哺乳類の托卵
「良いニュースと悪いニュースがあります。」
検査結果のディスプレイから顔を上げた医師は言った。
「まず良いニュース。あなたは妊娠しています。おめでとうございます。」
「えっ!」
「次は、悪いニュースですが、よろしいでしょうか。」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は結婚していないし、そういうことをする相手も…。」
「ペットは飼ってらっしゃいますね。」
「え、それじゃあ妊娠してると言うのは…。」
「はい、お腹にいるのは、人間ではなくペットの子になります。」
悪いニュースを言い終えた医師は、具合の悪くなった患者をベッドに運ぶのだった。
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犬や猫の座を脅かす勢いで飼う人が増えているモルモットに似たペットにはいくつかの特徴があった。
一つは雌雄同体であること。そして鳥のカッコウのように、別の種に自分の子を育てさせるのだ。
野生では、小型の豚を宿主として、自分の子を妊娠させる。自身の体内の受精卵を、どうにかして対象の子宮に送り込む。いわば、自然の体外受精のようなことが行なわれていることになる。その変わった生殖方法は学術的に興味深いが、ペット会社にとっては宿主となる代理母さえ用意すれば大量生産が可能になるというメリットでしかなかった。
大量に飼育され、人間社会に溶け込んでいったペットは、繁殖期になると身近にいた動物に対して生殖行為を行った。それが犬や猫のこともあったが、人間であることもあった。
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「気が付かれましたか。」
医師は、目を覚ました患者に声をかけた。
続けて、
「悪いニュースは先ほど言った通りですが、早めに処置することで対応可能です。」
と言い、患者が決断するのを待った。時期も早いし、人間よりも小さな動物の胎児なので、対応も人間の場合よりもかなり簡単にできる。
しばらく黙って考えていた患者は、気持ちを固めたのか顔を医師の方に向ける。
「私、産みます。」
「えっ。」
「だって、ミーちゃんの赤ちゃんなんだから、私が産んで育てます。」
患者の考えが変わらないことを確認した医師は、知り合いの獣医に相談しなくてはと思った。
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