アイテムボックスとエネルギー保存則

ゲームのアイテムボックスみたいな装置を手に入れた。少し大きめのスマホくらいの板状の装置で、上に乗せた物を収納することができる。出すときは、画面に表示されたインデックスから選択すれば、取り出せる。しかし、この取り出す時が問題なのだ。


アイテムボックスみたいな物をくれた謎の人物(別世界人?)によると、簡易型の標本採集装置なので取り出す時には専用の装置を使うかそのまま大型の装置に移すのが普通らしい。

彼(または彼女)曰く、

「この装置は、物の状態をそのまま保管することができる。だから、君にもわかるように言うと、たとえば温かいコーヒーを入れたら取り出す時も温かい。」


「それは時間の経過が無いということかな?」


「うーん、実際には違うけど、そういう理解でも問題はないかな。ただ、やっぱり危険性はあるので、考え直すのなら別の物の方がいいと助言する。たとえば金塊。」


「いや、やっぱりその装置がいい。危険については承知の上だ。」


僕は偶然出会った彼(または彼女)の別世界つまりこの世界での採集の仕事に協力した報酬として、採集に使ってた装置の予備があったら欲しいと希望した。金塊とかお金になるものもいいけど、不思議な装置があったら手に入れたいと思う。

人には見せられなくても、現実にゲームみたいなアイテムボックスがあったらすごい。

なので、助言があったにもかかわらず、希望を変えることはなかった。だから、後に起きたことは僕の自業自得でもある。

彼(または彼女)の話によると、熱などだけでなく運動エネルギーも保存されるということだ。あまりよくわからなかったけど、たとえば電車のなかで収納した物は、電車の速度が保存されてるということのようだ。だから電車など移動中に収納することは避ける必要があるし、取り出すことも避ける必要がある。収納も取り出しも静止状態で行わないと、危険がある。つまりそういうことなのだろう。

この運動量が保存されるというのは、昔読んだSFでもあった。それだと超光速飛行の為の無慣性状態になって、解除すると最初の速度のままになるというもの。それを使った兵器も出てきて、敵の基地がある惑星に、別の惑星を無慣性状態で持って行って解除すると元の速度で敵惑星にぶつかるという壮大なものだ。惑星は太陽を周回してるから、適当な状態で無慣性状態にすればうまいこと目標にぶつけられる。


僕は手に入れたアイテムボックスを使って実験した。収納できる物は、個体が基本だけど、カップに入った水などの液体は収納できるし、風船を膨らませて収納することもできるので気体もできる。ただ液体だけや気体だでだと無理なようで、固体と付属する物質ならできるということのようだ。また、少しぐらいならはみ出していても収納できる。

違和感に気が付いたのは、収納した物をすぐに出すのではなく、ある程度の時間をおいてから出した時だ。時間経過での変化を見るためにカップに氷を入れて収納して、しばらくしてから出してみた。

氷は入れた時のままで溶けたりはしていなかったのだが、出す時に少し動いたのだ。収納時も取り出し時も静止状態だから、動いたりすることは無いはずなのだけど、なぜか少しではあるけど動く。

どうも収納時間と比例して動くみたいなので、試しに丸一日してみたら、ほとんど動かなかった。なので時間と比例してるのでは無さそうだった。


事故が起きたのは、12時間の収納を試した時だ。

あとになってわかったこともふまえて何が起きたかを簡潔に書くと、時速3000キロの氷とカップが家の壁を破壊した。幸いにして被害は家の壁だけだったので、あまり大きな事件にはならなかった。僕は警察に、何があったか全くわからず、急に壁に穴が開いたと説明して、原因不明のまま一応は決着した。ネットで、現代のツングースカ大爆発か?みたいな記事にはなったり、僕が過激派でロケット砲でもつくってたのではと陰謀論がかかれたけど、火薬も何も見つからなかったので警察の疑いは早々にはれていた。


何が起きたのかについてはわかってみれば説明するまでもないのだけれど、収納時の運動量が取り出し時に開放されただけのことだ。地球は自転していて、日本の位置だと時速にして約1500キロにもなる。そして半日後には逆向きに同じ速度で移動してるので、相対速度としては約3000キロにもなるわけだ。

方向としては自転の向きの逆になるので、西側に向かって飛び出したことになる。実験した時には西側には壁しかなかったので、被害はその程度で済んだ。


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