異世界までの距離

「だいたい1じゅう秒くらいかしら。」

異世界に向かう宇宙船みたいな乗り物の中で、異世界までどのくらいの距離なのかを聞いたところ、そんな答えが僕を困惑させた。

「えっと、10秒ってことかな。そんなにすぐにつくんだ。あ、でも出発してから10秒はたってるような。」

「ちがう。時間ではなく距離。」

「距離の秒なんてあったっけ。角度なら、度の下に分や秒があったけど。」

と首をひねっていると、

「秒ではなく、じゅう秒ね。じゅうは重いという字。」

「重秒か。って、そんな単位あったけ。」

さらに首をひねることになった。


それから時間をかけて説明してもらった結果、なんとかわかったので記録しておく。

1重秒というのは、1光秒と同じで約30万キロメートルになる。それなら最初から光秒と言えばいいのにと思ったのだけど、異世界への移動方向には光は進めないので光秒は使えないとのことだ。

光が1秒に進む距離が光秒であるように、重力が1秒に進む距離が重秒になる。通常の空間方向の距離であれば、光秒と重秒は同じになる。細かく言うと、平坦な空間では同じということだ。つまり重たい星の周辺など、空間が歪んでいると光秒と重秒は異なる。

極端な例として、ブラックホールの中から光は出てこれないので光秒による距離では無限大になるが、重力なら外部に伝わるので重秒は有限の値をとる、らしい。このあたりのことは、もっと沢山説明されてのだけど、かろうじてわかったのがこのくらいだ。


重力が別の次元方向にも伝わるのではないかというのは、この地球でも理論としては存在しているらしい。4つの力のうちで重力だけが極端に小さいのは、重力だけが余剰次元方向にも伝わっているためだというものだ。ただそうすると逆2乗の法則ではなく、逆3乗とか逆n乗になるのでは、と思って質問したのだけど、その説明はチンプンカンプンだった。質問自体は褒めてもらえてのが、せめてもの慰めだ。


結局のところ、異世界までの距離はだいたい1重秒で、それは非常に粗雑な類推を許容するならば約1光秒で約30万キロメートルになる。そこまでを、この船は2日ほどかけて移動する。

次に彼女、つまりこの船に教えてもらったのは、隣の宇宙である異世界のちょうど同じ場所に地球と同じような星があるのは偶然ではなくて、理由があるということだ。


宇宙が誕生したときに、複数の宇宙が同時に誕生する。そして太陽などの恒星は、ガスが重力によって集まってできるのだけど、重力というのは隣の宇宙にも伝わってくるため、たいていの場合は同じ場所に星ができるし、相対速度も同じなので、星の位置は宇宙が違っても同じになるらしい。地球のような惑星でも同様で、小惑星とかになると異なることもあるということだ。

だから異世界の地球に行っても星座は同じで、もしかしたら月の個数は違うかもということを彼女は語ってくれたし、僕も実際に体験することになった。


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