ!!!!リプしよ!いいねとリツイートも!そうですよね!コロナだとそもそも新歓なかったりして、サークルの入り方自体分からなかったですよね!っと…あ、今時のやつってサークル作らねぇのか。大学は友達いなくても良いんです、学生の本文は勉学なので。そうやって他人にばっか頼ってるのは時代関係無くくずやろ。他責思考すぎる、そんなんコロナ関係なくボッチやろ。


 ………あぁ?ふざけんなよ…お前ら経験もしてねぇ癖に…やってみろよ。実際に、なってみろよ…もう、なれねぇからって好き勝手言い放題かよ。


 大学は遊ぶ場所じゃない。


 ……………


 そうか……


 他のつぶやきも見てみる。


 息子、せっかくの大学受かったのにやってたことは殆どPCの前に座ってただけで可哀そう。


 これ…去年のつぶやきだな…。


 分かります。うちの息子も…。自分で行動すればよかったやん。人に与えられたばっかりの人間だから、大学行っても変わんないよ。大学は友達いなくても楽しかったですよ、もう10年前ですが…。うっせぇ…作らなかったやつと作れなかったやつを一緒にするな…。


 …………あぁぁぁぁ、やっぱりそういうことか…。


 これで…そうか、おれこういうつぶやき…いままで無意識に見ないようにしてたのか。こうなるのがなんとなく予想できたから。コロナウィルスの影響を皆等しく受けていようが、それぞれが置かれる立ち位置はまったく違う。そうなると、コロナによって変化する仕方も変わるんだ。だから、お互いに、おんなじぐらい辛かったね…なんて、ぜったいあり得ないんだ。


 そうだ…おれはそのことを忘れてた…?いや、考えたくなかったのか?最初からみんな同じぐらい辛い筈だと。いや、別にそんな大層なことは思ってないけど、でもうちの家族はすげぇ大変そうだし、俺も…大変……だし…。だから、どこかでみんな大変だって……勝手に思い込んでたのか?


 …………


 わかいんだから、遊んできなよ………おれは遊びかたを知らない。Z世代の流行…俺は流行を知らない。サークルを作らねぇんだな…おれはサークルの作り方を知らないし、調べ方も知らない。


 …あれ、まただ…また気づいたら泣いてる。


 …辛い。さみしい。なんで、俺がこんな思いしなくちゃいけないんだ。こういう思いをしてるのは俺だけじゃねぇんだろ。でも、俺たちのこの思い、一体だれが分かってくれるんだ?


 この思い…世代が違えば、誰も分からない。共有なんてできない。いくら、言葉を尽くして説明しようと、多分他責思考、内向きだって、お前は自分から何もしてないと一括される。甘えるなって…。


 でも、しょうがないじゃん…だって、そんなん知らないんだもん…。


 だから、俺たちみたいのは表舞台に出てこない。誰からも注目されない。俺たちの苦しみなんて構ってる暇ないんだ。俺にとっては俺が苦しいが、誰かにとっては自分が苦しいんだ。


 だから、俺たちは永遠に孤独だ…。俺たちは俺たちの中でしか………俺たちの中ですら…きっと分かり合えない…


 辛い…。きつい…。


 ………


 これをツイッターに書いたところで…一応…投稿してみる。


 辛い。


 …………


 返事は来ないだろう。


 …………………


 インプレッションもほとんどない。


 ……………………


 そうだ、俺は誰からも必要とされてない。そして、そんな存在を誰も知りたくも無い。共感もしない。それは、今に始まったことじゃない。これから先…何十年先だろうと…。俺は、誰からも理解されないし、誰からも共感されない。そして、直近だとこのまま就活して、企業の新卒大学生のニーズに合わずに社会からも無視される…。


 ………許せるか。そんなこと。これは未来に直結する。


 もう就職なんてどうでも良い。おれたちの未来は永遠に曲げられた。この責任はだれにある?いや、誰にあるかなんてどうでも良い。誰も取れないだろうから。でも言うならば確かに、俺が何もしなかったことが原因の一つかもしれない。だが…それだけじゃない。強いて言うなら、社会に原因があった。俺たちのみらいは永遠に捻じ曲げられた。これから先、もし何かうまくいっていい職につけても、自分のやりたいことで食えるようになっても、これをコンプにして生きていかなきゃならない。


 許せない。本当に許せない。俺たちだけがこんな思いを引きずらなくちゃいけないのか?しかも、それが無視されて…どうせ、テレビに出るのは明るい、女の子ばっかりで、どうせなんだかんだ良かったと前向きな発言をするんだ。


 俺たちの存在を踏みにじらせて良いのか?それこそ原因を作り出した社会に無視されっぱなしで良いのか?


 良いわけねぇ…良いわけねぇよな。


 無視されるだけならまだしも、あまつさえ、他のイメージを広めて…いや、世代をひとくくりにされて…みんなよかった、若者です、なんて批評されて無視されて、踏みにじられて…マーケティングの道具にされて、そんなん絶対に許せねぇ。俺たちの人生は商材じゃねぇんだよ。


 怒り。怒りだ。強いて言うならこの感情は怒りだ。すべてに対する怒り。いや、社会に対する怒り。


 社会は俺に大した物を与えなかった。交通インフラ、奨学金制度、公教育、福祉、性格に言えば結構な物をもらった。ただ、それは俺以外が等しく、もしくは俺以上に甘受してるものだ。社会は俺ら特定の世代から…それ以上に奪っていった。特定の世代からだけ奪っていきやがった。俺たちは若者の枠に入ることは許されない。


 許せない。許せない。許せない。俺たちの…いや、俺の存在を無視して、何事も無かったかのようなふりをして、なんの清算もせずに済まそうだなんて俺が許せない。この理不尽は絶対に返す…。いますぐにでも…返す。


 




 

 

 

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