第10話:俺の告白
それから二日後の放課後。彼女を呼び出して告白した。
「もう分かってると思うけど、俺はお前が好きだ」
彼女は視線を逸らし、胸の前で手を握って泣きそうな声で「ごめんなさい」と答える。
「……あぁ、そう言われるのは分かってたよ」
「君のこと、嫌いなわけじゃないの。むしろ好きだよ。けどその好きは友達の好きで……」
「うん。分かってるよ」
「……私、自分に向けられる人の恋心が怖いんだ。友達っていう領域のその先に踏み込まれることが、怖いの。誰かの特別になることが怖い。でも……」
「でも?」
「……昨日、希空にも告白されたの。同じように断った。けど、希空が私以外の人と付き合うのも嫌で……それが恋なのかなんなのか、まだよく分からないんだ」
「……俺のことはどうなんだ? 俺が誰かと付き合うかもしれないって考えたら、嫌な気持ちになるか?」
「桜庭くんは……君に恋人が出来たら寂しいかな。翼に彼氏が出来た時もそうだった。別れた時は、もう二度と恋人なんて作らないでほしいと思ったんだ。だから……希空に対する気持ちも同じだと思う」
本当にそうだろうか。俺にはなんとなくそうは思えない。
「なぁ、小桜」
「な、なに?」
「……手、握っていいか?」
「えっ、えっと……」
「それ以外のことはしないし、不快に思えば離しててくれて構わない」
彼女に手を差し出す。彼女は小さな手でその手を取り、挨拶を交わすように握手をした。
「手までちっせぇなぁ……」
「君が大きいんだよ」
「比べてみようよ」
開いた手に、彼女が手を重ねる。一回り以上小さくて、そのサイズ感の違いに思わず笑ってしまった。
「ちっせー! 赤ちゃんかよ!」
「うるさいなぁ……もう」
彼女はからかわれたことにムッとしながら、重ねていた手をそのまま閉じて握る。思わずドキッとしてしまうが、彼女はあまり動じていない様子で「男の子の手って、硬いんだね」と俺の手を見ながら呟いた。そしてそのまま「私、多分、男の子より女の子の方が好きなんだと思う」と続ける。
「そんな気はした。けど"女の子の方が"なのか?"小森が"じゃなくて?」
「……それはまだちょっと分かんない」
「本当に分かんないのか?」
「……桜庭くんは、私が希空に恋してると思ってる?」
「さぁな。俺はお前じゃないから分からん。……お、坂本!」
心配して見にきたであろう坂本に向かって彼女を投げつける。受け止めた坂本は「ちょっと桜庭くん!女の子投げ飛ばすとか何考えてんの!」と怒る。
「悪い悪い。小桜、どうだ?」
「えっ、あっ……。翼、手握っても良い?」
「なに? どういう状況?」
「私が好きなのは女の子なのか、希空なのか、確かめたくて」
「はぁ……? なに?」
どういうこと?と坂本は苦笑いする。
「翼の手を握ってもドキドキするのかと思って。さっき桜庭くんに手を握られた時はドキドキしなかった」
「手握られたって……」
坂本からあんた何してんのよ最低と言わんばかりの冷たい視線を向けられ、目を逸らす。
「……下心は無かった」
「ほんとか?お前……」
「……」
「まぁ、いいよ。手くらい。はい」
差し出された坂本の手を小桜が握る。しばらく沈黙が続いていたかと思えば、彼女の顔がみるみる赤くなっていく。
「……マナ、なんかすっげぇ顔真っ赤だけど、何?どうした?私が好きなの?」
坂本が彼女の手を握ったまま、悪戯っぽくそう言うと彼女は小森に言われた言葉を思い出したと恥ずかしそうに語った。
「好きな理由をたくさん挙げられて『だから愛したいんだ』って」
「「うっわ。キザだな」」
坂本と声が重なる。するとそこに、小森がやってきた。
「翼ー、いつになったら戻って——どういう状況!?」
小森の声が聞こえた瞬間、彼女は顔を隠すように坂本の胸に埋めた。それを見た小森は「マナに何したの」と俺を睨む。
「別に何も」
「ドキドキするか確かめてみようとかなんとか言ってマナの手握った」
「はぁ!?ちょっと!何してんの!?最低!」
「わ、私が頼んだんだ。希空に対する気持ちを確かめたくて。希空以外の人に手握られてもドキドキするのか確かめたくて」
「なんだよそれぇ……」
小森はむっとしながら坂本から彼女を引き剥がして自分の腕の中にしまい込む。坂本と一緒にその場を離れ、校門を出ようとした時だった。
「嫌! 離して! 気持ち悪い!」
彼女のそんな声が響いてきた。
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