第6話

「よっしゃー! じゃあ今日こそ迷宮に行くぞー!」


「まあ……クエストと丁度いい迷宮があるかどうかは別だけどね……」


 二人は朝早くから協会への道を辿っていた。協会側の出す認定試験を受けなくてもよくなった……のはいいのだが、この二人がEランクであることは変わっていないので、協会もどの迷宮でも潜らせるというわけにはいかないのだ。


「昨日ぶりだな、ここも!」


 二人は、協会の中にあるクエストが張り出されている場所へと向かってみる。クエストがギルドに振り分けられるとはいえ、それがすべてというわけではない。常駐クエストと呼ばれるものが存在しているのだ。

 それと、現在の迷宮がどこにどのランクで分布しているかのマップもある。冒険者にとって、協会にくれば大抵の情報は手に入るのだ。……まあ、ギルドにも基本的に備わってるけどな。


「えーっと、クエストのモンスターとそいつの出現迷宮を照らし合わせて……と。ならE-5かE-12だね」


「うーんと、どっちも平野系の迷宮か。なら特に難易度とかに大差はないかな?」


「僕は近いしE-12でいいと思うけど、柊くんはどうする?」


「いや、俺もそこでいいぜ。じゃあ受注しようぜ」


 クエスト番号と、近くに備え付けてある迷宮攻略許可証を取り、必要事項を記入して提出に向かう。


「これ、お願いします」


「……すいません、受け取ることはできません」


「はあ!? な、なんで!」


 提出に向かった二人は、受付の人の言葉に苛立ちと焦り、驚きを露にする。それもそのはず、パーティであれば原則迷宮に入ることは可能だとされているからだ。


「なんだ、てめぇらか? Eランク二人のパーティで迷宮に潜ろうって言うバカどもは」


 奥から出てきたのは強面で厳つい男だった。

 ……怖い。この男が出てきてから、妙な威圧感がある。その威圧感は俺に、俺たちに直接恐怖を与えてくる。隣を見ると、紅も体を震わせていた。


「来い。俺がてめぇらの実力を見てやるよ」


「い、いや! 僕たちはパーティです! パーティであればたとえEランク冒険者でも迷宮には潜れるはずです!」


 紅が男に向かって反論する。しかし、その意見は男によって一蹴されてしまう。


「そうだな、確かにそうだ。だが……それは、だ、ということを知ってるか?」


「は……?」


「物分かりの悪いやつだなぁ……俺が、ここの協会長だっつってんだよ」


 その言葉にはっとする。この男が、ここの協会長。そして、こいつは俺たちに迷宮に行かせないようにしてくる。なら……


「……ああ、わかった。いいぜ、お前との勝負、乗ってやるよ」


 こいつの「実力を見る」という言葉に乗ってやる!


♢♢♢♢♢♢


 やってきたのは訓練場。目の前には、肩をゴキゴキ鳴らしながら回している男がいる。俺たちは、武器を構え、戦闘態勢を取る。


「そうだなぁ……決着は有効打一発ってとこか?」


「はぁ……そうですね。それがいいでしょう」


「お前らは両方一発ずつ食らったら負け。俺はお前らどちらかにでも一発食らったら負けだ」


 勝利条件が決定する。俺たちが勝つには……認めさせるには、目の前のあいつに一発でも食らわせること。そのためのやり方をめいいっぱい思考する。


「よーし、陽菜。試合開始の合図頼んだ」


「わかりました。……双方、準備はいいですか?」


 一緒についてきていた受付のお姉さんが審判ジャッジをするようだ。

 俺たちとあいつは両方ともお姉さんの問いに頷いた。


「それでは……試合、開始!」


 少し前に槍は創り出して渡してある。攻めに来るタイミングなんかは完全に任せてあるから俺はあいつを狙うだけだ!


「ほぉ……『異空間収納』に双剣か。容量は、そこまでか……」


 こいつは俺を見定めようとしてくる。観察する余裕なんかなくしてやる!


「ふっ! はっ!」


 こいつを追い詰めるように剣を振る。しかし、すべて軽々と躱されてしまう。


「くそっ……くそっ!」


「はははは、そうかっかなさんなって」


 煽りを含んだ言葉だが、言ってることはまともだ。今のように苛立ちを含んだ剣は段々と単純に、乱雑になってくる。そうなると、剣筋は読みやすくなる。


「(柊くん……焦ってるのか? あれじゃダメだ……昨日見たパフォーマンスを発揮できるなら勝機は十分ある。けど、どうやって取り戻す?)」


 少し後方から隙を伺いながらそんなことを考える。協会長の方も本気を出しているわけではなさそうだが、昨日の奏多と比べると劣って見える。つまり、この勝負は奏多のパフォーマンスを最高までもっていくことが最重要になったのだ。


「(有効打にならなくてもいい……防がれてもいい。一発だ。一発、”当てる”ことさえできれば……)」


 今、奏多が苛立っているのはすべてを簡単に躱されてしまっているからだ。つまり、そこを崩す。


「ここに全部を乗っける! はぁぁぁぁ!!!」


 わざと、大きな音を立てながら協会長目掛けて走りこむ。一発でも入れられると負けという勝負の都合上、こちらにも意識を割かざるをえなくなる。僕が気配を消して……というのも考えたが、そんなことしたことないから絶対にバレて負ける。なら、こちらに注意を向けるほうが得策と考えたのだ。


「こちらは頭脳は上々、しかし技術がまだまだ未熟……か。いいパーティだな」


「いけぇぇぇぇ!!!」


 軽めに、なんて考えてたら容易に吹き飛ばされてしまう。やるなら全力で!


 紅は、ある一点をめがけて槍を全力で突き出す。しかし、予想通りしゃがむことで攻撃を避けてきた。


「今だ! 柊くん!!」


 その言葉に呼応するかのように足音を消して素早く移動し、剣を振る。


「くっ……『剣閃』」


 協会長は技と思わしきものを発動する。すると、体が一気に加速して数m先に移動していた。


「あーあーこれ使ったら負けみたいなもんだろ……いや、その目……いいぜ、本気でやろうか」


 その言葉を境に先ほどまで感じていた威圧感が急激に高まる。震えが止まらない、なんてレベルではない。動くことすら許されない。そんな感覚を押し付けられる。


「まだだ……まだ、やれる!」


 奏多は、その威圧に全力で抗っている。


「柊くんが動くんだ……僕、だって!」


 二人ともが協会長の方を向き、再び武器を構えた。


「やあああ!!!」


 ダッダッダッダッと少し速度は落ちているものの駆け出し始めた奏多と、それを追いかけるようにして動き出す紅。


「ここだ……行け! 『幻踊』!」


 加速し、幻影を見せる。協会長はその技を見て驚きを見せた。それもそのはず、こんなEランク冒険者が技を使えるなんて思ってもないだろうから。そして、初めて見せたその隙を、狩る!


「《世界に満ちる火の魔力よ、我が命に応えて目の前の敵を焼き払う火球をこの世に顕現させよ!》『ファイアーボール』!」


 遠距離からじゃ避けられてしまう。だから、僕は走りながら詠唱をする。以前、ギルドで練習させられたことがある。移動しながらの詠唱は立ち止まるわけじゃないから集中を保つことが難しくなり、難度が段違いに高くなるが使えるなら非常に役に立つ技術だ。

 どうやら、魔法の才能だけはあったようで簡単に使えるようになった。それが今日、役に立った。人間、なんでもやっておくものだなと思いながら魔法を放つ。


「がっ……いけ、いけ! 柊くん!」


 再び声を上げた。その声は、奏多へと届き力に変わる。


「ここでぶっ倒れてもいい、全部出し切れ! これで、決める!」


 今度は、二振りの剣へと力を溜め始める。


「『ダブルスラッシュ』!」


 双剣用の技、『ダブルスラッシュ』。この技は単純に振りの速度と威力を増すという技。双剣用技の初級技だ。


「……おもしれえ。が、俺は協会長なんでな。そう簡単に負けるわけにはいかねんだ」


 その瞬間に協会長は二人には知覚できない速度で動き、それぞれに一発づつ加える。その攻撃で二人は倒れ、決着がついた。


「勝者、協会長かい!」


♢♢♢♢♢♢


「あれ……? ここは……」


「診療室ですよ」


 俺が目を覚ました時に顔を出したのは審判をしてくれていたお姉さんだった。


「そうか……負けたのか……」


「なんだなんだ、そんな辛気臭い顔しやがって」


 次にこの部屋に来たのは協会長だった。


「おら、お前も入って来いよ」


 その言葉で部屋に入ってきたのは紅だった。もう目覚めていたらしい。


「……ごめん、負けちゃった。これで迷宮は……」


「あ、そのことか? なら許可するぞ」


 は?


♢♢♢♢♢♢


序章終了です! 次回からは第一章が始まります! 読んでみて面白いな、と思っていただけたら、★3やフォロー、♡などよろしくお願いします! 更新の励みになります!!!  





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る