第4話

「よし、パーティメンバーも出来たことだし早速迷宮、行くか!」


「いや、待て待て待て待て。今すぐなんて行けるわけないだろ。というか、僕も柊くんもランクはEだろ? Eランク二人組のパーティをすぐに迷宮に入れてくれるほど協会は優しくないんだよ」


 俺が迷宮へと潜るために許可を取りに行こうとすると、紅が俺を引き留める。どうやら、俺たちでは力不足だと判断されてしまうだろうということらしい。……まあ、確かに。俺は昨日、紅は今日ギルドを追放されたばかりだ。

 基本的に、追放というのは起こらない。それが起こるということはギルドマスターの理不尽によるものか、ギルドのランクが下がったことによってギルドメンバーを賄えなくなったか、圧倒的な実力不足だからだ。


「じゃあ今日はなにをするんだ?」


「うーん……お互いの戦い方を確かめつつ連携の練習、とか? まあ迷宮に行くための準備をすればいいさ。僕たちは今は最下級、一日たりとも無駄にはできないんだからね」


 そういった紅は不敵に笑みを浮かべる。うん……さっきはあんなこと言ったけど断然俺よりも考えてるじゃん……よし、俺も頑張らないと!


「っし、じゃあ今日も訓練場を借りに行こうか! すいませーん!」


 俺と紅は昨日と同じ受付へ向かい、昨日と同じ手順を踏んで訓練場へと向かう。冒険者カードを手渡す過程で昨日とは違って顔をしかめられた気がするが、気のせいだろう。昨日と同じ受付のお姉さんだったから楽に受付を済ませることができた。俺はわくわくしながら訓練場へと向かった。


♢♢♢♢♢♢


「じゃあ戦闘のスタイルを確認しようか。僕からいこう」


 紅は手に持っていた杖をダミーへと向ける。


「ふぅー……《世界に満ちる火の魔力よ、我が命に応えて目の前の敵を焼き払う火球をこの世に顕現させよ!》『ファイアーボール』!!」


 詠唱を終え、拳よりも一回り大きいくらいの火の玉が現れる。そしてその火の玉はダミーめがけて飛んで行った。


 がくっという音がしたので振り向くと、そこには昨日の俺と同じ状態になっている紅がいた。


「はぁ、はぁ……今のが、僕の全力さ。僕は……圧倒的にSPが低い。他が何発も打てるはずの魔法一発で倒れてしまうくらいには、ね……」


 自分が追放された理由を語る紅。魔法は普通よりもSPを消費するらしいが、その分SPが多い冒険者が多いそうだ。しかし、紅は魔法を使えない普通の冒険者と同じ程度のSP量だった。結果、初級の魔法一発SP切れが起きてしまうのだとか。


「……今現在、SP増加の方法は明確にはわかっていない。これじゃないのか、という仮説はいくつかあれど、確立された方法はない。とは言っても、どれも僕一人じゃ試せないものなんだけどね」


 自虐を織り交ぜながら、SP増加について話す紅。そこに、奏多が言葉を発する。


「……それにしても、あの詠唱っていうやつはどうしても必要なのか? なかったらそれだけ速く撃てると思うけど……」


「……ふぅー、まずは魔法の仕組みから教えてあげようか」


 魔法……それは、世界中に満ちている”魔力”という力を使って引き起こす超常現象のこと。そして、魔法を撃つために必要なものは次の三つだと言われている。SP、魔力、そして詠唱だ。厳密には、ここからJobなどで魔法に関する適正を持っている必要があるのだが、これは今は一旦置いておく。

 じゃあ早速詠唱についてだが、これはSPと魔力を同期させるものだ。詠唱によって世界に働きかけ、自身の中にあるSPと空間にある魔力を同一化させることで初めて、魔法という現象を生み出せるようになる。つまり、これがないなら魔力自体にSPを介さず干渉して魔法という現象を生み出さなくてはならない。そんなことは人には不可能なのだ。よって、詠唱なしでの魔法発動は不可能となっているわけだ。


「……ってことだよ。どうだい? わかったかい?」


「うーん……すぴー、すぴー、すぴー」


「はぁ……いつの間にか寝てるし……起きてー、起きろー」


「……っは! うん、起きてた、起きてたぞ!」


「そんなわかりきってる嘘は吐かなくていいんだよ……」


 説明が終わって奏多を見た紅は、寝ている奏多の頬をぺしぺしとたたく。それによって目覚めた奏多は寝ていなかったと主張した。そんな行動を取る奏多に呆れつつも、近くに置いてあった椅子に腰を掛けた。


「じゃあ次は俺だな! 行くぜ!」


 異空間を開き、手を入れる。そして、引き戻した手には二つの短剣を握っており、それを両手に持ち替えた奏多は、ダミーめがけて突っ込んでいく。普通ならそのまま攻撃を食らってしまうであろう間合い。しかし、奏多はいきなり加速して強力な斬撃を食らわせた。


「……っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ。昨日よりはマシ……か」


 息切れがひどい。しかし、その理由が紅には思いつかなかった。昨日追放されたばかりの少年が技を扱えるはずがないと思っていたからだ。そもそも、たとえ高ランク冒険者であろうとも技を使えるとなるとかなり数が限られてくる。そんな冒険者をギルドが手放すはずがないのだ。


「大丈夫かい?」


 先ほど、奏多の異空間からもらった水を飲んでいた紅は、その水を手渡しに奏多へ近寄った。


「へへへ……俺も、お前と一緒でSPが少ないんだ。技を一発撃っただけでこの有様……俺もまだまだだな!」


「なっ……技? ひ、柊君、技が使えるのかい?」


「ん? ああ。今のは『幻踊げんよう』だな」


 紅は、自身の頭をフル回転させる。記憶が正しければ、『幻踊』は短剣の初級技だったはずだ。相手の目の前で使うことで加速し、その場には残像を残すという技。確かに初級技だが、Eランク冒険者が使えていい技じゃない。そう考えた紅は、今の技を難なく放った奏多に少し、恐怖を覚えたのだった。


♢♢♢♢♢♢


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