第13話 新宿区大久保1ー〇ー〇〇 ⑥
ありがとうございます…えっと、まず、なんでこういうことを今してるのかってことを教えてもらっても良いですか?
「はい、先ほども言いました通り、俺の話を皆に聞いてもらうためです、注目してもらうためです」
はぁ…テレビ見てますか?そこの前に結構パトカーとか止まって大変なことになってるみたいですよ?
「そうなんですね」
注目してもらう…って言っても、他にもっと手段が…あったんじゃないですか?
「いえ、無かったです、何しても駄目でした、誰も見ませんでした、誰も聞きませんでした、だからこうして注目を集めてるんです」
名前も既にテレビに出てるみたいですよ?
「はい、そうするように頼みました」
……
はやく聞け、早く聞け、こいつ肝心な所喋んないな、なんやこいつおもんな、何が目的?分かっててやってるのか…、ただの馬鹿、何がしたいんや、悠人くん!一緒に予備校に行こう!悠人君!一緒に小学校からやり直そう!保育園行ってそう、保育園からやり直せ、子宮からやり直せ、人を巻き込むな、巻き込むな、一人で死ね、死ね、死ね
「あの、俺の話聞いてくれますか?」
え?あ、はい。
…
えっと、あのじゃああなたの伝いたいことって何ですか?
「それは、俺の存在です、こんな存在がいるってことを世間に伝えてやりたいんです」
え?
?、?、??、?、は?、は?、は?、は?、何言ってるの?He is sick、は?は?配信者って大変なんだな、よく大学は入れたな、は?は?は?こいつどうやって育てたんだ?は?は?
具体的に言うと…どういうことですか…?
「俺は…俺の人生について話します、俺は小さいころから引っ越しが多くて、奈良とか福島とか沖縄とか観光地を転々としてました、そしてキャンパスライフに夢を見ただけのただの受験生でした」
さっき特定してたやつ誰だ、違うやんけ、特定(キリッ)wwwwwwww、全然違うやんけ、会話成り立たねぇ、こいつ頭悪いだろ、頭わるわる~
あ、コメント切りますか…?
「いえ、コメントはつけてお願いします」
分かりました…。
「俺はただの受験生で一生懸命勉強して…一橋大学に行きました…でもコロナで登校できませんでした」
はぁ?
「地方から越してきて、一人暮らしして、やりたくもないバイトして、クソみたいな客しかいなくて、オンラインで授業して、毎日が嫌で嫌で仕方なかったです」
はぁ…
なんだこいつ?お前だけがつらいと思うなよ、なんやこいつ?モンスターうんじゃったね、これが大学生?甘えんなよ、それぐらい誰でもやってる、悠人君!はやく刑務所に行こう!悠人君!パトカーが待ってるよ!社不きっつ…、
「でも、学校はなんとか始まりました、なんとか登校できるようになりました、でも友達ができませんでした、彼女ができませんでした、私は登校する前も登校してからも今日まで結局誰とも会話しませんでした」
あの…そんなの自分から話しかけに行けばよかったんじゃないですか?学生なんだから、話す機会なんて死ぬほどあるでしょう?なんで、それやらなかったんですか?そんな思い切る行動力があったのに、なんでやらなかったんですか?え?ちょっと…理解が…
「えぇ、やろうとはしました、でもみんな無視しました、話しかけにいっても駄目でした、イヤホンつけてこっちの声なんて聞かないか、そそくさとみんな離れて行ってしまいました」
…はぁ
陰キャ君さぁ…、陰キャくんきっしょ…近づかんとこ、陰の民無視される、陰すぎんだろ、やばすぎだろ、本人になんかしら問題があってもそうはならんやろ、なってんだろがい、陰キャすぎんだろ、こいつ無視したの正解だろ、
「でも、他の人は友達がいました、彼女もいました、俺はマッチングアプリもやってました、でも誰も俺の事なんて誰も眼中にありませんでした、他の人は色々俺たちができなかったことやってました」
喋り方幼すぎ、幼稚すぎる…、小学生かな?クソガキ、悠人くん!パトカーが待ってるよ!、悠人くん!パトカーが待ってるよ!あまりにも幼い、幼すぎ、こんなんが大学生名乗って良いのか?一橋大学に対する風評被害、こんなんでも入れるってことは俺も…、悠人君!パトカーが待ってるよ!
そんなんで…そんなんでこんなことしたんですか?
「…ネットを見ても、周りを見ても、どこに行っても俺みたいな存在はいませんでした、正確にはいました、でも殆どいないか社会の落伍者として、サンドバックとしてしか扱われてなかったです」
…
「俺は、おれたちコロナ大学生は、大多数が無視されました、社会が欲しい声ばかり集められ、マーケティングとして利用され、俺たち個人個人は無視されました、社会の需要ばっかりが重要視されました」
…
なんだこいつ?何言ってんだこいつ?被害妄想が過ぎんだろ、自意識過剰か?そんなんだから無視されるんやろ、誰もみたいわけないやろ、代表面すんな、全国の大学生さん風評被害を受ける、クソガキ、悠人君!パトカーが待ってるよ!お前だけが辛いわけないやろ、学生が何言ってんだ?看護師になってから言え、悠人君!パトカーが待ってるよ!
「そして、そんな中でも格差がありました、俺たちの中でも格差がありました、友達がいる者、彼女がいる者、俺が持ってないものをうまく手に入れた人間はそこら中にいました、本当にそこら中にいて、まるで社会の中心みたいな顔をして、社会の需要を無視して、好き勝手生きて、俺の存在なんて目にもいれませんでした」
誰も見たくないやろ、こんなんに付き合わされた女の子まじで可哀そう、うっせぇ欲しいなら努力しろよカス、クソガキ、社会の需要ってなんだよ、思い込みが過ぎる、さくらたん…、さくらちゃん本当に可哀そう、さくら大丈夫?娘を解放してください、悠人の妹ですこの度は悠人がご迷惑おかけし申し明けありません謝罪動画はこちらのリンクから、草、草、不謹慎、通報しました、悠人君!パトカーが待ってるよ!死ねクソガキ
…
「親も友達ももういません、もう話を聞いてくれる人間はいませんでした、格差は凄かった、たった1年違っただけでおかれた状況が何もかも違った…、俺たちも等しく犠牲者だったのに、違った、与えられるものが違いました、でも誰もそんなもの気にしませんでした、いや、俺は気にしてました、俺は気にしてた、でもみんな違った、みんな違った、目にも入れなかったっ、何も!ちらりとも見なかった!!無視するか、盲目のふりをするばっかりでぇっ!」
声が響いた。自分の声か?今、初めて怒鳴っていたことに気づいた。
「あ…すいません」
いえ、聞いてますよ。
「そして、就活になりました、インターンをしました、だけど無駄でした、俺の社会性をすっかり衰えてました、もう何もできませんでした、でも社会はそんなの求めてませんでした、インターンではグループワークで誰かと喋って、そして学生時代は何かを頑張ってなきゃいけませんでした、こんな時代で何を頑張れというのでしょうか」
…
「おれという存在は社会の需要に合わない、元々すぐに友達はできてたんですよ?でも、なんか、都合が違った、元々こんなんじゃなかったのに、真面目に閉じこもったせいで変わった、良いように糞みたいな職場に使われて変わった、社会の需要に合わなくしたのは社会だ、時代だ、でもその社会は責任をとってくれない」
…
「それどころか、俺の存在を無視して、良いようにまた「若者」を使って、使いつぶして、そして俺も良いように使いつぶされる、「若者」にならなきゃいけない、でもそんなの耐えられない、ここまで追い込んで、なんだかんだあの頃は良かったよねってどうせ言って、言わせて、俺は良くない!!!何も良くないんだっ!!!!!」
…
「ただ失っただけだ!!ただ取られただけだ!!これから先も…このことを気にして…あの頃を考えて……なくなった、自信と社会性をずっとずっとずっと引きずりながら、そんなものないふりをして!!なんだかんだ楽しかったって話に無理やり笑って!!!二度と若いこのころなんて帰ってこなくて!!!でも、社会には出なくちゃいけなくて!!誰も俺のことなんて気にしないで…」
言葉が出ない。前も見れない。ただただ、声を殺して、両手で顔を覆うことしかできない。胸の中の波を抑える事ができない。
「…俺の人生なんだったんだよ……返してくれよ…、せめて……無視しないでくれよ……大したものを与えないなら……何も取らないでくれよ…」
…大体…わかりました…。
「俺…いまじゃなくて……昔のあなたが好きだったんですよ…、昔のあなたはモラルのモの字も無かった、今はすっかり丸くなって、なんか中学生のご意見番みたいになっちゃった…、だからあなたにかけたんですよ………時を戻したかった…」
………
しばらく間があく。
…分かりました。
……………
知るかバーカ!!死ね、クソガキ!!さっさと死ね!!さっさと立てこもってないで投降しろ!!そんなん逃避行にすぎねぇだろうが!!就職がいやならしなきゃいいだろ!!お前の人生だろ!人のせいにすんな!死ね!
通話が切れた。いや、切られた。
「あは」
久しぶりに、昔に戻った気がする。楽しかったころにもどった気がする。
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