第8話 働かせてください!

「お父様、やはり彼女のスキルは本物です」


 跡継ぎだろう青年の言葉に、他の家族たちが微笑む。

 私もその声に驚いた。あの精霊が横にいるからもしや、とは思っていた。


 彼は国の騎士団を率いていた騎士団長だ。


「そうか……」

「ただ、言葉が分かるだけのスキルです、そんな貴族さまが注目するようなものでは……」


 納得する公爵と言い訳する私に、ヴィントがやれやれとため息をはいた。まだ能力が制御できていないのかもしれないが、広間にそよそよと風が流れる。


≪そんな気持ち悪いスキルがそこらにあってたまるか!!!!!≫


「ヴィントの言う通りです。うちでその能力を活かしませんか?」


 にこやかに騎士団長が勧誘のような事を言う。拉致してきた時点で、こちらに選択肢はないのでは?


≪おいこの女、めちゃくちゃ怪しんでるぞ!!!≫


「神殿と君の家族が安全に暮らせるよう、こちらから騎士団を派遣する」


 公爵の言葉に、私は眉を近づけた。神殿を襲撃したくせに何を言っているんだろう。

 アランが小さく、そしてそっと言った。


「ララ、たぶん会話かみ合ってない」


 その言葉に驚いたのは公爵家の面々だ。警戒する私と、呆れてるアランを見比べて、急に使用人を呼びつけたり、兄弟同士で話し合ったり、そうして少しの時が流れた。


 ごほん、と公爵が誤魔化すように咳をした。


「君たちにとって悪いことはしないと名に誓おう。月の神殿の襲撃犯は既にとらえている。怪我人はいるものの、無事だ。ララ嬢の家族も」


「襲撃犯?」


「そう、貴族にも様々な派閥がある。今回は息子が精霊と契約してしまったことで状況はより厄介なことになってしまった」


≪良い事じゃないか! 精霊騎士って超レアだぜ!≫


 真面目な話にちゃちゃをいれるヴィントに、騎士団長がしかりつけている。怒られてもヴィントはどこか嬉しそうだ。


「精霊と契約した騎士は、精霊騎士と呼ばれるが、それはおとぎ話に出てくるような話だ。精霊は精霊士としか話せない。今回も騎士団は暴走精霊の鎮圧のために向かったはずだ」


「はい、そのように要請しました」


「暴走精霊は精霊士では何とかならない。彼らは自身と契約した精霊とは”話せる”が、他の精霊とはうまく話せないらしい。だから今までは討伐するしかなかった」


≪うまく話せないっていうか、こっちの言ってることがマジ通じないんだよ。あいつらほんとムカつく≫


「暴走精霊を鎮静化しさらにはその精霊と契約者の橋渡しをする人間、貴重ではないか?」


「貴重ですね……?」


「そして問題は、君の力を使えば精霊と契約できると思っている連中が多いということだ」


≪人間ってバカだよな≫


 聞こえないのを良い事にヴィントは変な相づちを打っている。彼のせいでいまいち緊張感がもてない。

 でも、あれは……。


「あれはそもそも騎士団長様がヴィントと契約する約束をしていたから契約できただけじゃないですか……!」


 手をぶんぶんとふって私の力で契約したわけじゃないと伝える。


「君は……これを精霊だと思うか?」


 騎士団長がヴィントがいない方の手を私に向けた。そこには手のひらサイズの羽の生えた光の球がある。ぼんやりと発光している。


「新種のモンスターですか?」


≪失敬な!! 俺の後輩だぞ!!!≫


 ヴィントの言葉に反応するように光球もすこし発光した。


「やけに人懐こいモンスターだと思って、えさをやっていたんだ……。何かえさやると喜ぶし……」


 モンスターを狩る遠征に出かけて餌をやるな……、後ろにいるアランのあきれて息を吐きだす様子で、彼の思考が理解できた。伊達に長い付き合いじゃない。


≪そ、いっぱい魔力をもらって中級精霊になったのが俺ってわけ!≫


「実はこの精霊進化論も、うちの国では異教扱いされている」


 公爵は今回は明らかに眉根を寄せた。この国はいく柱かの神を祀っているが、精霊や魔族やモンスターを信仰しているところもある。


「だからこそ、今回の件で君の力はより危険視される。闇に葬るより、こちらで活かしてはみないか?」


「……」


 闇に葬る、とは……。何か不穏な選択肢を迫られてる……?

 アランが一歩私に近寄った。そしてまたポソリとそして聞こえよがしに言った。


「働くか、暗殺されるか選べってこと」


 私は反射的に椅子から立ち上がる。礼儀なんかはどこかに置いていけ。ガタンと倒れかけた椅子はアランに受け止められ、そしてテーブルに手をばん!と叩きつけて大きく息を吸った。


「ここで働かせてください!!!!!」


 ここで働けば、みんなも私も守られる! 他に選択肢はない! そもそも暗殺の選択肢って、今目の前にいるこの人たちからも狙われるってことだよね……?


「よろしく、ララ嬢」


 公爵は微笑んだ。その笑みは恐ろしくも頼もしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る