性別の無い世界での人工授精
「人間にも魚のようにオスとメスがいると考えられます。」
どうやって説明したらいいのだろうかと考えた末に、なるべく正直にわかりやすく話すことにした。ただ、転生についてだけは秘密だ。
前世のぼんやりとした記憶によれば、その世界の人間は2種類にわけられる。魚のメスのように卵を持つ種族と、オスのように卵に授精する種族だ。外見も異なる2つの種族がペアになり、子供をつくる。
この前世の知識があったので、この世界で子供が生まれないペアについて原因らしきものを推測することもできた。つまり、人間も外見上は同じであってもメス型とオス型に分けられるというものだ。これは、子供が生まれるペアでは、子供を産むのは片方に限定されることからも、ある程度裏付けられる。そして、子供が生まれないペアは、メス型同士もしくはオス型同士だろうと。
「なんと、そのような世迷いごとを。」
と神官らしき人が怒ったように言う。大きな丸テーブルには、正面に王子、他に神官や文官らしき人が座っている。武官らしき人たちは周囲に立っていて、僕の背後にもいる。
「まあ、まずはこの者の話を聞いてみましょう。何年も子供が出来なかったペアに、何らかの方法で産ませることが出来たのは事実です。」
これは文官もしくは王子の従者らしき人。
「人間の見た目からはわかりませんが、仮に魚のようにメス型とオス型がいたとすると、子供が産まれるのはメス型とオス型の組み合わせの場合だけです。」
そこまで言って、様子をうかがう。先ほどの神官らしき人のように、怪しげな者を見るような目で見ている人もいるが少数なので、大丈夫かと思って話を続ける。
「オス型同士の場合は無理ですが、メス型同士の場合であれば、ある方法を使うことで子供を産むことが出来るようになります。絶対というわけではありませんが。」
「それが怪しげな邪教の技だというのだ!」
先ほどの神官らしき人。
「お待ちを。聖典にも子のいないペアに祝福を授けた逸話もあるように、子を授かる為の行為は神の教えにも沿ったものではないでしょうか。」
これは別の神官らしき人。この後、おそらくは宗派の違いによる論争的な言い合いが続くのだけど、王子によって黙らされる。
「さて、知ってのとおり我とパートナーの間には子供ができぬ。なので、何かできることがあれば藁にもすがりたいのだ。」
と王子。ただ、後でわかったことだけど、事前の調査はすんでいて、僕の処置で子供が産まれたペアに聞き取りもしているし、最近の顧客は王子の意を受けてのものだったらしい。なので、この時の呼び出しは形式的なものというか、周囲への説明の為に行われたようだ。もちろん、僕はそんなことは知らされてなかったし、そもそも断る選択肢はなかったのだけど。
幸いにして、王子とパートナーはメス型だったので、僕の手法つまり人工授精によって妊娠させることは出来そうだった。また、王子のパートナには結婚して子供がいるオス型の兄弟もいたので、授精に使う精液の問題も解決した。
当初は秘密にされていたけれど、王子の妊娠と出産にともなって人工授精が正式に神殿によって認められた。
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