文章から見えた物、文章から聞こえた音。

 本作のレビューを書くに至って、最初の拝読から約一年と半年近くを要した。
 それでもレビュー文章を書きたいと思ったのは、そうして一年半近くも心に残っていたのは、やはり本作が自分の心に強い印象を与えた作品だったからなのだろう。

 今回、改めてレビューを書こうと思い立ち、二度目の拝読をしたが、印象はより強く、深みを増している感覚が心地良かった。とかく実体の無いネット小説は一度の拝読で満足しがちだが、中編作品ならば、二度目、三度目と読み重ねる事も悪く無いだろうと思った。

 最初の拝読でレビュー執筆に手を付けなかったのは、率直に言えば作者にとって、また読者にとって意味の無い、嬉しくない言葉を残してしまうかもしれないと判断したからだ。
 
 最初の拝読で、私は"極個人的に"とある名作映画をイメージとして思い出した。
 あの有名な、喜びの余り、大雨の中で傘も放り投げ、街中で歌い踊る男の姿が、本作とリンクしていたのだ。
 映画のうんちくを語りたいわけでは無いので映画の詳細は省くが、その映画のシーンに含まれているのは『喜び、歌、負の感情や状態からの脱却、そうして溢れんばかりの正の感情、未来への希望』
 そんな映画の状況が、内容こそ全く違えど、本作の状況とリンクしたのだろうと思う。

 そうしてそれらは、小説であれ映画であれ、創作物にとって大事な要素だと思っている。
 特に『負の感情や状態からの脱却』や『正の感情への変化』を本作は上手く表現している。それが個人的なインプットである名作映画のシーンへと繋がった。つまり、私は本作を拝読しているうちに、無意識に本作を名作だと認定していたのだとも言える。

 だからといって、『自創作を何かにたとえられる』という行為を忌避する創作者がいる事は周知の事実ではあると思っている。本作者がどちらなのかは未だ分からない。

 だからこそ二度目の拝読を終えた上で、イメージを抜きにしてもう一度考えた。


 歩くようなペースでの感情の移り変わり、だけれどその感情の足は地に付いている。中編なのにも関わらず怠らない登場人物の詳しい描写達、特に感情描写が上手く感じた。
 劇中で出てくる場所が設定上少ない為、早い段階で読者が考える劇中の舞台のイメージは明確に構築されるだろう。この点は、同じ物書きとして、非常にイメージしやすいと目から鱗だった。
 それらを踏まえて、読書をするにあたって非常に読みやすい作品となっている。

 比較的長い描写達についても、目が滑るといった事が無く、感情移入がしやすいのは、端的にまとめられた状況描写によるものだろうか。
 定まった舞台、端的にまとめられた状況、そうして個人的に作者様の強みだと感じた詳しい感情の描写、それらが上手く読みやすさのバランスを取っているように思えた。

 これは余談ではあるが『ストレリチア』と『アキレア』という花がある。
 作者様がどのような気持ちでその名前を付けたかは計り知れないにせよ、それらの色や、花言葉や、効能などを、"本作を読み終えてから"調べるのも一興だと思った。


 一度目の拝読では映画のイメージが先行したが、二度目の拝読で改めて思った事を言葉にするとこのようになる。

 最後に、『たとえられる事を忌避する人がいる』という事についてのフォローをするならば、あくまで当人が自分の思考のみをアウトプットした作品が、プロの作品に『似ている』『たとえられる』という事を、私は個人的に最高の褒め言葉だと思っている。
 何故なら、それはその作品が知らぬ内に既存の名作、要は高みに近づいていると捉えられるからだ。星の数程ある創作物の中、あえて似せているのではなく『自然と似る』という事は素晴らしい事だと思っている。
 ただし、勿論感じ方は千差万別。だからこそ、私は今の今まで黙する事を決め込んでいた。

 だが二度目の拝読を終え、イメージはそのままに、更に魅力を見つける事が出来て、やっとレビューを執筆出来た事が、私はとても、とても嬉しい。
 願うならば、映画とイメージが重なった事を作者様が不快に思わず、一つの考え、そして私からの最大の称賛として受け取ってもらえたならば幸いだ。

 私は普段あまり小説を自発的に読まない性質の物書きだが、本作については時間こそあいているが、一年半近く前に読み、内容も大方記憶している上で、二度目の拝読をした。
 その事から、私が本作を好んでいた事も、また好んでいる事、そうして未だ本作を読んでいない読者に強くオススメ出来る一作である事も伝わっただろうと思う。
 
 もしこのレビューを読んだ貴方が、本作の一頁目に辿り着いていないならば、すぐにでもその一頁目に目を通すべきだと思う。きっと良き読書体験になるだろうと、私は信じている。
 そうして読者になった貴方に、この物語がどう見えたのか。この物語からどんな音が聞こえたのか。そんな事を是非聞いてみたいなんて事を、夢想している。

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