第11話 新宿区大久保1ー〇ー〇〇 ④

 俺はどうやら有名人になれたみたいだ。昔からの夢だった。いや、昔の夢か。こんな形でかなえてるなんて思いもしなかっただろう。ダメ押しに、自分のアカウントに自分の出身高校、大学、氏名、そして今自撮りして全部投稿する。


 凄い。こんなの始めてだ。


 「あははははははははははははは」


 馬鹿みたいに笑いが込み上げて来て口からでた。今まで何やっても、通知の1件もつかなかった。誰も俺のことなんて見もしなかった。だが…なんだ?通知が止まらない。なんだこれ…!なんだこれ!…!


 「おもしろ!おもしろ!」


 手を叩いて笑う。


 こんななんの魅力も、なんの輝かしい話も、自信も、金も無い俺が、やっと有名人になったよ!小さい頃の俺!やったね!君の夢は将来叶う!良かったね!


 「あはははっはっははは」


 どうだ?俺を見て。みんなどう思う。どうだ?


 馬鹿みたいに、通知を見る。


 え?死ね、いややっていいことと悪い事あるやろ、こま?、なんだこいつ…?相手の気持ち考えなかったんですか?今、つぶやきみたけど、死にたいなら勝手に一人で首括れや、こんなん釣りに決まってるじゃん、こいつブサイクな体してるな心もブサイクなのか、一人で死ねや、やっぱり女性は犯罪にあいやすい、そしていつも襲うのは男、その子が何したっていううんだ、こんなんトラウマもんだろ、これがZ世代…、趣味悪すぎんだろ、直ぐ消せ、通報しました、アニメの画像、アニメの画像、アニメの画像、100%釣りで草、釣られすぎやろ、インターネット怖すぎ、自分勝手の極致かよ、女の子が可哀そう、このJKエッッッッ、桜の彼氏です、お前絶対許さんからな、桜大丈夫…?こいつまじサイテーだろ、一人で死ねよ、このような画像をツイッターに挙げるのは良くないと思います、通報しました、通報しました、典型的陰キャ、陰キャのガチギレこっわ…、やっぱりオスって野に放っとくとこうなるんだね、アフィ野郎、アフィ野郎、男のメンヘラとかキモすぎんだろ、さっさと射殺されろ、今ならまだ間に合う、君は若いんだからまだやり直せる、投降してくれ、人生を棒に振らないでくれ


 「あは」


 久しぶりに、凄い大声で笑った。愉快だ。本当に愉快だ。こんなに笑ったのは、本当に本当にほんとうに久しぶりだ。今まで誰からも見られなかった。それがどうだ、みんな俺のことを考えて、みんなこのことについて反応してる。気持ちいい。脳みそに何か液体が流れるのを感じる。空調が少し肌寒く感じる。


 でも待て。まだ、目的は達成してない。まだ、俺のことはただの立てこもりとしか見られてない。俺は…ただの立てこもりじゃない。


 先ほどの有名配信者にDMを送る。


 こんにちは、今新宿のほうで人質を取り立てこもっています。昔からよく配信を拝見させて頂いておりました。もしよければ、今から配信して頂いて凸りさせていただいても良いですか?


 受話器がまた鳴る。


 「はい」


 「君…ツイッターで何かした?」


 「はい」


 一瞬、エリーゼの為にが流れる。


 「分かった、そうか、じゃあ2人ぶんの食料とトイレを差し入れるよ、扉の前に置いておけばいいかな?」


 「どうぞ」


 受話器を置く。


 ………


 これが俺の望か。


 そうだ、これが俺の望なんだ。


 女の子のほうに向きなおる。


 「俺は竹内、君は桜さんであってる?」


 …

 返事は無い。怯え切った目でこちらをずっと凝視している。それ以上後ろに行けないのにも関わらず、俺からもっと距離を取ろうと、辛うじて動ける足のかかとと体の捻りを使って、横へ横へとずれている。


 「そう、さくらさんって言うんだ、よろしくね」


 笑顔を向ける。また反応は無い。


 ……


 少しは話してくれても良くは無いか?そんなに俺が怖いか?俺がそんなに理不尽か?まぁ、理不尽だし、怖いだろう。でも、お前たちは俺と比べて圧倒的に幸せだ。俺が手に入れたくても決して手に入らなかったものを持ってる。なんだ?幸せ者は返事さえもしてくれないってことか?


 俺は、なんだ?どうやっても声の一つすら返してもらう事もできないのか?なんだそれ?あまりにも理不尽すぎやしないか?俺は、今日まで人から批判と罵倒ばかり言われた。相手は全員男だ。そもそも、女は声を交えてすらいない。グループワークで少し話はしたが、それ以上仲良くしようとすれば男からも女からも無視されてきた。


 それで、いざ、こうなって、なんだ?また、お前も無視するのか?俺が今してることは社会的倫理に照らし合わせれば確かに許容されないだろうが、それまでも社会的倫理が許容できないことをしてたか?


 ふざけんな…ふざけんな、幸せ者が…。声すら、声すら返せねぇのか?糞…クソが…


 「俺が何をした!?糞っ!!くそが!!」


 良く見れば、やはり顔がかわいらしい。少し覗く素足が胸をドキドキさせる。…こいつ、俺を無視して…そうやって、幸せを独り占めして…それなら多少の報いぐらいしょうがな…


 !!


 頭を壁に打ち付ける。


 「ああああああ!!!!!」


 何を考えてんだ。俺は!そんなことをすれば俺はただの犯罪者だ。いや、もう犯罪者だが、目的が変わっちまう。ただのクズレイプ犯になる!この子にそこまでしちゃいけない!俺はクズじゃない!ただ、世間から絶対に認められない馬鹿だ!


 絶対に!絶対にそんなことはしない!殺すことも、傷つけることも絶対にしない!怖がって、何も言えないなら怖がらせておけ。幸せを独占させておけ。生き残らせてあげておけ!


 俺はもう幸せ者にはなれない。どうやったてなれない。だからこそこいつも、そして他の奴も、そして社会も…すべてが憎い!だが、俺はただ…


 ただ…


 大きく舌打ちをし、後ろの扉を蹴る。


 ケータイが鳴る。


 先ほどまで通知切ってたと思ってたが、切れてなかったか。


 切れる息を落ち着かせながらツイッターを開く。


 あの配信者からだった。


 

 

 

 

 

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