称賛するにはネタバレを避けられない。だからこそ本作を読んで欲しい。

 まずは長文になる事を許して欲しい。
そうして、誰が犯人だと言った明確なネタバレは書いていないが、本作に於ける語らずにはいられない良い点を挙げるとネタバレを含まざるを得なかったのでネタバレ有りのレビューとさせてもらった。

『ぼくは彼女の杖であり、彼女はぼくの杖だ』
 冒頭のその言葉一つだけで、この作品を読むべきだと強く思った。
その言葉に、同じ執筆者として悔しいとすら思った程だ。センスとしか言い様が無い。
それに最初にその印象的な言葉をぶつけて来た上で、最後にもう一度確かめるように、今度は優しくその言葉が出てきた時のハッキリとした読了感。

 読むべきだと強く思い、やはり読んで正しかったと更に強く思った。

 自分はミステリーという分野については造形が深いわけではないが、ミステリー一つ取ってもジャンルは多岐に渡るという事くらいは知っている。だが、本作は『魔眼』という力によって新たなミステリーのジャンルを開拓しているようにも思えた。正に古典的ミステリーと、現代的なライトノベルの融合と言ってもいいかもしれない。

 文章自体は良い意味で今風ではなく文学的な物ではあるが、主要登場人物達の柔らかい会話等に読みやすさを感じ、バランスが取れているように思えた。
特に好感を持ったのは、本作の主な舞台となる『夢占いの館』の構造や配置してある家具等の描写がかなり丁寧で、読んでいる内に気付けば頭の中に絵が浮かんでいる程だった。

 そうしてミステリーには欠かせないと言っても過言では無い三つの『ダニット』を本作は『魔眼』という設定を用いて上手にそれらを納得出来るように構成している。

ハウダニット・どうやって殺された?
ホワイダニット・何故殺された?
フーダニット・誰が殺した?

 本作でのそれらは大きく分けるとそれぞれ『ハウダニット→フーダニット→ホワイダニット』の順に明らかになっているが、どうやって殺されたかという事は見て分かる事で差し支え無い。だが立て続けに殺人が起きる所が本作のある種の肝でもあり、上手い部分でもあると感じた。何故ならばそれが『フーダニット』に大きく繋がっていくからだ。

 そうして、一番大事な『ホワイダニット』については、とにかく『魔眼』の良さが引き立ってくる。『魔眼』の力によってただの犯人の独白だけでは終わらないというのがまた面白みを増し、犯人の『ホワイダニット』により深みを増している。

 凍以外にも存在している『魔眼』を持つ女性と、それに纏わる設定については、この話だけで終わらせるのが勿体無い程に練られているように思えて、続き物として書き続ける事も出来るだろうと思ったが、一読者がそんな事を言うのも野暮という物であるし、本作は作品としてとても綺麗に終わっている。

『ぼくは彼女の杖であり、彼女はぼくの杖だ』
 それが続いていくという事だけで、本作は不思議な世界での二人で一人の主人公達の風景を切り取っただけなのだ。それだけで、改めて言うがとても良い読了感を得られた、嬉しさのような物も覚えた。

 ミステリー作品は数多くあれど、謎を解くという所に重きが置かれているように思える。だが本作はそこにミステリーというジャンルの垣根を越えて、ちゃんとしたドラマが存在している。
 
 それは本作ならではの『魔眼』という設定や主人公の記憶についての謎等があるからこその物だと思えた。本作をただのミステリーと呼ぶべからず、と言った所だろうか。本当のミステリーファンがどう思うかについては分からない。だが本作は少なくとも現代のニーズを上手く取り入れた挑戦的な作品である事は確かだ。

 本作が連載開始になった時の作者の近況ノートにて、本作は本来存在していた作品のリメイク且つリベンジだと書いているのを目にしたが、元々の作品を読めておらず、比べる事が出来なかったのが惜しいと思ってしまった。
だがおそらく、そのリベンジは果たされているのだろう。

 ミステリーという難しいジャンルに挑戦し、書き終え、更に挑戦的である本作を、自分はとても好ましく思った。それはこの長文を読めば分かる事だと思う。もし本作を読み終えて、このレビューに辿り着いた読者がいたならば、きっと同意してくれると信じて、本作のレビューを終わろうと思う。

 よるか先生、良い作品をありがとうございました。

その他のおすすめレビュー

けものさんさんの他のおすすめレビュー10