第2話:再会
時が経ち、中学生になった。一学期が終わると、俺は親の仕事の都合で引っ越すことに。
「ってことは転校ってこと?」
「そうなるな」
「マジか」
二学期からは桃花中という中学に通うことになった。転校初日、自分のクラスに入ると彼女によく似た女子と目が合った。一瞬幻かと思ったが、気まずそうに目を逸らされる。自分の席はその彼女によく似た女子の隣だった。彼女は担任から小桜さんと呼ばれていた。俺の知っている彼女の苗字は清水だったが、養子縁組をしたのなら苗字が変わっているはずだからまだ本人ではないという期待は捨て切れなかった。
「よろしく。小桜さん」
「ヨロシクオネガイシマス」
「……なんでカタコト?」
「その子、男の子苦手だから。緊張してるんだと思う」
前の席の女子がフォローを入れてくれた。
その情報は初めて聞いた。それは俺のせいだろうか。それともやはり、別人なのだろうか。
「そうなのか。……前の学校で使ってた教科書と違うらしいから、しばらくは見せてもらいたいんだけど、平気か?」
「ダイジョウブデス」
「……本当に大丈夫か?」
「ウ、ウン」
「……じゃあ、近づくからな」
離れていた机をくっつけて授業を受ける。途中彼女はこちらを気にするようにチラチラ見ていた。授業が終わると、閉じたノートには小桜愛華と名前が書かれていた。苗字は違うが、名前は同じだ。やはり彼女はあの時転校してしまった清水愛華本人なのだろうか。
「なぁ、小桜さんってさ」
「な、何?」
「……旧姓が清水だったりする?」
「へぇっ!?わ、私は生まれた時から小桜ですけど!?」
明らかに動揺する彼女。その反応からやはり本人らしいことがわかり、思わず笑ってしまうとクラスメイトが集まってきた。
「知り合いなの?」
「あ、い、いや……その……」
「……友達。……だと、俺は思ってるけど。小桜は違うのかよ。気付いてるのに他人のフリとかして」
「わ、私も……友達だと思ってるよ。今は」
「あ?"今は"?」
「……ごめんね」
「……別に怒ってねぇよ。まぁ、ショックだけど。かなーりショックだけど」
「本当にごめん」
「……いいよ。許してやる。俺はずっと前から友達だと思ってたよ。……今も変わらない。だから、許す」
本当は謝らなきゃいけないのは自分の方なのに。彼女の方から謝られてしまうと、何をどう謝ればいいかわからなくなり、謝罪の言葉が引っ込む。
「……ありがとう」
「……おう」
沈黙が流れる。やはり自分も謝るべきだと思い直し、口を開く。すると彼女後ろから一人の女子が飛びついた。
「なーんか妬いちゃうなぁー」
「わっ」
後ろから彼女に抱きついた女子は、彼女の頭に顎を乗っけて俺を睨みながら言う。
「転校生くんさぁ、マナとどういう関係なわけ?」
「小三くらいまで小学校が一緒だったんだ」
「ふーん」
明らかに敵視されていた。
「で?小桜、こいつはお前の何?恋人か?」
「あ、ううん。彼女は
「ふぅん。友達ね」
恋人ではないことにほっとすると、小森は不満そうに唇を尖らせながら棘のある声で自己紹介をした。
「マナの"親友"の小森希空です。よろしくね。転校生くん」
「……よろしく」
小森が彼女に向ける感情はただの友情ではないのは明らかだったが、彼女は気付いていないように見えた。
「……あ、そうだ。小桜、校内案内してくれない?俺、転校したばかりだからトイレの場所も分かんないんだわ」
「あぁ、うん。じゃあ次の休み時間からちょっとずつまわろうか」
「……ボクが案内してあげようか?桜庭くん」
「ありがとう。けど大丈夫だよ。小桜に案内してもらうから」
「マナ、男の子と二人きりだと落ち着かないでしょ?ボクもついていってあげる」
「えっ、う、うん……ありがとう……」
「……私もついて行っていい?マナ」
「え、う、うん」
小森ともう一人、
「——桜庭くんには悪いことをしたって、ずっと後悔してた。住所も連絡先も分からなくて、もう謝る機会なんてないと思ってた。こんな偶然ってあるんだね」
トイレから出ると、彼女達がそんな話をしているのが聞こえた。「運命ってやつかもな」と茶化すと、辺りが静まり返った。調子に乗りすぎたと気づき恥ずかしくなる。
「な、なんか言えよ……! 俺が恥ずかしいやつみたいになるだろ!」
「実際恥ずかしいやつだと思う」
「厨二病ってやつ?」
「う、うるせぇ」
「……運命……か」
彼女の顔が曇る。暗い過去がある彼女に運命なんて言葉は酷だったかと察し、謝罪する。すると彼女は首を横に振って語った。今の私はすごく幸せなんだよと。そしてこう締めくくった。「今日、君に再会出来て、もっと幸せになっちゃった」と。あの日と変わらない——いや、あの日よりも眩しい笑顔で。
「……明るくなったな。俺の知ってるお前じゃないみたいだ」
「……嫌?」
「ううん。……今の方が良い」
それは本心だった。しかし、複雑だった。すると彼女は言う。「最初に笑い方を教えてくれたのは君だよ」と。もしかして彼女も俺のことを……と期待しかけたところで、小森が、出会ったのはお前の方が先かもしれないが一緒にいる時間は自分の方が長いんだとマウントを取ってきた。
「……小森さん、親友とはいえちょっと距離近くないか?」
「えー? 普通の距離ですけどー? ねぇ? マナ? いつもこんな感じだよね?」
「え、えっと……」
困ったように笑う小桜。
「あぁ、そうか。確かに女同士で友達ならそれくらい普通か」
嫌味を言ってやると、小森は俺を睨んだ。
「希空、桜庭くんは良い人だよ。そんなに警戒しなくて大丈夫だよ」
「……彼は、マナの友達なんだよね?」
「友達だよ。……私はそう思ってるよ。君のこともね」
なんだか含みのある言い方だった。その言葉の真意に俺は気付けなかったが、小森は何かを察したらしく、彼女を離した。そして俺に手を差し伸べ言った。
「マナの友達同士、仲良くしようね。桜庭くん」
「……おう」
「まぁ、正確には、君は友達でボクは親友ですけど」
「いや、今友達って言われてたけど」
「うるさいなぁ」
握手をするが、彼女の敵意は消えない。むしろ増した。
「痛い痛い痛い! おま、意外と力強いな!?」
「うるさい。マナになんかしたら殺すからな」
「なんもしねえよ。てか、お前もな? ただの友達なんだろ?」
「友達じゃなくて親友ですぅー」
「一緒だろ!」
「一緒じゃないし!」
言い争う俺達のことを、坂本はどこか楽しそうに、小桜は苦笑いしながら見ていた。小森が何故そんなに俺に突っかかるのかよく分からないというような顔だった。
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