第2話

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 体力がありふれているわけではないので全力疾走をした今、俺はとても息切れをしている。息を整えて、俺はスマホを見た。


「現在の時刻は―17:57分……ッ! やっべ! 急げ急げ!」


 受付終了がもうそこまで迫っているという事実に焦りを覚える。今日は帰って明日にする、という選択肢もあるにはあるが、なにかいやだ。負けた気がするのだ。まああと単純にここまで疲れてんだから諦めたくないというのがある。中途半端には辞められない的な。


「はぁ、はぁ、すいません! 訓練っはぁ、場! まだ、使え、ますかぁ!」


「え、ええ……使えますけど……そんなに慌ててどうされたんですか?」


「え……? い、いや、受付締め切りが18時までって……」


「はぁ……それは平日、月曜日から金曜日までの話です。今日は土曜日なので受付は20時までやってますよ」


「え……?」


 どうやら、俺の勘違いだったようだ。はぁ~とその場にへたり込むが、周りからの視線が痛くなりすぐに立ち上がった。


「では、ご案内します」


 冒険者カードの提示などの受付を終えると、受付のお姉さんに連れられて訓練場へと向かった。訓練場には、戦闘訓練を受けている人たちや軽く肩慣らしという感じでダミーを攻撃している人たちなど、十数名が見られた。


 ダミーというのは、国が開発したモンスターのホログラムだ。ホログラム、ということだが、斬った感触というとても万能なものなのだ。


「じゃあまずは剣でも作る……っと、危ない危ない」


 ふぅ、もうちょっとで技能を使ってしまうところだった。危ない危ない。こんな技能、バレたら厄介なことになるのなんて目に見えてるからな。いかにも『異空間収納アイテムボックス』から剣を取り出してますよ~っていう風に見えるようにしないと。


「(『武芸ノ達人』、発動!)」


 技能の発動を心の中で強く念じる。すると、手のひらに剣が生まれた。しっかりと重さもあり、ちゃんとした”剣”だ。

 今まで護身用の短剣しか持たせてもらえなかったからか、とても感動している。だからといって金もなかったから自分で買うこともできなかったから……


「うおぉぉぉ……」


 異空間から引き抜いた剣を見る。俺の手にあったのは星夜がいつも持っていた竜剣だった。竜の牙を使った片手直剣であり、やや軽め。


 ダミーを用意し、設定をする。様々なモンスターの形に変形させることができるが、今回は一番最初だし、ゴブリンとかでいいだろう。


「ふぅー……」


 一度、大きく深呼吸をした。そこから、周囲の空気が一変する。妙に落ち着いているし、剣の扱い方が神経に刻み込まれていく感じがする。頭で認識するとかのレベルではないのだ。


「―シッ!」


 構えた状態から一気に踏み込んだ。奏多本人のスピード自体はなんら変わっていない。変わったとすれば……歩き方、だろう。知識はないが、体に染みついているのだ。自然とその歩き方になる。


「これが……俺?」


 まるで別人だと錯覚してしまうほどには強くなっていた。とても驚いているが、まだこの力には先がある。そう、アーツだ。アーツというのは、技能『剣術』や、『槍術』などの武器技能を手に入れた冒険者が鍛錬を積むことで得られるという技術である。たった一つでもあれば大幅な戦力アップが見込めるほどに強力なのだ。


「ふぅ、―《飛刃》ッ!」


 力を込めてブンッ! と剣を振る。すると、しっかり目に見える力の塊がダミーへと向かっていき、ダミーを切り裂いた。


「うおぉ! すっg」


 ガクン! と膝から崩れ落ちる。全身から力が抜けていく感覚がある……

 聞いたことがある。アーツの発動にはSP……SPスキルポイントと呼ばれている力を消費すると。


「っはぁ……はぁ……」


 SPが完全になくなると気絶する、という話を聞いたことがあるから、SPが0になったわけではないのだろう。しかし、一回技を撃っただけでこの疲れ具合……全然実用的ではないな。どうにかしてSPを増やすことができればいいのだけど。


「あっ、そうだ。今のうちにあれ、やっとかなくちゃ」


 そういって徐に冒険者カードを取り出した俺。そして、技能の欄をいじる。何をしているのかというと、『武芸ノ達人』を非表示にするのだ。普通の技能とかだと、隠す方がギルドに入りにくくなったりとデメリットが多いが、この技能は隠した方がいい気がするのだ。直感がそう言ってる。


「っし! じゃあ次は他の武器でも練習してみようかな!」


 技能欄の変更が終わり、冒険者カードをしまって再び訓練に戻る。剣をメインにしていくつもりではあるが、もしかしたら剣以外にしっくりくるものがあるかもしれないし、手札を増やしておいて損はないからな。


「んー……なにからやるか。短剣? 槍? 武器、だから弓とかもありなのか? うむむむむ……」


 ありとあらゆる武器、とか言われてしまうと選択肢が多すぎて悩むものだ。変わり種で行くとハルバード、とか……銃火器なんかも武器に入ってくるだろう。いや、銃火器はモンスターには効かないんだったか?


「……難しすぎんだろ!」


 もう悩んでも仕方ないので思いつくやつから全部試していくことにした。今まで見た記憶と中二病の症状を頼りに知ってるやつを全部試していく。そこで気づいたことがあるのだ。


「架空の武器が……創れる?」


 そう、所謂ライ〇セーバーを創り出すことができたのだ。正直、ダメ元だったのだが……できるとは思いもしなかった。そこでわかったことは、俺のイメージによって武器は形成されていくということだ。だから、見たことない武器でもイメージが固まっていれば創り出せるということ。


「いや……この力はやっぱ強すぎるだろ……」


 この力の可能性に驚きを隠せない。だって、ぼくのかんがえたさいきょうのぶき! が創れるってことだぜ? いや、ほんと恐ろしいな……


「今日はそろそろ切り上げるか……って、もう20時じゃねーか!!」


 夢中になってしまっていたようで、すでに2時間が過ぎていた。まだこれから今日泊まれる場所を探さなきゃいけないんだが!?


「急げー!!」


♢♢♢♢♢♢


「おい! あの技能はどうなった?」


「どの実験体にもありません……」


「ちっ……ならどこかに技能を取得しやがったやつがいるってことだ。そいつも探し出して殺すぞ」


「了解しました。マスター


 とある極寒の地。そこに建てられた一つの研究所の中で二人の人間とたくさんのカプセルの中に入れられた子どもたちがいた。


 巨悪が再び、動き出す。


♢♢♢♢♢♢


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