スキル翻訳師の後悔

夏伐

第1話 スキル判定

 私がそのスキルを授かったのはある意味では運命だったのかもしれない。


 五つになれば人はみな神殿で洗礼式を受けて、授かったスキルを判定してもらう。そこでスキルが発現していなくとも、後に何かと契約して後天的に授かったり、神の祝福を受けてスキルを得ることもあった。

 だからスキルがあってもなくても、有利不利はあったとしても差別があるわけではない。


 私はドキドキとはやる心臓を押さえ、神父さまに手を差し出した。小さな針をプツリと指にさして血を巨大なクリスタルにおとした。

 神の言葉と言われる不思議な言語が見える。私は文字が読めないけれど、そこに出てきた文字にスキルが表示されるらしい。


 聖女、剣聖や賢者なんかもスキルとして得られる職業だ。そのようなスキルを得たならば平民であっても、すぐに貴族が養子にと引き取りたがる。そうでなくても支援したいという者が現れるだろう。


 だからこのスキル判定の儀は、ある意味でいえば人生逆転のチャンスなのだ。


 お願い、うちは貧乏だからレアじゃなくても良いから、お金を稼げるスキルをください……!


「インシア村のララ。スキル≪翻訳師≫」


「ほんやく……?」


 それはどんなスキルだろうか。あまり聞いたことがない。

 不安が顔に現れてしまったのだろうか、神父さまは優しく微笑んでくれた。


「おめでとうララ、洗礼式が終わった後、少し残ってくれるかな?」


「わかりました、神父さま」


 私が緊張しながらも返事を返すと、神父さまはほっとしたように小さな息を吐いた。私は言われた通りに講堂の後ろの方で他の子供たちがスキルを判定するのを見ていた。


 レアリティの高いスキルを得て喜ぶ子供。私のように使い道の分からないスキルに困惑する子。スキルがないと言われて泣く子。さまざまだ。


 夕の刻の鐘が鳴る頃、ようやく私は神父さまに声をかけられた。

 おなかがぐうぐう鳴っている。既に子供たちは家路についている。


 家に帰るには遅い時間かな、もしかしたらお母さんたちは心配しているかもしれない。


「ララ、家には連絡しておいた。今日から君はここで暮らしなさい」


「え?」


「君のスキルはとても貴重なものなんだ」


 どこかの貴族に引き取られることになるのだろうか? 私は急に不安になってしまった。神父さまの顔が怖くて見れない。


 小さな頃から祈りの儀のたびに家族で通っていた神殿が急に恐ろしく感じるようになってきた。美しい女神像からは得体のしれない威圧を感じる。


 震える私の肩をぽんと叩いて、神父さまは本当に、大人たちが難しい時にするような神妙な顔をして言った。


「スキルを活かすには、たくさんの知識が必要だ。君はこれからこの教会から出てはいけない」


「――なんでですか?」


「それが、君と、君の家族を守る唯一の方法だからだよ」


 神父さまのその言葉に私は頷くことしかできなかった。


 これは、国のはずれのインシア村に住んでいたただの平民であったララが、この国だけではなくこの世界を破滅に導く物語。

 

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