第14話 時は流れて
思い出に浸っていた。まだララと呼ばれていた頃のーー。
私の眠りは徐々に長くなっていく。
体を動かすにも傀儡を操るように不自然だ。
私はスキルを使い、たった一瞬だったが大陸を一つにまとめた。
言葉が通じぬからこそ、争いが起きる。意思の疎通がうまくいかない。
どんな種族であろうとも、個人間では分かり合うことが出来るはずだ。目の前で、子を思うものを殺すことなどできるはずがない。
そう思ったからこそ、私は種族間の戦争を止めるためにスキルを使い、倒れた。
私が眠っている間、何が起きたのかは分からない。
ただ、その惨状を見て、私が考えることは所詮は自分の周囲のことだけで、戦とはそういうものではないのだろうことだけを理解した。
だから、罰だろうか。
神の紋章が、精霊の祝福が、全て呪いへと変貌を遂げていた時、少しほっとした。
その呪いは私の周囲を荒れ果てた大地に変えていた。
国があった場所は廃墟と化し、人はどこにもいなかった。
女神ディアナを信仰していたはずの私の周りにいるのは、神に見放された魔族や魔物たちだけ。
いつしか私は「魔王」と呼ばれるものになっていた。
それでもはじめは希望があった。スキルのコントロールも呪いに蝕まれてままならない。そんな中で、この廃れた街で食べ物さえ手に入れることは困難だ。
だから人間である私はそう遠からず、力尽きるだろう。
だがその希望は、呪いによって打ち砕かれた。
どうにか呪いを抑えつける日々、そしてついに私の元へ「勇者」がやってきた。
私がスキルを使用した後、全ての言葉が破壊されてしまったという。
混乱する世界で、個々が協力し『共通語』を作り上げたという。同じ言葉を話していたはずの家族の言葉も分からない中、すぐに立ち上がったのは異種族同士で友だったものたちだ。
精霊と精霊士、モンスターとテイマー、獣人と人間、ドワーフとエルフ、小さな輪が広がってこうして呪いを解くべく勇者の一行がここに来たのだという。
「元々、言葉は分かりませんでしたから……。それに、こんな事になった世界であの魔石はとても貴重なものになりました。
ララさん、覚えていますか?」
突然に名前を呼ばれて、私はようやく勇者の顔を見た。
思い出そうとすれば頭に痛みが走る。余計なことに力を使ったせいで、呪いが暴走する。祝福だの、加護だの、そんなものは人の身には余るのだ。
でも、もうみんな生きているはずがない。それほどまでに長い時が経っていた。
けれども懐かしいその名前に、私の意識はまた思い出の中へと溶け込んでいった。
スキル翻訳師の後悔 夏伐 @brs83875an
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