第13話 反省会

 その晩は、村は急遽お祭り騒ぎになってしまった。

 なし崩し的に、魔族の村長が貴族に認められたのだ。


『こうして、人がたくさんいるところで家族で散歩したこともなかったので、今夜はとても楽しいです』

「明日からも、外部の人間に見られてはいけないのでこんな風に歩ける機会が来るのかどうか……」


 村長夫妻に器用に手を引かれて小さな子供がはしゃいでいる。


 広場には、魔族の村長をたたえる村人たちで溢れていた。

 私たちは賓客として、広場で村長の隣に座ることができた。


 村長は自身を弱いと称しながらも、人間では扱えないような繊細な魔力操作でその場で『スキルを模倣する魔石』を作り出した。


「そんな技術が……」


 カイルさまが出来上がった魔石に驚愕する。


 『同族から追い出される程度』の者が、人間にとって国宝レベルの道具が単独で生成できてしまう。

 これが知られてしまえば、今まで狩り狩られギリギリのところで均衡を保っていた世界のバランスが崩れてしまう。


『あ……、』


 村長が少し照れたようにこちらを見た。


『これはうちの家系に伝わる技術で……、みんながみんな出来るわけではないのでご安心ください』

「それでも……、人に属する種族でこんなことできるのはハイエルフくらいだ…」


≪ハイエルフは変人以外はみんな常春の庭にいるよな。変人は動き読めないし≫


 常春の庭というのがどこかは分からないが、そんな場所は少なくとも神殿で手に入る地図には載っていない。


『ララさん、これにそのスキルをかけてくださいませんか?』


「えっ?」


 もっと強力なスキルの方が良いのではないか。

 私の戸惑いに、村長はにこやかに隣にいる小さな子供を見つめた。


 そんな親心を無下にするわけにはいかない……。


「役に立てば良いのですが……」


 私はスキルを魔石にかけた。


 村長は喜び、村人たちの楽しそうな宴は夜が明けても続いた。

 私たちは無事、村長との交渉を終え昼には村を後にした。


 こうして無事――どころか特殊な技術を王国に取り込むことに成功した。

 あの特殊な魔石は、材料など特殊な条件が揃っていないと作り出せないうえにスキルのレベルによっては使用回数に限度があるらしい。


 帰りの馬車の中で、カイルさまはそれを手土産に魔族を村長として認めるよう上を説得すると言っていた。代わりに、公爵家の下で庇護という名の監視を付ける。


「村長を騙すことになりませんか……?」


 私の言葉にアランが笑う。


「あの目玉村長、そんな細かいことを考えるようには思えないけどな!」


 確かにそうだろう……。

 意思の疎通ができるからと言って、価値観は明らかに違っていた。


「ララ、君は自分のスキルを過小評価しすぎているよ」

「過小評価…?」


 カイルさまの言葉に、私は疑問に思う。

 今までも言葉は通じなくともうまくいっている人たちは多かった。それに、村長夫妻は言葉がなくとも仲睦まじかった。


「これで、精霊だけでなく魔族とも君のスキルで意思の疎通ができるようになった。今まではそれぞれの言葉を知る者、精霊師やテイマーなど特殊なスキルを持っている者がいないといけなかった」


≪何ならスキル使わなくても、こいつだけなら言葉は通じるからな≫


 ヴィントが不気味そうに顔の前でヒラヒラと手を振った。

 それなら村長の言葉にすぐにスキルを使用したのは軽率だったのだろうか。


「精霊とつながりたい貴族は多いし、今回のことで異種族との交流で益が生まれることが権力者の間で知れることになる」


 そうなれば、とカイルさまの視線が私を射抜く。


「君の価値はずっと大きくなる」


 その私のスキルを褒めてくれているはずの言葉は、ずしりと重かった。

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