第3話
「んんっ……ふわぁあ」
結局、あれから泊まるところを見つけることはできず、近くにあった数少ない公園で野宿をした。そのせいか、体の節々が痛い。
「いてててて……今日は早く寝るとこの確保だけしよ……」
さて、今日はなにをしようかとなるのだが、
迷宮というのは、遥か昔にこの世界に突如として出現した異世界への扉のことだ。迷宮の先には洞窟や草原、森林、海などなど……様々な世界が広がっており、そこにモンスターもいるのだ。俺が《天星》で毎日のノルマとしてこなしていたのは草原のダンジョンでの薬草採取だな。薬草のように、迷宮の中には特殊な素材もいろいろあるからそれを売ってお金を稼いでいる冒険者もいる。洞窟の迷宮だと鉱石なんかも取れたりするのだ。
そして、迷宮にギルド無所属の冒険者がソロで入るのはとても難しい。いや、その状況になる冒険者にとっては、だが。そんな状況になる冒険者の大半は俺のように使えないからという理由で追い出された冒険者ばかり。ようするに、火力が足りないのだ。
例えばだが、薬草採取だけする! と言ったとしてもギルドに所属しているなら以前の俺みたいにその薬草を採取するあたりに出現するモンスターなら倒せるような護身用の武器を持たせてくれることが多い。だからソロでもクエストに行くことを認めてもらっていたのだが、ギルドから追い出された今はそのような支援がない。協会側に弾かれるのがオチだろう。しかし! そんな状況を打破する方法が二つある!
一つ目は、協会の職員に申し込んで、認定試験なるものを受けさせてもらうのだ。これは協会に所属している高ランクの冒険者が申し込んだ冒険者の実力を判定し、許可をおろすためのもの。しかし、これは普通に難易度が高い。協会側も冒険者をむやみに殺したくはないようだからかなり厳しめに見られるのだ。
二つ目が俺の本命だな。二つ目の方法は―俺のような追放された冒険者を探してパーティを組むことだ。
♢♢♢♢♢♢
「昨日ぶりだなー」
と、言うことでやってきました冒険者協会。昨日の俺と同じことをやりに来る冒険者がいるかもしれない! ってことで待ってみよう。あ、でもその時間暇だよな……うん、武器でも考えとこ。あとは……体力づくりとかか?
そうして、待ち時間は協会の中で武器についていろいろ考えてみていた。体力づくりの方は……うん、できなかったよね。中でやろうもんなら注意どころか追い出されるまで行くかもしれないし、外でやるのはちょっと……だってここ、街中だし。できるわけねーじゃんってことで諦めました。そして、パーティメンバーを探す方ですが、いないよね、来る人。まあ当然っちゃ当然なんだけど。だってそんな追放されることなんて普通ないからさ。俺が特殊なだけで。
そんなことを考えていると、ウィーンとドアが開いた音がする。
「はぁ……」
入ってきたのは見るからに落ち込んでいる背丈の低い少年だった。……ちなみに、俺と同じくらいだ。数に直して大体169cmくらい。
もしかしたら……と期待を膨らませる。いや、期待するのはちょっとあれかもしれないが。結構待ったのだ。別にこのくらいいいだろう。
「すいません……ギルド募集ってありますか?」
「了解しました。では、冒険者カード、もしくはアプリをご提示ください」
「お願い、します……」
受付のお姉さんはそういうと、アプリに表示されているであろうQRコードを手元のタブレットにかざす。そして、パソコンを操作してギルドの募集条件と照らし合わせてみる。
「……残念ながら、あなたの能力にあったギルド募集は現在ありませんでした」
「そう、ですよね……お手数をおかけしてすみませんでした」
その少年はペコっと礼をすると協会から出ていこうとする。見事に昨日の自分と同じことをしていてびっくりする。俺は慌てて少年の方へと向かった。
「そ、そこの君!」
「……僕、ですか?」
「そう、君だ!」
俺の呼びかけに振り向いた少年を見て、話を切り出す。
「単刀直入に言おう……俺と、パーティを組んでくれ!」
「……え?」
♢♢♢♢♢♢
「僕と……君が、ですか?」
「そうだ! ギルドを探しに来たってことは、今ギルドには所属していないんだろ? なら組めるはずだ!」
「いやいや……なんですか、ついさっきギルドを追放された僕への嫌味ですか?」
おう……なかなかに捻くれてるな? そんなやつだとは思わなかった……が、面白いじゃないか!
「いや、違う。というか、俺もつい昨日追放されたばかりだしな。状況的には君と一緒だ」
「っ……じゃ、じゃあなんでそんなに元気でいられるんだよ! 追放されたんだぞ? ギルドをだ! もう価値がないって言われたようなものじゃないか!」
「なんでだろうなぁ……ま、落ち込んでてもしかたないだろ? 俺たちは冒険者だ。進むしかないんだよ。ずっと、ずっと前にな」
この言葉は、俺が冒険者をする上で一番大切にしてきた言葉だ。全く覚えていないのだが、俺には幼少期、師匠がいた。その師匠が常に口にしていた言葉だった。だから、師匠と同じ冒険者になれると知ったときは飛び上がるほどにうれしかった。まあ結果親の反対を押し切ってまで冒険者になって、今こんな状況になってるんだけどな。
「……すごいな、君は。僕は……僕じゃ、そんな前向きにいられないよ」
「じゃあ、俺が前を向いて突き進んでやる」
「え?」
「君は、俺の後ろをついてくればいい。俺が、君を導くから」
自然と口から言葉が溢れ出す。そして、俺の紡いだ言葉は少年の心へと響いていった。
「……君、名前は?」
「俺か? 俺は柊奏多」
「僕は
「……暁、紅。いい名前だ。よろしくな! 紅!」
こうして、新たに一つのパーティが誕生したのであった。
♢♢♢♢♢♢
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