第9話 東の果てへ
ライトナー公爵家との取引の後、私たちはサーナ先生と会うことが出来た。
アランはそのまま公爵家の騎士団へ所属することになり、給金が増えることに大喜びしつつも仕事の責任が大きくなってしまい、落ち込んだり喜んだりを繰り返していた。面白い。
使用人の目はあったものの室内では比較的自由に過ごすことができる。時折、客人も訪れていた。
私は安全のために敷地内から出ることはできなかったが、
「サーナ先生!」
「ララ! アランも元気だった?」
神殿のみんなが入れ替わり、こっそりと訪れてくれる。その時は護衛としてアランもいる。
場所は変わってしまったがとても懐かしい気持ちになる。
私が寂しがらないように、公爵家の方々が不自然にならないよう寄付金を渡したり、神官を呼び寄せる手続きをしてくれているらしい。
貴族の方にそんな気遣いを……、しっかり働かなくては……!
ここで暮らし始めて、私のスキルが少し変なものであるということは理解しはじめた。
どのようなスキルなのかを把握するために、色んな人と出会った。
メイドの服を借り、呼び寄せた商人の話を聞いたり、街に出向いて話を聞いたり。
種族、国が違う人たちとの会話も可能だったし、なんなら魔物ですら意思の疎通ができる個体もいた。魔物は……ほとんどが意識というものを持っていなかった。
どこか遠いところに魔物たちを操る何者かがいる感覚。そしてその者は何人かいたものの、誰もが他者との意思の疎通を受け入れてはくれなかった。
「神父さまから聞いてはいたけれど、珍しいスキルは本当にすごいのね」
サーナ先生は、客人用に出された紅茶にたっぷりと砂糖を入れて一息ついた。
「え、やばいスキルだから神殿で保護されてたんじゃないんですか?」
「神父さまは何か知ってはいたみたいだけれど、確信はなかったみたいね」
アランとサーナ先生がそんなことを言う。
「じゃあ、どうして神父さまは私を保護してくれたんでしょうか?」
「ララと同じように、レアなスキルを発現した子が二、三年前にいたの」
サーナ先生が、悲しそうに言う。
「その子のスキルはあなたの翻訳師と違って、目立つスキルだったから……すぐに何者かにさらわれてしまったの。姿を消した一年後に、神殿に運ばれてきてそのまま……」
「「え”ッ!?」」
私はアランと顔を見合わせた。
護衛だなんだとサーナ先生の後ろにいたはずのアランは、私の隣でもぐもぐとお菓子を食べていた。
「ここでこんな事を言うのもなんだけど、珍しいことじゃないのよ。そのままどこかの貴族の家に囲われてしまったり……人買いに狙われたり。ただその子の場合は相当に酷い扱いを受けたみたいで……。その子の家族には墓に弔ってから伝えたわ」
その子のことがあって、レアスキルを授かった子はその力を使いこなして、自分で進路を選択できるようになるまでひそかに神殿に匿っている。
サーナ先生は悲しそうにそう続けた。
私は、アランとサーナ先生が去っていった後にスキルを使った。窓を開ける。
派手な光も何も起こらない。ただ、小さく何かが話している声が聞こえる。あの小さな小型モンスターに見えた下級精霊たちのささやきだ。
目に見えないから、もしくはもっと幼い精霊の声。
スキルの法則を知るために、公爵家の協力で私はある程度スキルを使いこなせるようになっていた。
精霊のささやきに耳を澄ませていると、部屋の扉がノックされた。そばにいたメイドが扉を開けてくれた。そこにいたのは騎士団長であり小公爵であるカイルさまとヴィントが数人の使用人を引きつれて立っていた。
私は急いで出迎える。
≪さあ人間、初仕事だぞ!≫
「初仕事?」
ヴィントの言葉に返事をすると、カイルさまが困惑しながらも微笑んだ。
「この国の東にある村が魔族に侵略されたらしい。その状況を判断するように幼馴染に頼まれたんだ」
≪魔族とも話せるんだろ?≫
「たぶん……」
≪本当におかしな人間が生まれたもんだ≫
ヴィントはそう言うとカイルさまの後ろの方に向かってふわりと消えた。
「今回は君のスキルを知りたいというのが目的のようだから、解決なんかしなくて大丈夫。私もついていくから」
「騎士団の方はいいんですか?」
「騎士団長は辞めさせられたよ……」
悲しそうにカイルさまは言った。
ま、まさか私を保護するための代償に……?
「精霊騎士なんていうでたらめな存在になってしまったからね……出世することになった」
良かった! 出世か!!!
「今、新しく役職の名前を考えているらしい」
≪こいつの幼馴染、まじでネーミングセンス無いから≫
公爵家とつながりがあり、役職を考えるくらいの地位にいる幼馴染……。思い当たるところはいくつかにしぼられるが、私はもう考えないことにした。
さあ行こう、東にある魔族に侵略された村へ!
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