第4話 契約

 アランを先頭にしてやってきた騎士団は、総勢50人ほど。

 その全員が私と精霊が話している姿を見て驚いている。


「ララ、暴走精霊を落ち着かせたのか?」


 アランが私に駆け寄って心配そうに、おどろきつつも声をかけてきた。


「ええ、神父さまがいつも言うじゃない、みんな話せばわかってくれるんだって」


「たしかに言うけども……」


≪おい人間、あれが俺の契約者だ!≫


 精霊が指さした先にはひときわ立派な鎧をまとった騎士団長がいた。

 騎士たちは、とたんにざわついていた。


 騎士団長が私たちに近づくと、精霊はそわそわと風を巻き起こしはじめた。

 落ち着いて! 私は精霊をにらんだ。


「神殿の巫女よ、精霊の言葉が分かるのか?」


「ええ……それだけですが」


「では君の精霊が暴走したということか?」


≪君のってなんだよ!!!! 俺はお前だけをずっと待ってたのに!!!≫


 精霊の巻き起こす風がどんどん強くなる。


「落ち着きなさい!」


≪人間んん……あいつに何とか言ってやってくれよぉ……≫


 泣きそうになっている精霊は、しょぼくれながらも私の腕を持ってぶんぶんと振り回す。完全にだだっこだ。


「精霊の言葉が分かるものは神聖力がある巫女と精霊と契約した精霊師だけだ。君の精霊が暴走したというのならそれを国に報告しなければならない」


「私じゃないです!」

「ララさまは無能です! がんばりやだけどッ!」


 私とアランは同時に叫んだ。

 何だか失礼な言葉が聞こえたが、今回は見逃すことにする。


「この精霊は騎士団長さま、あなたと契約したと言っています! あなたの精霊の管理方法がだめだったんじゃないですか!」


「は?」


 鎧で全身が覆われていて、騎士団長の表情は読めないが、厳格そうな雰囲気がやわらいだ。

 キョトンとした様子が伝わる。


 焦りつつ、私と精霊を見比べる。


 精霊は祈るように手を組んで騎士団長の言葉を待っていた。


「そんな記憶はないが……」


≪なんでだよ!!! 契約してくれる?って聞いた時に頷いたじゃないか!≫


 精霊が怒り、風がまた巻き起こる。精霊の近くにある地面などは少しえぐれはじめている。アランが私をかばうように精霊から私を少し引き離した。


 どうしてすれ違うのか。この子はただ自分の思いを伝えたいだけなのに……。


『スキル・翻訳を使用しますか?』


 突如頭に響いた声に、私は頷いて答えた。

 意味は分からないが、それが何か分かる。


 天啓というやつだ。


 私から小さな光が出てきて、騎士団長と騎士団、アランを弱々しくも包み込んだ。


≪ごはんくれた時にそう言った!!!! うんって言ったのに!!!!≫


「ごはん?」


≪いつも一緒に遊んでくれたのに何でそんなこというんだよ!! ――ん?≫


 騎士団長はポカンと精霊を見て、精霊も騎士団長を見つめた。

 全員が二人に注目している。


 それから精霊から聞き出した所によると、キラキラの皮は鎧、一本の爪は剣、まだ下級精霊だった頃に、何を言っているのか分からないが騎士団長は「うんうん」と精霊を可愛がっていた事実が発覚した。


 訓練のために森にいたという。

 精霊の話とは食い違いがない。


「それじゃあ、後の話は二人で行ってください。もう契約はされてるんでしょう?」


≪あとは名前だけ……≫


 精霊が恥ずかしそうに言った。

 騎士団長は鎧の上からとはいえ、頭をポリポリと書いて精霊にポツリと何かを伝えた。契約完了したというように二人に小さな緑の光が降り注いだ。


「それでは私とアランは神殿へ戻ります。失礼します」


≪おい人間≫


 去り際に精霊が私を追いかけて背中をバシンと叩いた。


≪それ、やるよ。俺はいつか大精霊になる精霊だ≫


 何のことか分からないが、私は騎士団にペコリと頭を下げて神殿へ向かった。

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