第11話 魔族の守る村
件の村について、最初に私たちがした事は村長への挨拶!
「い、いきなり魔王に挑むようなものじゃないですか……??」
私の不安にみんな困ったような笑みを浮かべるばかり。アランが私の肩をどんと抑えて、脅すように私の目をじっと見る。
「こんな辺鄙で! 小さな村に! 貴族がやってきて! 村長に挨拶しない方が! 怪しい!」
「そうなんだけどぉ~……」
それでも、向こうは魔族だし……。言葉は通じると言っても、道理が通じる相手なのかどうかはまた別の話じゃない…?
「馬車の中だからいいものの、外では貴族令嬢らしくふるまってくれ」
カイルさまが緊張する私にそんな事を言う。この村に立ち寄る前に、私は美しいドレスに着替えていた。
設定は、そう!
旅行中、なんか気になったからこの村に泊まらせてもらうぞ村長!
この村で一番上等な建物はお前んちだからいいだろ、金は払う。
という横暴貴族芝居だ。
≪こういうのはな……≫
風のささやきが聞こえた時、馬車の扉がバタンと大きな音を立てて開いた。馬車の中から吹いた突風と大きな音に、遠巻きに見ていた村人も、外に出ていた村長の家族も驚く。
もちろん馬車の中にいる私たちもだ。
全員が固まる中、私とカイルさまだけが分かる声でヴィントが≪勢いが大事なんだよ!≫と自信満々に言い放った。
「これはこれは……私は村長の妻のアデルと申します。王都にあるお屋敷に比べたら小さな屋敷ですが、どうぞこちらへ。夫の元へご案内いたします」
最初に動いたのは村長の妻だった。
村長が魔族に成り代わっているというが、奥さんは私たちと同じ人族だ。緊張した面持ちで私たちを見つめている。
「うむ」
偉そうに彼女に返事をしたのはアランだった。
護衛騎士という役割では警戒されるということで、彼も貴族に扮して私たちに動向している。
≪成り上がり貴族感が様になっている……≫
ヴィントのつぶやきは、内緒だ。
カイルさまは小さく頷いている。
対話ができないタイプの魔族だった場合、足手まといの私は戦闘では良い的になってしまうだろう。逃げるために、アランには貴族に扮してもらった。
カイルさまでは上品すぎるし、ちょうど良かったかもしれない。
案内され、村長の元にたどりついた私たちは驚愕した。
人間の皮をかぶった魔族の術をやぶらなくてはいけない……そう思っていたが……。
「あの、……村長さまは魔族ですか?」
アランがぶしつけな質問を本人にぶつける。
村長の妻が、その言葉に焦っていたが、当の本人は部屋でさまざまな書類仕事を何本もの触手で片付けながら、一つしかない目玉をにこやかに閉じた。
『いやぁ、お恥ずかしながら』
「貴族さま、人間にも良い人間と悪い人間がいるように、魔族にも良い者がいるんです! どうか! どうか!!」
『また泣いて、どうしたんです?』
魔族はその触手の一本で妻の涙をぬぐった。
アデルさんが緊張した面持ちだったのは、貴族相手だからではなく、魔族を隠すため。
そして魔族とアデルさんの仲は悪くないが、意思の疎通はできていないようだ。
「ララ、魔族は何といっている?」
カイルさまの言葉にハッとする。そして私は、村長の言葉をそのまま伝えることにした。
そのままを伝えるのが私の仕事だ。
「魔族と言われて照れています。アデルさんが泣いているのはどうしていか聞いています」
私の言葉に驚いたのは村長夫婦だ。
『言葉がわかるんですか?』
「夫の言葉が理解できるんですか?」
ぎょろっとこちらを見る村長と、困惑しているその妻に私は頷いた。
「≪翻訳師≫ですから!」
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