第5話
「うっへぇ、これまでの敵よりもかったいなぁ」
奏多は自身の攻撃の通りの悪さを感じ、長期戦になることを察する。今の残りSPを技に換算すると約1.8発分。自然回復を待ったらあと二発撃てる。この二発と紅の二発。それがこの勝負の別れ道となるだろう。
「そんな大振りじゃ当たらんよ!」
ゴブリンリーダーは自身の大きな体をめいいっぱい使って武器である棍棒を振り回す。ゴブリンやコボルトは棍棒系ばかり持っているが、なぜなのだろうかという考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに戦闘に集中する。
「これは武器を変えた方がよさそうだ。そうだな……弓、なんてどうだ?」
左手には弓を持ち、右手に持っている矢をつがえて狙いを定める。
放った矢は弧を描きゴブリンリーダーへと命中した。しかし、威力が低いのか気にしている様子はない。
「っとと……こんなんじゃ効かないか……なら!」
一気に五本の矢を創り出した奏多はその矢を一斉に放つ。そして、さらに何度も繰り返して矢の雨を降らせる。
「ははっ! 俺の技能なら矢はいくらだって創れるからな! 疑似技、《
「それじゃ……僕も!」
「来い!」
奏多は武器を創り出して即席の足場を形成する。そこに向かって走りこんできた紅は足場を踏んで高く飛び上がった。そこから、足場にした武器の中から一番近くにあったもの―ハンマーを持って奏多は
「オッラァ”!!」
力任せに振りぬいた一撃はゴブリンリーダーへと大きなダメージを与えた。そして、ゴブリンリーダーの注意がこちらへと向く。
「行け! 紅!」
「おりゃあああ!!!」
槍での乱打でゴブリンリーダーを攻撃する。完全に注意を向けていなかった方向からの攻撃。さらに下降してくることによる威力の上昇もあってそれなりのダメージになった。それなり、で済んだのは紅の能力値の低さ故だろう。
「ナイス紅!」
「うん……でも、次が来る。備えて!」
こちら側の攻撃がひとまず収まった。次は、相手の反撃のターンだ。
「くっそ……盾を創れないのがここにきて響くとは……!」
そう、奏多の技能では盾を創ることができない。盾は武器判定ではないのだろう。その辺の仕組みはよく知らないが。
だからこそ、守りが苦手となってくる。いつもなら避けたりするところだが、後ろに紅がいる以上、安易に避けるわけにはいかない。どうもゴブリンリーダーは紅の方へ意識を強く向けているみたいだからな。紅の方へ向かわれるとこちらとしてもまずいことになる。
「無理やりにでも……崩す!」
敵の攻撃のタイミングを読み、攻撃を弾く。
「いけ! 『
その技を発動した直後、ビュンという音が鳴り、奏多は剣を振るった。『風切』はその名の通り風をも斬るほどスピードに特化した技だ。武器を弾いて出来た一瞬の隙に叩き込める技ということでこれを選択したのだ。
「今!」
「待ってたよ! 『ファイアーボール』!!」
紅は魔法を準備して待機していたため、俺の声に合わせてすぐに魔法を放つ。無事に命中して炎上を始めた。
「こっからが後半戦だ、ギア上げてくぞ!!」
守りのスイッチを攻めのスイッチへと切り替える。『風切』は少し難度の高い技であるため、SPの消費が多い。そのため、もう一発技を撃つためにはもう少しばかり時間がかかりそうだ。
「狙うは、目!!」
視界だ、まずは視界を奪う。あの巨体だ、足を削っても元々そこまで動いてないのだから影響は少ない。なら、視界を奪って感知能力を下げてやる!
「はっ!」
手裏剣や苦無、小さめの槍などの投擲武器を創って牽制する。適度に投げられる”それ”への対処を強いられて鬱陶しそうにするゴブリンリーダー。
「せー……のっ!」
足にめいっぱいの力を溜めてジャンプする。能力値のおかげでジャンプ力は全力なら3m弱ほど跳べるようになっていた。
一気にゴブリンリーダーの眼前まで迫った俺は刃を向け、勢いよく剣を突き刺す。さらにもう一本剣を創り出してもう片方の目を切り裂いた。その後俺はゴブリンリーダーの顔を蹴って着地する。ゴブリンリーダーは目を抑え、悶えているようだ。
「うわ……うるさ」
三層一帯にゴブリンリーダーの咆哮ともとれる大きな叫び声が響く。
「あとは一方的に攻撃するだけだ……準備しろ、行くぞ。紅!」
そう声をかけて一足先に走り出す奏多。紅は動かず魔法の詠唱をする。これが、この戦闘最後の魔法だ。
「『ファイアーボール』!」
火球がゴブリンリーダーへ命中した。当たった火球は悶えて暴れているゴブリンリーダーによりすぐに消えてしまったが、ダメージはしっかりと通っている。
「強烈な一発を……ッ」
奏多は、武器を大剣に持ち替えた。そして、近づくと同時に大剣を振り下ろす態勢になる。
「フッ!!」
ドンッ!! と豪快な音が響き渡った直後、コロコロという音が鳴る。ゴブリンリーダーの腕だ。ゴブリンリーダーは奏多から異常に放たれる殺気におびえ、腕で自身を守ったのだ。
「くそ、無理だったか……なら、今度こそ終わりだ。食らえ、『斬波』――」
両腕を失い、なすすべのないゴブリンリーダーを前に、もう一度振り下ろしの態勢を取る。そして、最後の技を発動した。
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E-12迷宮の迷宮主の撃破を確認しました。初クリア報酬を配布します。
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そんなアナウンスが流れると、手元の少し上あたりにいきなりバッジのようなものと一つの金属インゴットが落ちてきた。それを落としそうになりながらも受け取ると、ゴブリンリーダーの死体の奥に魔法陣のようなものが現れる。これが、噂に聞く”転移陣”というやつなのだろう。
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レベルが1上がりました。
戦闘経験を集計中……完了しました。戦闘経験に応じて
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レベルも上がったようだ。結構余裕があった……ように見えたが、今俺たちは消耗しきっているため、ギリギリだった。最後のアレを耐えられていたらかなりまずかっただろう。
……とまあ、反省はこのくらいにして、まずは先にするべきことがある。
パチン!
俺と紅は目を見合わせ、ハイタッチをする。俺たちの、冒険者としての第一歩。成りあがっていくための第一歩が今、ここから始まったのだ。
♢♢♢♢♢♢
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