第6話 絶望と決意

 裏門に走って行くと、サーナ先生が馬車を用意して待っていた。


「ララ! アラン! 二人とも早く!」


 サーナ先生がこんなに大声を出すところを始めてみた。

 神殿中が騒がしい。ざわめきを背中に受けながら、私たちは馬車に飛び乗った。聞こえていたざわめきの中に悲鳴のようなものが混じっていたのはきっと気のせいだ。

 そう、きっと気のせいに決まってる。


「みんな、大丈夫かな……」


 私がぽつりと言うと、窓の外を見ていたアランがふるふると首を横に振った。


「大丈夫ではないでしょうね。それに俺たちも安心とはいかないみたいです」


「え?」


 問い返すと、アランは窓の外を示した。


「道が違います。外へ向かう方向じゃなく、国の中心部へ向かっています。神殿からは煙が出ている」


「そんな……」


 馬車の扉を開けようにもアランに止められた。


「ララ、怪我をする」


「でも、みんなが……」


「そのみんなはララを守るためにあそこで戦ってる。俺たちは無事に生き延びなきゃいけません」


 私は目の前が真っ暗になるのを感じた。けれども、きっと月の女神が助けてくれる。神官や巫女以上の人間は多かれ少なかれ、神から加護を授かっている。

 それに、スキルを持っている人も多い。


 だから大丈夫、大丈夫。


 言い聞かせるようにして、つぶやく。少しずつ動悸も落ち着いて、そしてようやく私は、馬車がどこへ向かっているのかを推測するようになった。


 周囲の様子がほんの少しだが、理解できる。

 風の流れを感じるといえば良いのだろうか。


 きっとこれはあの精霊のおかげだろう。耳をふさぎ、目を閉じて、馬車の動きと街の様子を感じ取る。風の流れを把握する。


「この馬車はライトナー公爵家へ向かっているみたいね」


「それは……」


「例の精霊に祝福を授かったみたいなの」


 アランは、少し考えこんでから「それ、誰にも言っちゃだめです」と言った。


「どうして?」


「祝福をもらっても精霊の力を使うことは普通はできないからです。属性魔法が強化されるくらいですかね。でも、ララは魔法はからっきしだ」


「そうね。まずいのかもね」


 私のスキルは大したことがないと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

 幼い時から神殿に暮らしていた。それはこの日が来るのを恐れて、神殿のみんなが私を守るために……。


 今までスキルを使うことはなかった。


 だって人種、魔族、精霊や神、それぞれ仲介になれるスキルは存在していたし、人種の言語は一つだけ。役に立たないスキルだと思っていた。

 使いこなすことはできなかった。使う機会がなかったから。


「ララ、その目は……」


「目?」


 アランに言われて、私は馬車の窓を見る、そこにうつる私の目は様々な色を宿して光っていた。

 この光は見た事がある。精霊の時だ。


 そして、神殿でみんながスキルを使う時に現れる神の加護と言われる光。


 ただ言葉を介すだけのスキルが私に、戦え、逃げるなと言ってた。

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