第4話 ぼくたち学生生活はじめ

 そんな感じで俺の大学生活は始まった。一人暮らしで、大学いって、バイト行って。大学行って、バイト行って…大学いって…バイト行って。

 

 「あのさぁ、前にも言ったと思うんですけど、夜勤で雇ってるんで、夜勤出れないって言われてもこっちとしては困るんですよ」


 「はい…すいません…」


 「学校がなんだか知らないけどさ、一度決めたことはちゃんと守ろうよ、ね?夜勤無理とかこっちが無理だから、分かったらもう行って」


 店長が久しぶりに夜の時間帯に来ていた。いや、俺がシフト出したからか?シフト出して、それがだめだったから来たのか?バックヤードからフロントに出る。


 「お疲れ様です」


 「お疲れ」


 レジ横にある、店員が本当にいるかどうか確認するためのバーコードリーダーに自分の首にかけてある定員証を読み込ませる。


 この時間帯はまだ辛うじて2人だ。


 「じゃあ、お先、失礼します」


 高島さんと木村さんが俺を少し押しのけながら後ろを通り、自分のバーコードを読み取ってからバックヤードにつながる扉を開けた。


 これで、この時間は完全に俺一人になった。深夜帯は昼間から夕方にかけてに比べると人が少ないらしい。


 今、22時だ。ここから朝の5時までは俺一人で全てこなさないといけない。レジ打ち、注文対応、清掃、漫画類の棚戻し作業、入ってから24時間立ってる奴に清算させに行ったりとかまぁやることは多い。正直疲れる。


 「いらっしゃいませ」


 早速客が来た。


 「シャワーだけで良いから、早くして」


 「かしこまりました、シャワー室のみのご利用ですね」


 「だからそういってんじゃん、頭大丈夫か?、早くしろよ」


 …


 「えぇ、シャワー室のみのご利用ですと、そちらのブース席のご利用でよろしいですか?」


 「は?どうでも良いから、早くしてくんない?シャワーだけで良いって言ってんじゃん」


 「かしこまりました、それでは会員証のほうお見せいただいてもよろしいでしょうか?」


 この馬鹿がバカため息をつき、免許証をこちらに投げてくる。この馬鹿。クソ酔っ払いかよ。酒飲んで人に迷惑かけんなら外で酒飲むなよ。死ねよ。クソカスが。そのまま、車に乗って死ね。


 ていうか、こいつこんな偉そうにしといて会員証忘れてんじゃねぇか。死ねよ。


 「会員証は本日お忘れということでよろしいですか?」


 「どうでも良いから早くしろって」


 どうでも良くねぇから聞いてんだけど。シャワーだけの利用なんてコース本来無いんだよ。気を使ってもらって当たり前か?まぁ、いいや。死ね。こいつと話しても仕方ないから、さっさと会員検索から検索して利用にするか。


 えぇっと…これかな?


 「田中巌様でよろしいですか?」


 馬鹿が不愉快そうな顔でうなずく。


 「まじでほんとトッロいわ、今までで一番トロいわ、まじダル、まじエグイわ」


 死ね。


 空いてるブース席の番号を打ち込み、印紙して渡す。


 「本日お席のほう7…」


 バカが行った。


 ホッと一息して、手を見ると震えていた。手汗もかいてる。…俺は言い返すことができない。きっと、仕事じゃなくてもそうなんだろう。


 ………


 やめたい。


 ここに来るのはこんなんか、無言なのばっかりだ。感謝されたいわけじゃない。せめて、人間として扱ってほしい。


 大きくため息を吐く。一体なんでこんな思いをしてるんだろう。


 …


 取り敢えず、画面を確認し、チカチカと光る未清掃の部屋を見つける。リストを印字し掃除しに行く。


 ~


 5時になり、次の人がバックで着替えてこちらに来る。


 「お疲れ様です」


 「お疲れ」


 山田さんがフロントに出てきたので、後ろを通りながらバックヤードにひっこみ、退勤を押して、着替えてから帰る。


 俺なんでこんな仕事やってんだ…。


 家に帰って、玄関を開ける。暗い。そりゃそうだ。まだ、日が出きってないんだから。ここから少し寝て、起きて大学に行く。あぁ…今日も疲れた。でも、これからだ…これからだから…。


 シャワーを浴びてから着替えて、アラームをセットしてベッドに入る。目を閉じる。仕事中を思い出して、イライラする。本当にイライラする。両手を握りしめ、ベッドを叩く。


 …


 アラームの音で目が覚めた。今日は何とか眠れたみたいだ。講義にちょうど間に合うように起きれた。よっし。


 リュックを背負って、扉を開ける。まぶしい。目がくらむ。


 今日も講義だ講義。


 うおおおおお!!!!!!!真面目にノート取るぞ!!


 うおおおお!!!!!!!!ふむふむ!!!!うおおおおおおおお!!!!!!


 出席カードも出して、良し!完了!!


 昼めし!!


 今日も混んでる!!


 ケータイ見て待つ!


 それにしても、昼休み周辺はやっぱり、ここら辺騒がしくなるな。みんな、もう友達ができたんだろうか。…どうやって、友達作ったんだ?今のところ、友達を作る機会はないんだけど…。


 なんか…あれ…。ケータイを見る。ツイッターを開く。犬。犬。犬。政治。怒ってる人。怒ってる人。怒ってる人。怒ってる人。怒ってる人。怒ってる俺。怒ってる人。


 どう、友達作ればいいんだ?なんか、話しにくくない。今までオンライン授業で一緒だった奴も恐らくいるんだけどマスクすると分からない。それにどういうテンションで話しかけて良いのかも分かんない。別に印象に残ってる人がいるわけでも無いし…。でも、女の子が多くて緊張しちゃうなっ///


 ツイッターを見る。


 全員が完全に初対面なら別にできるんだけど、初めましてこの授業君もとってるのってね、でも初対面じゃ…一応無い筈なんだけど…誰が誰かは分かんねぇし…。まじでどうやってみんな友達作ってんだよ。おかしいよお前ら。


 カツカレーを押す。食券が出てくる。お盆を持って、食券を渡す。


 きゃっ♡隣女の子だ。そっち見れないよぉ…。


 ツイッターを見る。


 そういえば、最近マッチングアプリからの通知が全然来なくなったな。前まではマッチングだけはしてたんだが…。あのアプリ…本当に出会えるのか?たまにメッセージが帰って来たと思ったらホ別2万とか言ってくるぞ。…それに、なんか、会話が…難しいっていうか、相手が全受け身だから、話が続かないんだよね…。それ以外は殆ど、挨拶してスルーされて終わりだし…。


 まぁ、続けてればそのうち…


 「ありがとうございます」


 カツカレーを持って、元々取ってた席に座る。暫く座ったままケータイをいじる。特に誰から連絡がある訳じゃない。親からも連絡は来ない。いろいろ大変なんだ。


 目の前に無言で眼鏡の髪をあまり整えてない男が座る。その手にはお盆とそこに載った生姜焼き定食。そいつはアクリル板の向こうに陣取ると、こちらをちらりとも見ずに、スマートフォンを左手に見ながら、右手で箸を持ち生姜焼き定食を食べ始めた。


 苦笑いしながら、彼に向かい会釈する。…気づかれなかった。


 今日は凄い混んでるな。珍しく俺の対岸に人が座った。いや、初めてじゃないか?中々無いよな。…ただ、後から友達が来る可能性とかあってるのかもしれないのに…そういうの、ちょっとはこっちに聞いてくれてもいいんじゃ無いかな…


 …

 

 スプーンを持って、もくもくとカツカレーを食べ始める。…正直、目の前でケータイをいじられながら食べられると…なんていうか、飯の味が落ちる気がするな。初めての感覚だ。


 なんていうか…その…不快…?

 

 まぁ、そんな事考えて、知らない人間の批評なんてしていても大したことにはならないからさっさと食っちゃおう!!次の時限も講義あるし!


 よし、ごちそうさま!!


 前の男はとっくのとうに食べ終わり、さっさと食器類を片付けてしまった。…あー、こっちから話しかけてたら…もしかしたら仲良くなれてたかな。んー、でも、あれは無理だろ。どう仲良くなんだよ。


 よっし、講義講義!学生の本文は勉強だから…。講義…。


 登校が始まってから、今日で大体2か月目。特に進展が無い。…そういえば、最近、人とまともに話してないな。あ…最近…?違うな…こっちに来てから人とまともにしゃべってないな。


 …あれ、俺…なんで大学来てるんだっけ…?


 まぁ、まだまだ始まったばっかりだし!ゼミは…まだオンラインだけど…始まれば……………


 どうにかなるかな。


 てか、なんか今日ざわざわしてるな。まぁ、まだ講義始まってないんだけど。みんなグループなの?なんか、喋ってんな。


 う…ちょっと急にでけぇ声出すなよ。びっくりするだろ。う…笑うなよ……。


 なんだ?なんかおかしいな…俺…もしかして孤立してる?


 


 

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