第3話 精霊と人間と
私はアランが戻ってくる前に、何とかして精霊から『契約者』の情報を聞こうと彼に名前を聞くことにした。
「精霊さまというのも呼びにくいし、名前を教えてください」
≪それは契約者と決める≫
地面に立つと私とあまり背の変わらない風の精霊は、私よりもずっと幼い子供のようだった。体だけ少年で、中身はずっと子供。そんな雰囲気だ。
不満そうに腕を組むと私をジロリとにらむ。
≪で? お前に何ができるんだよ≫
「何って、私にできるのは話を聞くことだけよ」
≪それだけ?≫
「ええ」
色々と勉強したけれど、人探しに役に立つような魔法なんか使えないし、何か特技があるわけではない。どこの誰とも知れない精霊の契約者を探し出すことなんてできやしない。
できるとすれば、その『契約者』という人物がこの神殿のある王都に住んでいることを祈ることだけだ。
精霊は≪でも精霊の言葉が分かるし……≫≪人間のことは人間が探す方がいいのか……?≫などとぶつぶつ呟いている。
「ひとまず探し人の特徴を教えてください。これでもコネはある方ですよ」
私自身に力がなくとも、神殿にはそれなりに権力がある。精霊は神の使いとしてあがめられる信仰の対象でもある。
こんな風に気軽に話すのはどうかと思うけれど、神の使いの困りごとなら神殿の権力は使いたい放題だ。しかも私が住んでいる月の女神ディアナの神殿は、かなり民衆に好かれている。
日頃の行いだ。
≪まずなんかキラキラした固い皮を持っている≫
皮?
≪鋭くて長い爪を一本持っていて、魔法も使えて、優しい。飯をくれる≫
「あの……髪の色や身長なんかは……せめて性別だけでも教えていただけると……」
≪性別?≫
不思議そうな表情を浮かべる精霊に、私は問いかけた。
「そうです。せめて男か女かだけでも」
≪なんだそれ≫
精霊の様子に私は頭を抱えるしかなかった。精霊には男型と女型をしているだけで性別という概念がないという。
しかも人間の髪の色や、瞳の色なんかには興味がなく、どうやって区別しているのかと問えば――。
≪魔力の質だ≫
さもそれが当然のように、茫然とする私を精霊は鼻で笑った。
精霊から教えられた特徴を何度も考えてみても、その特徴を持つ者が人間だとは思えない。魔物じゃないの?
「あの……それって本当に人間?」
≪契約者はいつもたくさんの人間と一緒に行動していた人間でないはずがないだろう?≫
バカにするように笑う精霊は、ふいに表情を複雑そうなものに変えた。
「どうしたの?」
≪怒ってる≫
「誰が?」
≪契約者だよ!≫
焦る精霊をよそに、森にはたくさんの馬の蹄の音が響いた。遠くに見える旗印を見るに、王国直属の騎士団がやってきたようだ。
「こんな子供相手に、一騎士団を……?」
≪だまれ、俺は将来は大精霊になるんだ。それにお前よりずっと生きてる!≫
むきになった精霊に、私は、そういうところが子供なんだ、と言いたくなった。だが将来の大精霊さまにそれは不敬か、と思い直す。
それにあの騎士団の中に契約者がいるというなら好都合だ。
やはり神は私に味方している。日頃から良いことはしておくべきね!
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